◇体験、学校活動など発表
いじめや差別をなくそうと、子どもたち自身による「人権子ども集会」(熊本県教委主催)が10月27日、熊本市で開かれ、県内の小・中・高校生ら約1万人が参加した。今年で11回目。体験や学校活動に関する発表を通し、差別や異文化交流などについて考えた。運営した実行委員会の子どもたちは何を考え、何に悩み、何を得たのか。寄り添ってみた。【笠井光俊】
「みんなの意見を聞かせて」。集会の最後に実行委が読み上げるアピール文担当の県立大津高2年、吉岡はるかさんは、本番まで2週間に迫った10月13日の実行委で、他の委員に呼びかけた。
実行委は、高校生8人(全員2年)と中学生2人(3年)の計10人。9月初めから3回の会議を開き、進行や体験発表などの内容はほぼ固まっていたが、吉岡さんはアピール文の原案に納得できない。パソコン画面には「生きているうえで最も大切なこと 『人権』」などの文言が並ぶが「抽象的過ぎる」との思いがぬぐえなかった。思い悩む吉岡さんに、別の実行委員の男子が「自分の経験や思っていることを素直に書けばいいじゃん」と声をかけた。
吉岡さん自身、小学校でいじめを受けた。高校ではハンセン病患者への差別の歴史を学んだ。「差別は人殺しと同じ」。他の実行委員もいじめを受けた記憶や、差別を目の当たりにした経験を持っていた。「委員全員の思いをこめよう」。吉岡さんはそう思った。
委員の1人、植木町立植木北中3年の江頭佑実さんは「いじめを受けている側の気持ちも入れたい」。高校生の委員は「いじめられている人に『周りに仲間がいるんだよ』と伝えたい」。そうした意見を基に、吉岡さんはさらに3日考えてアピール文を完成させた。
■1万人の拍手
集会では、小、中、高校の計4組が体験を発表した。江頭さんは、山鹿市立千田小の6年生たちの体験発表に、実行委員としての感想を付け加える役も務めた。児童たちは、国際交流学習でシンガポールを訪問した経験から「分かり合おうという気持ちと笑顔があれば、思いが伝わることを知った」と発表する予定だった。事前に内容を聞いた江頭さんは「自分は笑顔を下級生に見せているだろうか」と考えた。
集会当日。発表後の感想で、江頭さんは「笑顔の大切さ、素晴らしさを教えていただきました」と自分の言葉で述べた。
発表ではこのほか、高校生が被差別部落出身であることを明かし「理由もなくいじめを受けたこともあるが、高校の同級生は関係なく付き合ってくれた。うれしかった」と語る場面もあった。
発表が終わり、実行委員10人がステージに並んだ。吉岡さんがアピール文を読み上げると、1万人の拍手が送られた。
実行委員の植木町立五霊中3年、前田和奈さんは「どの発表にも引き込まれた。参加して良かった。自分の周りにも不登校や『保健室登校』の人がいる。声をかけてみようと思う」と話した。
◇集会アピール文(抜粋)
私たちの周りに、苦しんでいる人はいないだろうか/ひとりぼっちの人はいないだろうか(中略)いじめられている子/いじめている子/見て見ぬふりをしている子/体裁ばかりを気にしている人/なぜ、私たちはこんなにつらい思いをしているんだろうか/どうして、差別やいじめなんかがあるんだろうか(中略)まず、私たち自身で気づいていこう/今、私たちの周りにある差別を/そして一緒に考えていこう/子どもである私たちに、今、何が出来るのか/きっと、大人たちでは出来ないことがある(中略)私たちには、こんなにたくさんの仲間がいる/今、ここに集まっていることが/部落差別をはじめあらゆる差別をなくすための一歩になることを願って
毎日新聞 2007年11月3日