新・総合生活産業  変化し続ける社会の中で、進化し続ける「新・総合生活産業」を目指しています。

対談 ブレイクスルーのヒント

新しいことに挑戦し続けるスピリットがお客様の心を動かす


セブン&アイHLDGS. 代表取締役会長 鈴木敏文
対談 ブレイクスルーのヒント

(いのうえ・ひであき)
1963年佐賀県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、渡米しニューヨークのピート・マーウィック会計事務所勤務を経て帰国後、1988年に(株)パーク・コーポレーション設立。1993年、南青山にフラワーショップ「青山フラワーマーケット」をオープン。その後、首都圏、札幌、大阪、博多に67店舗を出店。現在、「青山フラワーマーケット」とともにグリーンショップ「グリーンクリニック」「ジャングル・コレクション」およびフラワースクール「hana‐kichi」を展開。


株式会社パーク・コーポレーション 代表取締役 井上英明
2007年11月収録

「花を手軽に毎日楽しむ」という新しいコンセプトで市場を開拓

鈴木 井上さんは、日常性やプライベートを切り口にしたフラワーショップ「青山フラワーマーケット」をはじめ、鉢物専門店、フラワースクールなどを手掛けていらっしゃいます。都市部を中心に全国に店舗網を広げておられますが、その成長の背景には井上さんのチャレンジ精神と、お客様の立場に立った商品・サービスの提供があるとうかがっています。お客様の立場でチャレンジし続けることは、現在のような消費飽和の状況で、流通業の成長にとって欠かせないポイントであると私もつねに言い続けてきました。今日は、ぜひ井上さんの経営観や日々の取り組みについてうかがいたいと思います。今、お店は全国に何店舗展開されているのですか。

井上 67店舗になりました。そもそもフラワーショップを始めたきっかけは、たまたま子どもの頃から身近な存在だった花に目を向けて、無店舗完全予約制で花の注文に応えたのが始まりでした。
商売を始める時に、まず花の市場に行ってみて驚いたのは、卸売価格と小売価格に大きな隔たりがあったことです。これなら、販売方法を工夫すれば、従来の販売価格よりずっと低価格でお客様に花を提供できると確信をもって商売を始めました。ですから、最初は素材としての花を手頃な価格で提供することからスタートしました。しかし、その後、大手流通業が参入するようになって、何か付加価値がないと競争力がなくなると考え、花のアレンジなどの技能をもった人を集めてイベントやパーティーなどに生け花を生け込む仕事を始めました。
そこで気づいたのは、そのようなイベントなどで使っている花と日常的に家庭に飾る花、あるいは仏様に飾る花として身近で売られている花は、まったく違うということでした。それなら、イベントなどで使うおしゃれな花を普段使いに提案したら、お客様に喜んでいただけるのではないかと考え、おしゃれさとデイリーでプライベートという両方を備えたフラワーショップの展開を始めました。

日々の基本の徹底がストアロイヤルティを高める

鈴木 イベントで使うようなおしゃれな花を家庭用に販売するというコンセプトと、従来よりもずっとリーズナブルな価格という点が、それまでにない新しい試みだったわけですね。現代は消費飽和の時代と言われていますが、お客様は買物をまったくしないわけではありません。今までにない新しいものが出現すれば、やはり購買意欲を刺激されて、そこに市場が生まれます。そういう新しいことへの挑戦が必要だと、私はつねに言っているのですが、まさにそういう取り組みを始められたわけですね。
しかし、花というのは、私たちが扱っている生鮮食品と同様に鮮度が大切ですから、取り扱いにも苦労があるのではありませんか。

井上 はい、私たちが提供している「個人の日々の花」は、非常に高いレベルで鮮度、品質が求められていると考えています。それに応えるためには、やはり技術やノウハウが重要です。まず、花の良し悪しを見分ける目が必要ですし、お店に入荷したら、水あげをして花を元気にしてあげないといけません。この水あげの仕方も、花ごとに違いますからそのノウハウを習得する必要があります。さらに、花をセロハンで包むにしても、セロハンばかりが目立つような包み方ではいけませんし、花をうまく保護して、しかもセロハンが目立たないような包み方を身につける必要があります。
また、花の色合わせや、品種、産地、日持ちなどの知識も必要です。たとえば、クチナシはたいへん香りがいい花ですが、日持ちはあまりよくありません。販売する時に、そのようなアドバイスをして、お客様によく理解していただくことが大切です。
ですから、花を売るというのは単なる物販ではなく、花のある暮らしを楽しむといういわばエンターテインメントを提供するサービス業なのだと考えています。そのためにも「この店は進化し続けている」とお客様に感じていただけるようなショップづくりを目指しています。

鈴木 お客様にご満足をお届けしていくためには、そうした基本的なことを一人ひとりが日々地道に実践し、ストアロイヤルティを高める努力を続けていくことが重要です。
私どもでは創業期から一貫して、基本4原則ということを大切にしています。お客様が求めている商品を揃え、品切れのない売場をつくる「品揃え」、つねに新鮮で、安心な商品を提供する「鮮度管理」、感じのよい接客をする「フレンドリーサービス」、清潔で快適にお買物ができる店をつくる「クリンリネス」の4点です。お客様のロイヤルティは、この中のどれか一つが欠けても得ることはできません。

井上 私も「雰囲気」「品揃え」「価格・情報」「接客サービス」という4つのポイントをしっかりと押さえることが必要だと言い続けています。雰囲気というのは、入りやすく、買物がしやすい清潔で快適な売場づくりです。品揃えの点では、身近で気軽に買える商品の品揃えと、ぜったいによそに負けない鮮度を目指しています。そして、リーズナブルな価格で、産地、品種、色合わせなどを的確にお伝えできるプロフェッショナルな接客サービスを追求しています。