現在位置:asahi.com>暮らし>暮らし一般> 記事

ミシュラン東京版発売 星150店「納得」「疑問」の声

2007年11月22日11時45分

 仏タイヤ大手ミシュランがレストランを星の数で格付けする「ミシュランガイド」東京版が22日、発売される。格付け結果の発表が19日にあり、星が並んだ店には問い合わせや予約が殺到している。一方、調査を受けたが評価されることに疑問を感じ、協力を断った店もある。料理評論家やグルメ本の発行元の間では、ミシュラン流の評価をめぐって賛否の議論がわき起こっている。

写真

19日に開かれたミシュランガイドの発表パーティー。日本ミシュランタイヤのベルナール・デルマス社長が企業キャラクターのビバンダムを伴ってあいさつした=東京都千代田区で

 ●「文化違う」掲載拒否、「東京、質高い」

 日本料理「麻布かどわき」(東京都港区)の門脇俊哉さん(47)は、ミシュランによる評価を拒んだ。ミシュランの訪問を受けたのは今春。店舗や料理の撮影と取材を申し込まれた。撮影用の料理の代金は「店の負担」と言われたという。

 門脇さんは、画一的な基準で評価されることに抵抗を感じた。「接待で使う店、好きな女性と行く店など様々な料理があるはず。あらゆる目的に応えられる料理なんてつまらない」と考え、協力を断った。「根本的に文化も違うのに日本料理が本当に分かるのか」との思いもあった。

 だが、今は「複雑な思い」と明かす。「三つ星を獲得していれば、従業員には励みにもなる。『ミシュランに評価されなかった』と思われるのも悔しい」

 日本ミシュランタイヤ広報部は「断った店があったかどうかは情報がない」としつつ、覆面調査の後に候補店を訪問し、撮影などへの協力を求めるのは事実だと言う。

 今回、ミシュランでは計150店に星が付いた。一つ以上の星を得た店はニューヨークで39店、パリでも64店だ。

 フランスの食文化に詳しいエッセイストの玉村豊男さん(62)は「東京の料理の質はパリよりも高い。パリの三つ星レストランを目指してきた日本が、それを追い抜きつつある。フランス人がそれに目を開いた。そう見るべきです」と話す。

 対して、「こんなにたくさん星を出しちゃうのかと拍子抜けした」と疑問を示すのは放送作家の小山薫堂さん(43)だ。

 三つ星の8店のうち6店に行った経験がある。その中のあるフランス料理店はなじみの店で、食材の選び方から調理の仕方まで細やかで本当に素晴らしいと思っている。「それでも星三つとは予想外だった。これは星のインフレだ」と話す。

 辛口の料理評論で知られる友里征耶さんは「欧米人を接待するのにいい店を選んだという印象。味だけなら、選ばれた店以外にも上には上がある。星の数を信じて日本の読者がうまい店と思うのは間違いだ」と話す。

 「東京最高のレストラン2008」(ぴあ)などに執筆している料理ライター森脇慶子さんは、ミシュランの店選びについて「おいしさなら、星がついた店よりもっとおいしい店がある。内装やサービスなども評価したと思わせるような店もあり、評価にばらつきが感じられる」と指摘する。

 米国で79年創刊、日本でも99年以降出版されている「ザガットサーベイ」(チンタイ)は覆面調査員が選ぶミシュランと違い、一般の利用者が30点満点で料理、内装、サービスを評価する。

 10月発売の最新版は4790人が参加。料理の最高位は江戸川区に本店がある焼き肉店だった。

 「グルメの間でも焼き肉というジャンルは評価されている。なぜミシュランで外されたのか不思議だ」とチンタイの高田明彦ザガット事業室長。その上で「飲食業界が活性化するために、本の作り方は違うが共存共栄が理想的だ」と話した。

 ●載った店、予約殺到

 「予想を上回るというか……すごい」。三つ星を獲得した銀座の「鮨・水谷」では発表の翌20日、午前9時から12時間にわたって1、2分に一度は電話が鳴り続けた。親方以下4人の店で、普段は調理も担当する林ノ内勇樹さん(26)は「おかみさんと交代で電話を取ったが、他の仕事がまったくできなかった」。

 年内は予約で埋まり、1月の予約を希望する電話が相次ぐ。でも「常連さんが来られなくなる」ので、年明け以降の予約は受け付けないでいる。

 同じく三つ星を得た日本橋人形町の料亭・濱田家は、もともと常連やなじみ客がほとんどだが、発表後は、ネットで探して電話してきたという予約客が急増した。

 受話器を置いた途端に次の電話が鳴る。その対応に追われながら、おかみの三田啓子さんは「うれしさよりむしろ緊張している。よりよい料理を提供したい」と話した。

 ●記者が初体験 うまい…でも2人で5万円

 三つ星を取った8店に記者と名乗らず電話してみた。どこも予約が取れなかったが、急に空席が出たフランス料理「ロオジエ」(東京都中央区)に夜、2人で出かけた。

 玄関で女性スタッフが迎える。やや緊張しながら2階へ。案内されたのは12卓のこぢんまりした部屋。客は40〜50代、スーツ姿が多い。外国語の会話も聞こえる。

 最も安い「季節のディナー」(1万8000円)を恐るおそる注文した。

 まずは、赤いほおずきのようなパプリカのゼリー。前菜はマダイのカルパッチョなど。魚料理はウナギ。メーンはよく見る薄切りと違って分厚く肉汁たっぷり長さ12センチのカモのローストだった。

 初めての三つ星体験。値段はペリエとエビアン(計2200円)とワイン2杯ずつを含め、2人で計5万1744円。普段は社員食堂の定食や丼もの、コンビニ弁当など500〜700円程度の食事が多い。一夜でその約35〜50回分を食べた計算になる。夢見心地のひとときだったが、会社に戻る道すがら「でもこのおいしさは値段に釣り合っているのか」と話し合った。フランス料理の素人には答えは出なかった。

PR情報

このページのトップに戻る