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元NO.1ホストの「やさしいきもち」

2007年10月19日

 かつてナンバーワンホストに上り詰めながら、中傷が飛び交う世界に傷ついて舞台を降りた男性がいる。埼玉県内在住のたちひきょうすけさん(30)。その経験を下敷きに、絵本を出版した。タイトルは「やさしいきもち」。他人への思いやりの心を持ってほしいというストレートな願いを込めた。

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たちひきょうすけさん

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出版された絵本「やさしいきもち」

 たちひさんは大学卒業後、バーテンダーなどを経て、05年から約1年、首都圏の業界大手の出張ホストクラブで働いた。

 「一度はのぞいてみたい」と軽い気持ちで入店したが、5カ月で100人以上いるクラブでトップに上り詰めた。ところが、このころからネットなどを通しての露骨な中傷が始まった。

 「ネットで自分のことが話題になる掲示板が立ち、そこでは『死ね』などの悪口が書かれ、本名や現住所などがさらされた」。食事がのどを通らなくなり、不眠が続いた。誰かにつけられているのではないか、という恐怖にもおびえたという。

 傷つき、疲れ果て、ホストを辞めた。

 「ネットで、大人の自分でも、こんなに傷つけられた。子どもだったらこれは耐えられない。人を思いやる気持ちをみんなが持てばいい」

 気持ちを伝える手段を探していたとき、自費出版を積極的に手がける出版社を知り、絵本を作ることにした。

 元手はホスト時代に稼いだ170万円。知人のつてで挿絵作家を探し、2年近くかけて作り上げた。「やさしいきもち」は、世の中のいろいろな出来事を心配して気をもむ子どもと、見守る母親の物語だ。

 800部のうち、店頭販売と知人への配布を通じて、半数近くがはけた。養護施設の虐待を受けた中学生の女の子の手にもわたり、こんな手紙が届いた。

 「あたしのお母さんやお父さんが、本を書いた人だったら良かったのになあ。知らない人に手紙を書いたの初めて。あたし、この本好きだよ」

 手紙を手にしたとき、すでに少女は自殺していた。返事は間に合わなかった。施設の職員にひつぎに入れてもらうよう頼むと、ひとしきり泣いた。

 最初は自己満足で終わるのかと思っていた。だが、少しでも他人に訴えかけるものがあるなら、広めたいという気持ちが強まった。内紛にあえぐイラクにも大使館を通じて100冊寄付した。大使館職員が厚意でアラビア語に翻訳してくれたという。

 「今の時代、匿名だとなんでもできそうな気がするが、他人への思いやりと、冷静さが必要なのかと改めて思う」と話している。本の問い合わせは、新風舎(03・3568・4946)へ。

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