1.まず、(決議案を提出したとの報道も含めて)報道記事から。
(1) asahi.com2007年11月02日19時18分
「死刑執行停止求める決議案提出 EUなど72カ国
2007年11月02日19時18分
イタリアなどが1日、死刑の執行停止を求める決議案を国連総会に提出した。人権問題を扱う第3委員会で月内にも採決される見通し。加盟192カ国のうち、提出時点で72カ国が共同提案国に名を連ねており、決議案作成を主導してきた欧州連合(EU)加盟27カ国は賛成多数での採択に自信を見せている。
決議案は死刑制度の継続に「深刻な懸念」を示すとともに、制度が存続している各国に、(1)制度の廃止を視野にした執行の一時停止(モラトリアム)(2)死刑の適用の漸進的削減(3)死刑に直面する人の人権保護の尊重――などを要求。廃止国に対しても制度を再導入しないよう求めている。
同委員会には94年、2000年までの死刑執行停止などを促す決議案が出されたが、小差で否決された。その後も死刑廃止国が増加しており、国際人権団体のアムネスティ・インターナショナルによると、死刑を10年以上執行しないなど事実上廃止している国を含めた死刑廃止国は133カ国。一方、死刑存続国は日米や中国など64カ国・地域だという。」
(2) 朝日新聞平成19年11月16日付夕刊2面
「死刑執行停止決議を採択 日米などは反対 国連総会委
2007年11月16日11時01分
【ニューヨーク=松下佳世】人権問題を扱う国連総会第3委員会は15日、死刑執行の停止(モラトリアム)を求める決議案を賛成99、反対52、棄権33で初採択した。死刑制度が存続している日本や米国、中国などは反対した。年内に総会本会議で正式に採択される見通しだ。総会決議に法的拘束力はないが、決議案を主導した欧州連合(EU)などは、執行の停止を実質的な死刑全廃への足がかりにする考えだ。
決議案は87カ国が共同提案。死刑制度の継続に「深刻な懸念」を示すとともに、制度存続国に(1)死刑制度廃止を視野に入れた執行の一時停止(2)死刑が適用される対象犯罪の漸進的削減(3)死刑の執行状況や死刑に直面する人の人権状況を事務総長に報告すること――などを要求。廃止国に対しても制度を再導入しないよう求めている。
同様の決議案はイタリアなどの主導で94年にも提出されたが、小差で否決された。99年には反対派の修正要求が通ったため、採決を断念した経緯がある。今回も、「刑事司法制度は国内管轄事項だ」とするシンガポールやエジプトなどが修正案を出して抵抗したが、原案通りで採択された。
EU議長国ポルトガルのサルゲイロ国連大使は採択後、「幅広い支持を得られたことは、死刑制度が人権問題であり、その執行停止が人権状況の改善につながるとの認識が共有できた表れだ」と歓迎した。
一方、日本の神余隆博次席大使は「日本では、国民の大半が最も悪質な犯罪には死刑を宣告すべきだと信じている。死刑制度の廃止に向かうことは難しい。死刑廃止に国際的な合意はない」と反対の理由を説明した。」
*紙面では、3段落2行目以降は未掲載。なお、ネットでは『日米などは反対』とし、紙面では『日米中など反対』という見出しだが、中国は先進国ではないため、ネットの見出しの方が適切だろう。
(3) 東京新聞平成19年11月16日付夕刊2面
「国選委員会、死刑停止決議を採択 日米など反対 来月、総会で採択
2007年11月16日 10時13分
【ニューヨーク=石川保典】国連総会第3委員会(人権)は15日、死刑制度を堅持する加盟国に死刑執行の一時停止(モラトリアム)を求める決議案を賛成多数で採択した。12月の総会本会議で正式採決されれば、総会で初の決議となる。法的拘束力はないが、世界の死刑廃止の流れに拍車をかけ、政治的な圧力となりそうだ。
決議案は、死刑制度は「人間の尊厳をむしばむ」として、死刑執行に深い憂慮を表明。▽死刑制度廃止を前提とした死刑執行の一時停止▽適用罪を減らし執行を制限▽事務総長に執行状況や死刑囚の人権保護手続きの報告―などを求めている。
欧州連合(EU)を中心に87カ国が共同提出し、賛成99、反対52、棄権33票だった。反対したのは、死刑を執行している日本、米国、中国、シンガポール、イラン、イラクなど。「決議案は国の司法権に対する明らかな侵害だ」として、同決議案を骨抜きにする修正案が計14提出されたが、2日間にわたる審議でいずれも反対多数で否決された。
日本の神余隆博次席大使は「日本の世論は多数が死刑を支持している。すべての国が世論を慎重に考慮した後にのみ、決議案は採択されるべきだ」などと述べた。
人権団体アムネスティ・インターナショナルによると、事実上、死刑を廃止した国は計133カ国。先進国で死刑があるのは日本と米国だけ。」
*東京新聞のHPでは、共同通信配信記事のみ。
(4) 毎日新聞平成19年11月16日付東京夕刊
「国連第3委:死刑の一時停止求める決議案を初採択
【ニューヨーク小倉孝保】欧州連合(EU)など87カ国が国連総会第3委員会(人道問題)に提出していた死刑執行の一時停止(モラトリアム)を求める決議案が15日、小差で採択された。同委員会が死刑のモラトリアム要求決議案を採択したのは初めて。国際社会で死刑反対の動きが強まっていることを象徴する結果といえそうだ。
賛成はEUのほかトルコ、イスラエルなど99カ国。反対は日本、米国、中国など52カ国、棄権が33カ国。12月中旬の総会で採択されれば正式な国連総会決議になるが、委員会が小差だったため、総会での採択は微妙な情勢だ。日本はモラトリアムが憲法に反することなどを理由に反対した。
採択された決議案は▽死刑は人間の尊厳を否定し、死刑廃止は人権保護に貢献すると確信する▽世界的な死刑廃止や執行一時停止の動きを歓迎する▽死刑を廃止した国には死刑制度を復活させないことを求める−−としたうえで、死刑執行を続けている国に対して▽死刑を制限して執行を受ける者の数を減らす▽死刑廃止に向けてモラトリアムを作る−−ことなど求めている。
決議案の協議では、モラトリアムの設定が最大の焦点となり、イランやエジプトなどは、その部分を「死刑を凶悪犯罪に限定する」との表現に替えるよう求める決議案を提出したが否決された。
EUはここ数年、死刑のモラトリアム要求決議案採択を目指してきたが採択のめどが立たず、提案を見送ってきた経緯がある。国連人権委員会(現在の人権理事会)では「死刑に疑問を投げかける」決議案が採択されたことがある。
人権擁護に取り組む非政府組織(NGO)「アムネスティ・インターナショナル」は「歴史的な決議だ」と歓迎を表明した。
毎日新聞 2007年11月16日 9時56分」
毎日新聞は以前、「国連総会では欧州を中心に20カ国以上がモラトリアム決議案を支持する見通しだが、大票田のアフリカやアジアの国々は死刑制度支持の国が多い。決議案は11月2日までに総会の第3委員会(人道と文化)にかけられ、採択されれば総会にかけられる。」(毎日新聞 2007年10月18日 西部朝刊「死刑執行停止決議案:支持を、免田さんが訴え−−国連の討論会」)という記事を載せていて、決議案否決の方向性にあることを仄めかしていました。しかし、その見通しを間違っていたわけです。
(1) 1点目。決議案の内容についてです。
「決議案は87カ国が共同提案。死刑制度の継続に「深刻な懸念」を示すとともに、制度存続国に(1)死刑制度廃止を視野に入れた執行の一時停止(2)死刑が適用される対象犯罪の漸進的削減(3)死刑の執行状況や死刑に直面する人の人権状況を事務総長に報告すること――などを要求。廃止国に対しても制度を再導入しないよう求めている。」(朝日新聞)
「決議案は、死刑制度は「人間の尊厳をむしばむ」として、死刑執行に深い憂慮を表明。▽死刑制度廃止を前提とした死刑執行の一時停止▽適用罪を減らし執行を制限▽事務総長に執行状況や死刑囚の人権保護手続きの報告―などを求めている。」(東京新聞)
「採択された決議案は▽死刑は人間の尊厳を否定し、死刑廃止は人権保護に貢献すると確信する▽世界的な死刑廃止や執行一時停止の動きを歓迎する▽死刑を廃止した国には死刑制度を復活させないことを求める−−としたうえで、死刑執行を続けている国に対して▽死刑を制限して執行を受ける者の数を減らす▽死刑廃止に向けてモラトリアムを作る−−ことなど求めている。」(毎日新聞)
決議案の内容は紙面記載のものがあるとは思いますが、主要な内容としては、死刑制度の継続に「深刻な懸念」を示したうえで、死刑制度存続国に対する要求を3点、死刑廃止国に対して1点であることが分かります。
要するに、
・制度存続国に対して、
<1>死刑制度廃止を視野に入れた執行の一時停止
<2>死刑が適用される対象犯罪の漸進的削減
<3>死刑の執行状況や死刑に直面する人の人権状況を事務総長に報告すること
・廃止国に対して、死刑制度を再導入しないこと
「死刑制度廃止を視野に入れた執行の一時停止」ということは、死刑執行を停止をするとともに、死刑制度廃止に向けての法改正も行うことを要求しているわけです。また、 「死刑の執行状況や死刑に直面する人の人権状況を事務総長に報告する」ということは、その国の行政や司法がどれほど人権に配慮しているかどうかを報告しなければいけないこと、日本政府のように国民に対して「死刑に直面する人の人権状況」などをほとんど説明していない対応は、不可能となるということです。
死刑制度廃止を視野に入れた決議なのですから、この決議が採択されたことにより、死刑制度をめぐる議論があらためて国際的に高まることが予想され、全世界的に死刑制度を廃止する方向へ傾かざるを得なくなったといえそうです。世界的に死刑制度廃止の意識を持つ国が増加したからこそ、決議が採択されたということも可能でしょう。
(2) この決議案採択に関してかなりの反対があったことが分かります。
「同様の決議案はイタリアなどの主導で94年にも提出されたが、小差で否決された。99年には反対派の修正要求が通ったため、採決を断念した経緯がある。今回も、「刑事司法制度は国内管轄事項だ」とするシンガポールやエジプトなどが修正案を出して抵抗したが、原案通りで採択された。」(朝日新聞)
「欧州連合(EU)を中心に87カ国が共同提出し、賛成99、反対52、棄権33票だった。反対したのは、死刑を執行している日本、米国、中国、シンガポール、イラン、イラクなど。「決議案は国の司法権に対する明らかな侵害だ」として、同決議案を骨抜きにする修正案が計14提出されたが、2日間にわたる審議でいずれも反対多数で否決された。」(東京新聞)
「決議案の協議では、モラトリアムの設定が最大の焦点となり、イランやエジプトなどは、その部分を「死刑を凶悪犯罪に限定する」との表現に替えるよう求める決議案を提出したが否決された。」(毎日新聞)
「決議案を骨抜きにする修正案が計14提出された」とのことですから、その数だけでも抵抗の度合いが分かる感じがします。結局は、いずれの修正案も反対多数で否決されて「原案通りで採択された」とのことですから、決議案賛成国側もかなりの頑張りを見せたわけです。
決議案の反対理由として、「決議案は国の司法権に対する明らかな侵害だ」というものがあったようです。しかし、死刑制度は生命を奪う刑罰ですから、人間にとって最も重大な侵害行為となりますから、死刑問題は、司法権という統治機構の問題だけでなく、人権問題でもあります。世界的な人権問題については、世界人権宣言、国際人権規約、死刑廃止条約、拷問禁止条約などがあるように、世界的な人権保障を図りつつあるのですから(いわゆる『人権の国際化』)、「国の司法権に対する明らかな侵害」とまではいえないのです。
(3) 3点目。日本政府(日本大使)の反応です。
「日本の神余隆博次席大使は「日本では、国民の大半が最も悪質な犯罪には死刑を宣告すべきだと信じている。死刑制度の廃止に向かうことは難しい。死刑廃止に国際的な合意はない」と反対の理由を説明した。」(朝日新聞)
「日本の神余隆博次席大使は「日本の世論は多数が死刑を支持している。すべての国が世論を慎重に考慮した後にのみ、決議案は採択されるべきだ」などと述べた。」(東京新聞)
確かに、民主主義国家においては、政府が国民の声を無視して政策を強行すことは妥当でありません。しかし、死刑問題は人権問題ですから国民の多数の支持があることによっては正当化することはできないのです。死刑は、人間の尊厳の根本的否定なのですから。
死刑を支持するといっても、死刑に代わる刑罰を設けるなら廃止してもよいという人もいるでしょうから、一概に死刑を支持するということでひとまとめにすることは妥当ではありません。また、死刑囚の素顔や処罰の残虐さなど死刑制度に関する情報はほとんど知られていませんから、死刑制度の本当の実情が明らかになれば、世論調査の結果も変わる可能性があります。
「日本の世論は多数が死刑を支持している」ことは、死刑廃止の反対理由にはならないというべきです。
3.死刑廃止に関して、別の視点も提示しておきます。
「「基本的人権の侵害」 ツツ元大主教、死刑廃止訴える
ノーベル平和賞受賞者であるデズモンド・ツツ元ケープタウン大主教は、今月に予定されている国連総会での死刑執行停止を求める決議案の採決を前に、英紙ガーディアン上で「死刑は基本的人権の侵害」とし、世界的な死刑制度禁止を訴えかけた。
ツツ氏は、世界的に死刑制度を法律上、事実上廃止している国が増えていることに対して、「この世界から死刑が取り除かれつつあることを喜んでいる」と語った。
国際的な人権団体アムネスティー・インターナショナルによれば、法律上死刑を廃止している国は100カ国に上り、10年以上死刑を執行していない国などを事実上の死刑廃止国として含めると、現在133カ国で死刑が廃止されている。一方、死刑をいまだに行っている国は、米国、日本、中国などを含めて64カ国ある。
「死刑は、ある条件の下では殺すことも許容できる、とするものであり、報復の原理を助長するものである」と述べ、「この循環を断ち切るためには、我々は政府認定の暴力を取り除かなければならない」と語った。
今月初めには、欧州連合(EU)を中心とする70カ国が支持する形で、死刑制度執行停止を求める決議案が国連総会に提出された。決議案では、死刑執行一時停止、死刑適用の漸進的な削減、死刑囚の人権に対する尊重、死刑廃止国の制度再導入の停止などを求めている。
ツツ氏は、「多くの国々で、死刑が貧しい人々や、人種的、民族的少数派に対して偏って用いられている」と述べ、「死刑はしばしば政治的抑圧の道具として用いられ、独裁的に押し付けられている。後戻りすることの出来ない処罰であり、必然的に、いかなる罪も犯していない人々を処刑するという結果につながる」と死刑制度の問題点を指摘した。
ツツ氏は、「年々、死刑制度廃止は従わざるを得ないものとなってきている」とし、「今は世界的に死刑を廃止するときとなった」と述べた。
[2007-11-15] 」(CHRISTIAN TODAY(クリスチャントゥデイ):キリスト教オンライン新聞[2007-11-15])
デズモンド・ツツ元ケープタウン大主教の次の言葉に注目しています。
「多くの国々で、死刑が貧しい人々や、人種的、民族的少数派に対して偏って用いられている」
「死刑はしばしば政治的抑圧の道具として用いられ、独裁的に押し付けられている。後戻りすることの出来ない処罰であり、必然的に、いかなる罪も犯していない人々を処刑するという結果につながる」
日本においては、まずなくなったでしょうが、世界的には「死刑はしばしば政治的抑圧の道具」なのです。先進国であり、人権を保障した憲法を有する日本としては、死刑が政治的抑圧の道具にならないよう、世界へ向けて発信する責任があると思うのです。
日本国憲法前文において、「われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めている国際社会において、名誉ある地位を占めたい」としています。死刑が死刑が貧しい人々や、人種的、民族的少数派に対して偏って用いられ、政治的抑圧の道具になっているのであれば、それを積極的に批判し除去するよう率先して行動に出ることを、憲法で誓っているといえるのではないでしょうか。
死刑判決が相当とされるような犯罪は“人間の尊厳の根本的否定”でありましょう。 人間の尊厳を根本的に否定するような犯罪に対しては(のみ)、死刑を適用すべし、との主張には?
>死刑に代わる刑罰を設けるなら廃止してもよい〜
絶対終身刑が導入されれば、死刑存置派の何割かは死刑廃止を受け入れると思います。 (実は私もこれには同調する部分が小さくない)
死刑廃止派が、死刑に代わる極刑を具体的に提示して、社会の理解を得ようという戦術を取らないのが不思議です。 絶対終身刑にも反対なのではないか、と疑う。 ヨーロッパあたりでは絶対終身刑は“長期継続する死刑であり残酷”との批判が有ると聞きますがが、論理的には筋が通っています。
絶対終身刑もまた“人間の尊厳の根本的否定”だと言い出すのではないのですか?
そもそも人権侵害(制限)のもたらす苦痛ゆえに、あらゆる刑罰はその意味を成す。 刑罰を科すに当たって、どこまで人権侵害(制限)するか、は各々の国の文化(正邪、善悪の基準、死生観など)に関わることで、アムネスティなるNGOが判断することではない。
>死刑が死刑が貧しい人々や、人種的、民族的少数派に対して偏って用いられ〜
これは死刑の問題ではなく、そのような国家、政体、社会制度自体の不具性が非難されるべき。 これを持ち出しても、(少なくとも日本の死刑存置派に対しては)説得力は無い。