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【溶けゆく日本人】快適の代償(9)機器の魔力 (3/3ページ)
運転中は危険と分かっていても、つい使ってしまうカーナビや携帯。そういう心理について、心療内科医の中川晶・大阪産業大学教授はこう説明する。「快適さは一度手に入れたら簡単には手放せない。ものごとをよく考えることができる人でも機械がやってくれると頼ってしまう。快適な環境に置かれると、それまでの不便だった生活を忘れ、今の環境を当たり前だと受け止めてしまう」
中川教授は、子供が引きこもりになったとき、親に「子供の生活環境を快適にしてはだめ」とアドバイスすることがある。学校にも行かず、働きにも出ないのであれば、トイレ掃除や洗濯、浴槽掃除などの家事を頼むようにする。
「生活に負荷を掛けることで、『家にいても家事をしなければだめだし、学校に行くほうが楽だ』と考え、引きこもりから抜け出した子もいます。逆に、親が腫れ物に触るように対処し、快適な状態を作り上げると、容易に脱出できませんね」
鬱(うつ)病にかかると、症状として高い頻度で「億劫(おっくう)さ」が表れるが、便利になり、多くの人が手間を掛けることを億劫がる今の世の中は、一種の鬱状態に陥っているとはいえないか。
中川教授は「本来なら快適さの感じ方は個人個人違うはずなのに、大多数の人が便利さを快適だと思っている。そういう意識がはびこり、要求がさらに高まり、デフレスパイラルのようになっている。科学技術の発達と環境破壊のように、快適さも一つ手に入れたら一つ代償を払うものなのに、その自覚もなく追い求めているのではないか」と話している。(武部由香里)
=このシリーズおわり
《メモ》国土交通省によると、カーナビの平成19年3月までの国内累積出荷台数は2613万台。矢野経済研究所の調査では、カーナビの国内市場は17年は315万台で、これは新車台数の63%に当たる。欧州の264万台、米国の76万台と比較すると、日本の普及率は際立って高い。近年はバイクなどにも取り付けられるハンディ型ナビゲーションも急速に普及し始めている。