2007年11月22日

◆ 「開かずの踏切」と最適制御


 「開かずの踏切」というものがある。これを解決するために、物理的な方法が提案されることもあるが、情報工学的に「情報だけ」で解決する方法もある。その場合はほとんどコストがかからない。

 ──

 まず、最近の記事から。
 「開かずの踏切」で待ち時間表示実験、イライラ解消目指す
 「開かずの踏切」のイライラ感を減らそうと、国土交通省は今月28日から来年1月30日にかけ、電光掲示板で「あと何分で開くか」を知らせる実証実験を都内で行う。
 踏切の待ち時間と、近くの回り道の利用状況の関係などを検証し、全国への導入促進を検討する。
 先頭車両につける全地球測位システム(GPS)で列車の位置情報をつかみ、速度や運行ダイヤなどを基に、踏切が閉じてから開くまでの予測時間を割り出す。
 1時間に最大40分以上閉まる「開かずの踏切」は全国に約600か所ある。国交省は、列車の速度に合わせて遮断時間が短くなる「賢い踏切」の導入などを進めている。
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20071121i501.htm?from=main5
 さて。「開かずの踏切」というのは、前にも問題になったことがある。で、次のような対策が提案されることもある。
 「踏切を立体交差にする」
 これだと、抜本対策になるが、線路を高架に上げたりして、ものすごい巨額の金がかかる。
 そこで、私は前に、次のような提案をしたことがある。
 「途中に停留する場所をつくる。すなわち、横断の島」( → 泉の波立ち 10月04日

 以上は、物理的な提案だ。
 一方、情報工学的な方法も考えられる。先に述べた記事の手法も、情報工学的な方法と考えられる。ただしこれは、「開かずの踏切をなくす」というものではなくて、「開かずの踏切はそのままだが、現在状態を明示する」とういうものだ。

 ──

 さて。いよいよ本題。
 「情報工学によって、開かずの踏切をなくす」
 ということも可能である。では、どうやって?
 方法は、ごく簡単だ。
 「開かずの踏切をなくすことを、設定の際の目的に加える」
 これだけである。

 現状では、そもそも、「開かずの踏切をなくすこと」が設定の際の目的に入っていない。もともと目的になっていないから、まるきり無視される。その結果が、「開かずの踏切」である。
 だから、「開かずの踏切をなくす」ということを、目的に加えればいい。それだけである。

 詳しく説明しよう。
 現状では、列車のダイヤを設定するために、いろいろと条件を設定する。「一時間の乗客数を最大化する」とか、「待ち時間を最小化する」とか、そういった条件だ。
 ただし、この条件には、「開かずの踏切をなくす」ということは含まれていない。そこで、「開かずの踏切をなくす」という条件を加えて、新たにダイヤを作り直せばよい。
 その際、具体的には、次のことが必要となる。
 「開かずの踏切の地点では、上りと下りがほぼ同時に通るようにする。上りだけとか、下りだけとかの場合には、列車の通過時刻を少しずらす。そのことで、上りと下りがほぼ同時に通るようになる。結果的に、上りも下りも通らない時間帯ができる。かくて、踏切が開く」

 一般的に言うと、開かずの踏切とは、次の状態である。
 「上りが通過した。今度は下りが通過した。また上りが通過した。そのあと下りが通過した。……いつもどちらかが通過しているので、なかなか開かない」
     ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_

 これを情報工学的に解決すると、次のようになる。
 「上りと下りが同時に通過した。その後、上りと下りがどちらも通過しない。おかげで、踏切が開く」
   = = = = = = = = = 

 こうして、条件設定の方法がわかった。そのあとは、まあ、コンピュータとプログラムで、最適のダイヤを組めばいい。
 するとどうなるか? ダイヤに制限が加わることで、一時間あたりの乗客運搬可能数は減るだろう。列車の本数も減るだろう。ま、5%ぐらいかな。しかし、そのおかげで、何らコストの負担なしに、開かずの踏切という問題が解決する。かくて、線路を高架にする巨額の負担を免れる。だから、そのお金で、乗客運搬可能数を増やすための措置を取ればよい。(たとえば駅のホームを長くして、一列車あたりの車両数を増やす。あるいは、線路を複々線にする。)
 現実には、少子化のせいで、日本の働き手の人口はどんどん減少している。となると、乗客運搬可能数を増やすための措置というものは、もともと必要がないはずだ。
 だったら、上記の情報工学的な方法を取るだけで、あらゆる問題は解決することになる。

 結論。
 「情報工学は大切だ」というふうにしばしば言われるが、ソフトや機械設計など、ありふれた場で使われるだけである。
 しかしながら、ありふれた場以外に、もっと生活に密着した場面で、意外な方法で情報工学を使うべき場がある。
 人々はしばしば、「情報工学を使うべきだ」ということにすら気がつかないことが多い。技術そのものの良し悪しよりも、技術をいつどこで使うかということに、もっと頭を使うべきだろう。技術者が優秀な技術を開発することよりも、「技術者をここで使え」と判断する管理職の発想こそ大切である。
 日本のITで一番欠落しているのは、情報技術そのものではなくて、情報技術の使い方である。
posted by 管理人 at 19:46 | Comment(4) | コンピュータ_09
この記事へのコメント
開かずの踏み切りになる原因は、ダイアが乱れるからでは? 誰かがドアに荷物を挟み込むとか、無理やり乗り込もうとして、ドアが閉まらないとか、それだけで30秒前後は遅れると思います。
そうなると、いくら計画(通過時間の同期)はされていても、結局は遅延による非同期が発生するので、計画倒れです。
Posted by Rockwell at 2007年11月23日 07:25
失礼いたします。いつも楽しく拝見し、参考にさせていただいております。
南堂様が今回取り上げておられる題はコンピュータで言うバッファ(緩衝地帯)の考え方ととらえてよろしいでしょうか?随分昔の話題ですが、いわゆるコミケが肥大化し、巨大駐車場が満杯になるほどの待ち人数があったにもかかわらず「1列1人づつの入場」を押し通したために列が崩壊し、駐車場がパニックになりかけた件を思い出しました。次回には(駐車場の)待ち人数が10数人単位の列にブロック分けされ、それ単位で入場する事で見事秩序が回復されていたことに感嘆した記憶があります。きっとスタッフの方に(南堂様のように)複数の視点から考察し発想を出す方がおられたのかと今にして思います。
よもやま話失礼いたしました。
寒い季節ですのでお身体をこわされぬよう頑張ってください。
Posted by TAIYO at 2007年11月23日 09:26
どうもこんにちは。
>>Rockwell様 30秒かそこらの狂いなら、中央司令室や列車同士の通信によるすり合わせでのダイヤ調整で、なんとかなるのではないでしょうか。日本の列車運行システムは、高いレベルにあると私は信じています。
Posted by ごんだぬき at 2007年11月23日 11:56
> 誰かがドアに荷物を挟み込むとか、無理やり乗り込もうとして、
> ドアが閉まらないとか、それだけで30秒前後は遅れると思います。

30秒ぐらいの遅れは、どこかで吸収できるものです。
  ・ 速度を上げたり下げたりする。
  ・ 反対車線でも時間をずらす。(駅で待ったり)
  ・ もともと踏切の間隔は5分ぐらいあるから、30秒縮まっても問題ない。

なお、どうしても吸収できなくなったら、踏切を閉鎖すればいい。それだけの話。その場合は踏切は閉鎖されるが、その場合以外の大半の場合では踏切は開く。「常に閉鎖されたまま」という現状よりは、はるかに改善される。

なお、30秒ぐらいの遅れは、あるとしても、常に半数以下です。(つまり半数以上の場合では問題なし。)
なぜか? 30秒ぐらいの遅れが、半数以上になったら、その遅れを今度は標準にして、ダイヤを新たに編成すればいいから。もともとのダイヤが間違っていたのだから、そのダイヤを修正して編成すればいい。
こうして、遅れは常になくなる。(現実には、遅れを吸収できるように、駅での待ち時間を少し長めにしておけばよい。余裕を見るわけだ。……実際、そうなっていることが多い。乗客が全員乗車しても、まだドアが開いていることがあるが、それは、もともとダイヤに余裕があるせい。)

ま、細かなことは、ダイヤの編成者に任せればいい。そんな細かなことまで、こちらが考える必要はない。「小さな難点がありそうだから、トライすることをすぐにやめる」というふうだと、新規の分野に踏み込むことは不可能になります。

Posted by 管理人 at 2007年11月23日 17:13
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