21日に熊本県の国営川辺川土地改良事業(利水事業)の休止が確定したことで、対象の6市町村は新たな難題を抱え込んだ。今後、事業の復活、廃止いずれの場合にも、計画変更に伴う対象農家の3分の2以上の同意が必要条件となるからだ。このハードルは極めて高い。地元は「身動きがとれなくなり、(事業が)塩漬けになるのではないか」と不安を募らせる。

 同事業は当初、3590ヘクタールを対象としていたが、高齢化など農業情勢の変化で計画面積を縮小した。ところがその同意取得の際に不正があったとしてダム反対派農家が訴訟を起こし、国は2003年に敗訴。同意手続きは白紙に戻った。

 手続きやり直しのため、新たな計画案づくりが進められ、水源をダムに頼らない農水省案が浮上した。有力視されたものの、相良村を除く事業対象5市町村が今月開いた農家説明会の参加率は26.4%にとどまった。事業に反対する矢上雅義相良村村長は「農家の関心の低さを証明した。事業継続へ3分の2の同意は集まらない」と話す。

 一方で、水を待ち続ける農家が多いこの地域で、事業廃止の同意を得るのも困難。ある地元農家は「議論がどちらにも進まず、休止のまま何年も放置されるのが最悪のシナリオだ」と話す。

 既に完成した国営造成地には、導水を前提に入植した農家もおり、いずれにしても何らかの利水事業が必要になる。5市町村長は「県営、団体営では国営事業並みの安く安定した水は届けられない」と国営事業復活を求める方針。矢上村長は農水省の休止決定後、廃止の方向で議論を進める構えという。 (人吉支局・中野剛史)

=2007/11/22付 西日本新聞朝刊=