COLUMN-〔インサイト〕小泉元首相の哲学に共鳴した投資家=Mスタンレー フェルドマン氏
シンガポールで11月13─15日にモルガン・スタンレーが主催した投資家向け会議(アジアパシフィック・サミット)で、小泉純一郎元首相をお招きした。
その講演を終えて、アジアの投資家は、小泉元首相の言葉を聞いて総立ちの拍手喝采となった。首相を退いてからの改革停滞、ねじれ国会による法案審議の行き詰まりなどに失望している投資家が圧倒的に多い。日本株比率をベンチマーク以下あるいはゼロにしている人は、小泉元首相の講演の中で、何を歓迎したか。
まず、指摘できるのは小泉氏の哲学である。日本の普通の政治家は、支持団体を固めて当選を狙うが、経済・外交政策が各団体同士で矛盾しても、その矛盾をごまかす。1990年代の自民、社会、さきがけの連立政権は、その典型的な例だった。すなわち問題は哲学の善し悪しではなく、哲学の存在さえないという点だ。
小泉氏は政治と外交の哲学がある。加えてその哲学は、成長、活性化につながる。オープンな経済が既得権益をつぶすという考え方も、日本にまだ投資チャンスがある印象を投資家に与えた。
もう1つの歓迎点は、小泉氏が伝える熱意と勇気だ。リーダーの適性を持つ人材がかなり足りない国内外の政界/経済界だけに、小泉氏の透明な発言は元気付けになる。「私たちに必要なものは改革の後退ではなく躍進であり、減速ではなく加速である」との講演での発言は、その典型的な例だ。
自民党が7月の参院選で大敗した原因について、多くの評論家が、敗北は小泉改革の行き過ぎによるものであると言ったが、小泉氏は「それは全くのナンセンスです。もし日本が苦難に直面しているとすれば、それは改革が行き過ぎたからではなく、足りなかったからです」と述べ、改革の継続を求め、「両方の政党が改革路線に戻らない限り、今日の政治的利益は、明日の経済的苦痛になる」と付け加えた。
講演の後の質疑応答で、再び首相になってくれないかという質問が投資家から出た。それはほとんどの投資家が聞きたい質問だった。小泉氏は「総理大臣という仕事がどんなにつらいかは、やってみないとわからない。完全燃焼です」と答えた。自分の役割は、「改革を進める、表に立つ人をサポートする」ということも指摘した。
この発言は政界再編を必ずしも示唆しない。だが、少なくとも「何が何でも自民党」ということではない。「古い政党が改革を実行しなければ、政治再編が起きる可能性は十分にある」という発言は、自民党に対しても民主党に対しても催促とも、警告とも言える指摘だったと思う。
この催促と警告は、小泉氏自身からよりも国民からであることは記憶に残る。小泉氏の指摘はまさに先の大阪市長選で実現されたと言えよう。
また、参院で与野党勢力が逆転するねじれ国会について、「ねじれ国会は開かれた議論を促すと考えられます。投票所においては、政党は競争します。国会では、政党は日本に必要な法律を通すためのパートナーたるべきであります。政党が率直に建設的な議論をしない限り、有権者は政党に罰を与えるでしょう」との見方を明らかにした。
マーケット参加者の多くが関心を持っている衆院解散・総選挙の時期に関連して、小泉氏は「日本は程なく次の総選挙を実施するでしょう。この選挙は、今後10年間における日本の経済と政治のビジョンを明確にする選挙になる」と述べたことを指摘しておく。
(21日 東京)
ロバート・A・フェルドマン モルガンスタンレー証券 経済研究主席
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