シンガポールで開かれていた第三回東アジアサミットは、地球温暖化対策として森林面積増加の数値目標などを盛り込んだ「気候変動、エネルギー、環境に関するシンガポール宣言」を採択した。
東アジアサミットは東南アジア諸国連合(ASEAN)や日本、中国、韓国、インド、オーストラリアなど十六カ国で構成する。将来の地域統合構想「東アジア共同体」の実現を目指し、二〇〇五年から始まった。
しかし、各国の政治体制や経済事情などが異なるため、過去二回のサミットは具体性に欠ける内容だった。今回、温暖化対策で数値目標などを示したことは大きな成果といえるだろう。
シンガポール宣言は、ポスト京都議定書の交渉への積極的な参加をうたい、十二月にインドネシアのバリ島で開催される気候変動枠組み条約締約国会議への支援などを表明した。
発展途上国の多いASEAN諸国と日本などの先進国が、世界的な緊急課題となっている温暖化への危機感を共有したことは意義深い。特に温室効果ガスの主要排出国にかかわらず、発展途上国としてこれまで温暖化対策に消極的な姿勢だった中国とインドも同調したのは評価できる。
具体策としては、温室効果ガスを吸収する森林面積を二〇年までに十六カ国合計で千五百万ヘクタール増やす。〇九年までの自主的な省エネ目標づくりなども打ち出した。着実な実行に期待したい。ただエネルギーの利用効率を三〇年までに25%改善する地域目標の設定も目指したが、インドなどの反対で見送られた。
日本は大気汚染対策などで二十億ドル(約二千百八十億円)規模の資金拠出や、森林保全のため日本の観測衛星の情報活用などの環境協力策を表明した。温暖化問題が最重要テーマとなる来年の主要国首脳会議(北海道洞爺湖サミット)に向け、足元の東アジアでの貢献をアピールする狙いだろうが、実効性のある支援にしなければならない。
中国は東アジア各国が温暖化対策を話し合う国際フォーラムを来年、中国で開くことを提案した。この問題で途上国のまとめ役を果たす考えとみられる。
将来の東アジア共同体構築を視野に入れた主導権争いも含め日本や中国、インドなどの思惑が複雑に絡み合っているようだが、今回の環境協力は共存共栄を目指す東アジアにとって試金石といえる取り組みである。環境対策で競い合うなら歓迎だ。そのうえで各国が連携強化を図り確実に成果を挙げる必要がある。
京都大再生医科学研究所の山中伸弥教授らのチームが、人の皮膚細胞を遺伝子操作してさまざまな細胞になる万能細胞をつくることに成功した。自分の細胞を培養し失われた組織の細胞や臓器を再生する「夢の医療」の実現に迫る画期的な研究だ。
これまで万能細胞として再生医学の分野で注目されてきたのが、受精卵からつくられる胚(はい)性幹細胞(ES細胞)である。しかし一人の人間に育つ正常な胚を壊してつくるため、倫理的な問題を解決する必要があり、研究には厳しい制約が設けられている。
山中教授らは、大人の皮膚細胞に特殊なウイルスを使い四種類の遺伝子を組み込むことで人工幹細胞に変化させ、ES細胞と同様に多くの種類の細胞に成長する万能細胞とすることに成功した。
昨年はマウスの皮膚細胞を使い、人工幹細胞をつくることに世界に先駆け成功しており、人の細胞での実現が期待されていた。病気の原因解明や新薬の開発などで早期の利用が考えられる。移植された場合、拒絶反応の心配がないのがメリットになる。
しかし、医療分野での実用化には安全面などでクリアすべき課題が多い。組み込むのに使うウイルスには発がんの危険を高める作用があるうえ、使われた遺伝子もがん遺伝子で、今後は別の方法を開発する必要がある。万能細胞から求める細胞や組織にする制御技術も未完成だ。
倫理上の問題も重要である。研究が進むと、皮膚細胞から精子や卵子ができる可能性があり、研究の規制の是非や範囲について検討が必要となろう。米ウィスコンシン大でも皮膚細胞から作製に成功しており、万能細胞研究への関心は高まろう。
(2007年11月23日掲載)