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消費税率引き上げの必要性を明記した政府税調の答申など
【社会】ヒトの皮膚から人工『万能細胞』 受精卵使わず…多様に分化2007年11月21日 朝刊 大人の皮膚細胞に四種類の遺伝子を導入するだけで、ほぼ無限に増殖し、神経や筋肉、骨などのあらゆる細胞に変わる胚(はい)性幹(ES)細胞(万能細胞)に似た「人工多能性幹(iPS)細胞」が作り出された。京都大再生医科学研究所の山中伸弥教授らが二十一日、米科学誌セルの電子版に発表した。新薬開発に役立つほか、再生医療を実現する最有力手段になると期待される。 一九九八年にヒト受精卵からES細胞を世界で初めて作った米ウィスコンシン大のジェームズ・トムソン教授らも同日、ヒト皮膚細胞に半分違う四種類の遺伝子を導入してiPS細胞を作成したと米科学誌サイエンス電子版に発表した。 従来、脊髄(せきずい)損傷などの再生医療の実現にはES細胞を使う方法が有力視されてきたが、赤ちゃんになる受精卵を壊す倫理問題があり、世界的に反対論や研究規制があった。 また、神経などに分化させた細胞を患者に移植した際の免疫拒絶反応を避けるには、患者の体細胞核と卵子を組み合わせたクローン胚からES細胞を作る必要があるが、韓国ソウル大教授らが発表した「初成功」はねつ造と判明。卵子の入手難もあり、サルでしか成功していない。 山中教授らは昨年八月、マウスの皮膚の線維芽(せんいが)細胞に遺伝子全体の司令塔役となる「Oct3/4」や「Sox2」など四種類の遺伝子をレトロウイルスを使って導入し、iPS細胞を初作成したと発表。 培養法や添加物を工夫してヒトでも成功し、マウスの皮下に移植するなどして、神経や腸管、拍動する心筋などの細胞に変えることができた。ただし、再生医療応用には、がんの原因になるレトロウイルスを使わない方法を開発する必要がある。 山中教授は「マラソンだとゴールが見えた感じで、再生医療研究が一気に進む可能性がある。でも日本がそのままゴールできるか分からない。『国立幹細胞研究所』のような体制が必要だ」と話している。 <メモ>幹細胞 受精卵やクローン胚(はい)から作られ、すべての種類の細胞に成長できる「胚性幹細胞(ES細胞)」と、神経や血球、皮膚など、ある程度役割が絞られた「体性幹細胞」に大別される。成長して多様な細胞を作り出す能力と、自ら増殖する能力を併せ持つため、損傷した細胞を修復する再生医療への応用や研究が世界中で進められている。課題も多く、ES細胞は、作成には受精卵を壊して用いる必要があるなどの倫理問題があるほか、そのまま人に移植するとがん化する。体性幹細胞は役割が限定されるうえ、大量に採取できない制約がある。
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