「この部会は改定率について意見を求める場ではないので、基本方針として出す時は改定率のことを盛り込まないでいただきたい」――。厚生労働省は11月22日、「2008年度診療報酬改定の基本方針(案)」を社会保障審議会医療部会(部会長=鴨下重彦・国立国際医療センター名誉総長)に提示したが、改定率をめぐって議論が紛糾。予定していた基本方針の取りまとめに至らなかったため、改めて予備日(11月29日)に審議する予定だが、調整は難航しそうだ。(新井裕充)
中医協で始まった改定率をめぐる攻防が医療部会にも及び、厚労省保険局の原徳壽医療課長は「この部会は改定率について意見を求める場ではない」と強調したが、議論は収まらなかった。
会議終了の際、「もう一度、開催してほしい」と竹嶋康弘委員(日本医師会副会長)が強く求めたのに対し、原課長は「厳密に言えば、基本方針が決まらないと改定の動きができないが、大臣が改定について中医協に諮問するのは年明けなので、極論をすれば、それまでに決まっていればいい」と回答した。
中央社会保険医療協議会(中医協)診療報酬基本問題小委員会では、次期診療報酬改定に向けた検討項目の審議が10月からスタートし、11月中に各項目の審議を一巡するペースで進行している。
一方、04年の中医協汚職事件を契機として、前回改定から社会保障審議会の医療保険部会と医療部会が「診療報酬改定の基本方針」を策定することになったため、次期診療報酬改定の基本方針も前回と同様に両部会で審議している。11月中に基本方針を両部会の連名で取りまとめ、中医協に提出する予定になっている。
この日、厚労省が示した基本方針案は、前文で「診療報酬改定に関する基本的考え方」を示し、緊急課題として「病院勤務医の負担の軽減」を強く打ち出している。
中医協で審議されている個別の検討項目(7対1入院基本料、在宅医療など)は、前回の改定時と同様の「4つの視点」から整理している。
「4つの視点」は、(1)患者の生活の質(QOL)、(2)医療機能の分化・連携、(3)重点領域の評価、(4)効率化――。このうち、効率化の視点は医療費抑制の観点を示している。
また、前回改定時の医療政策の方向性は、「経済・財政との均衡」「過大・不必要な伸びを具体的に厳しく抑制する」などが挙げられている。
■ 「継承すべき」に不満続出
委員の意見が集中したのは、基本方針案の「前文」に当たる部分。前文には、同部会が前回改定時に示した医療政策の方向性や4つの視点を「基本的に継承すべきである」と書かれている。
この「継承すべき」との表現に対して、中川俊男委員(日本医師会常任理事)が「マイナス改定を継承するという意味か」と強く反発。
また、杉町圭蔵委員(公立学校共済組合九州中央病院院長)も「地方の病院は疲弊している。良質の医療を提供するには経済的なゆとりが必要だ。日本の公共事業費は先進6カ国の合計よりも多い。公共事業費を抑えて医療や福祉に使うべきだ」と声を強めた。
改定率の引き上げを求める意見に対して、堤健吾委員(日本経団連医療改革部会長補佐)が「ここは業界団体の陳情の場ではない」と厳しい口調で返し、次のように述べた。
「日医などの調査では収益が減っているというが、公的医療費が減っていないとするとコストが上がっているのだろう。1年間だけのフローだけを見て経営をうんぬんするのはおかしい。普通の企業経営では、BSやPLの両方で動向を見る。そこのレーダーもなく言うのはいかがなものか。中小企業の経営者が見たらどう考えるだろうか。医療界の説明責任は重い」
村上信乃委員(日本病院会副会長)は「病院団体と医師会が自己の主張ばかりする利益代表との発言は心外だ。地域医療が崩壊している現状をご存知か。堤委員は経済団体の代表として発言しているが、我々は国民の視点で議論している」と語気を強めた。
■ 「崩壊」を前文に
改定率をめぐって審議が荒れる中、鴨下部会長は次のように述べた。
「議論が拡散しているが、医療部会は医療の提供体制を議論する場だった。中医協の在り方を見直した結果、診療報酬の問題も医療部会と医療保険部会で議論することになったので、今日はもっぱらお金の話に終始した。しかし、その背景には医療費抑制の結果、病院も診療所も苦しんでいる現状がある。本来、“そもそも論”をもっと議論すべきだった。しかし、今回は皆さん、意外に静かだ。あきらめているのか、あきれているのか」
これに対して、小山田惠委員(全国自治体病院協議会会長)は「医療提供体制と言うが、地域医療の崩壊によって供給できない状況だ。そういう現状認識を書かずに、いくら良いことを書いても駄目だ」と述べ、地域医療が崩壊していることを前文に入れるよう強く求めた。
西澤寛俊委員(全日本病院協会会長)は「やはり基本方針の前文が弱い。前文をもっと膨らませてはどうか。例えば、医療が崩壊に向かっている現状を示した上で、医療政策をどう考えるのか、それを実現するために診療報酬はどうあるべきか、と書けば分かりやすくなるだろう」と提案。他の委員からも「崩壊という言葉を入れるべき」という意見が相次いだ。
更新:2007/11/23 キャリアブレイン
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