特集「どうなる中国」

中国"動漫"新人類

中国のコスプレ大会は国家事業である(前編)
5億5000万人が見るコスプレ中継

 2007年夏頃から、日本のマスコミやネット上で、中国でいわゆる「コスプレ」がブームになっているという報道が盛んに行われるようになった。

 アニメや漫画、ゲームに登場するキャラクターに扮装するコスプレ。日本では、アニメやゲームの熱狂的ファンの間で1980年代頃から始まり、90年代以降はある種ブームの様相を呈するようになった。当初は一部マニアの趣味だったのが、現在では企業のイベントにコスプレ姿のモデルが登場したり、「メイド喫茶」が秋葉原にいくつもできるなど、事情をよく知らない私の耳にも入ってくるほど、コスプレという言葉は市民権を得た観がある。

 そのコスプレが、今中国でも流行っているというのだ。

 中国の大学生たちに聞くと、日本動漫に熱狂するあまり、映像の中のキャラクターに自分自身もなり切って、コスプレをし、さらなる自己投影と自己実現を試みる若者が中国で急増しているとのこと。全国規模でさまざまなコスプレコンテストも開催されるようになり、その熱気が日本のお茶の間にも流されるようになってきた、ということらしい。なるほど、昨今の日本動漫やゲームの普及ぶりを考えれば、コスプレが流行るというのもよく分かる。

 ただし、おそらく日本のほとんどの方がご存じない事情が中国のコスプレにはある。なんと中国のコスプレ大会は、「中国政府主導による国家事業として行われている」のだ。

 あの社会規範を逸脱することを厳しく取り締まる中国で、政府自らコスプレ大会を主催している? えっ? ウソでしょう?

国家がコスプレコンテストを全面後援

 たしかに、誰もが耳を、いや目を疑うだろう。日本で「コスプレ」といえば、言葉としては市民権を得てはいるものの、やはり一般の人が気軽に参加したり、ましてや「官」が支援したり主催したりする、というイメージは皆無である。なのに日本政府よりはるかに厳格そうな中国政府が、積極的にコスプレ大会を開いているというのだから。にわかには信じがたい。けれども、これはまごうことなき現実なのである。

 まず、中国で最も大きなコスプレ大会である「ChinaJoy Cosplay 角色扮演(コスプレ)嘉年華(カーニバル)」と呼ばれる「コスプレ全国大会」の主催団体を書き出してみよう。

【主催団体】

  • 中華人民共和国新聞出版総署(国家の出版会を司る最高権力機関)
  • 中華人民共和国科学技術部(「部」は日本の中央行政省庁である「省」に相当。当該部局の「部長」は日本の大臣に相当)
  • 中華人民共和国国家体育総局(国家のスポーツ関係の最高権力機関)
  • 中華人民共和国国務院信息化弁公室(内閣府にある情報化事務局)
  • 中国国際貿易促進委員会(国家レベルの関係委員会)
  • 中華人民共和国版権局(国家の版権を司る最高権力機関)

 国家の中央行政省庁がずらりと肩を並べている。コスプレ大会は全国各地で開催されるから、こういった中央行政省庁に加え、さらに主催者として開催地の地方人民政府が名を連ねる。たとえば北京で開催される場合は「北京市人民政府」が、上海で開催される場合は、「上海市人民政府」が、上記の主催団体に加わるわけだ。

 それでは次に支援団体には何があるか。主たるものを列挙してみよう。

【支援団体】

  • 中華人民共和国信息産業部(国家の情報産業を司る中央行政省庁)
  • 中華人民共和国教育部(国家の教育を司る中央行政省庁)
  • 中華人民共和国科学技術部(国家の科学技術を司る中央行政省庁)
  • 中国共産党主義青年団中央委員会(中国共産党の青年部で国家権力を持つ)
  • 中国関心下一代工作委員会(中国の次世代の指導をする国家レベルの委員会)
  • 中国出版工作者協会(国家レベルの出版社協会)
  • 中国軟件行業協会(国家レベルのソフトウエア業界協会)
  • 中国互聯網協会(国家レベルのインターネット協会)

 支援団体には以上の名前が並んでいる。さらに協賛団体には中国出版工作者協会游戯(ゲーム)委員会等がある。主催・支援・協賛ともに、国家の関係部門としてこれ以上の組織を揃えることは困難なほど、あらゆる国家レベルの最高権威機関がコスプレ大会に顔を出しているのだ。

 これでお分かりいただけただろう。中国のコスプレ大会というのは、まちがいなく国家が主催し、国家全体で動いているのである。

 ではなぜ、国がコスプレ大会を主催するに至ったのか?
 この疑問に答えるには、まず政府の一連の政策からヒントを得る必要がある。


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筆者プロフィール

遠藤 誉(えんどう・ほまれ)

1941年、中国長春市生まれ。筑波大学名誉教授、帝京大学グループ顧問(国際交流担当)、理学博士。中国国務院西部開発弁公室人材開発法規組人材開発顧問。著書に『チャーズ』(読売新聞社、文春文庫)、『中国大学総覧』(第一法規)、『中国大学全覧2007』(厚有出版)、『茉莉花』(読売新聞社)、『中国教育革命が描く世界戦略』(厚有出版)、『中国がシリコンバレーとつながるとき』(日経BP社) ほか多数。本連載を始めた詳しい経緯は、連載第1回に。二児の母、孫二人。

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