米陸軍 次世代統合型歩兵戦闘システム ランド ウォーリア(LandWarrior)

米陸軍は、1980年代より次世代歩兵戦闘用装備のシステム開発研究を始め、情報処理システムの導
入と個人兵士装備の新規開発を行うものとして、2010年頃の実用化と2015年頃の部隊配備を目指し
てランド ウォリアー計画研究(Program Land Warrior)を行なっている。ランドウォリアーは1991年湾岸
戦争後のIT化を中心としたRMA(軍事革命)でさらに推進され、情報システムの強化案と民生品を採用
し、総額2300億円(20億$)で新ランドウォリアー計画がスタートされた。

冷戦終結後米国でも軍事費の削減は免れず、陸軍でも常備兵力の削減から新規兵器の導入等多岐に
わたってキャンセルされたが、情報優越を真髄とするRMA(軍事革命)によって兵力は削減するが戦闘
能力は飛躍的に向上させる事が可能となる。それらは、米軍のハード及びソフト面全域に渡って今後浸
透していく事になるが、陸軍は個々の兵士レベルでも各種戦術情報を共有する事により効率的に行動し
、的確に攻撃目標を選別して、最小限のダメージコントロールで最大限の戦果を追求する為にデジタル
化された情報システムを導入したサイバー兵士を誕生させようとしている。
1991年にフォート・ベニング(ジョージア州)基地の訓練センターに最初の実験部隊が配置され、その後
システム開発の主契約企業にレイセオン社(Raytheon)とハニウェル・インターナショナル社(旧ハニウェ
ル)が選定された後、モデル部隊として第82空挺師団の1個小隊が、フォート・キャンベル(ケンタッキー
州)基地の専用施設で運用評価試験を受け持っている。


Photo by US.ARMY

Photo by US.ARMY
ランドウォリアーの実験部隊となっている第82
空挺師団隊員



ランドウォリアーの中枢となる戦術情報共有
システムは他のハイテク部隊でも導入される
デジタル情報通信データーリンクシステムF
BCB2(Force21 Battle Command Brig
ade)が使用される。






■ランドウォリアー・コンピューター・ソフト/ラジオ サブシステム
ランドウォリアーの中枢となるメインコンピューターと戦術情報ソフトウェア、通信サブシステムから構成さ
れ、各種サブシステムへの情報処理も受け持っている。 メインコンピューターは、コストパフォーマンスに
優れた既存の民生品を採用し、超小型高性能のプロセッサーを導入している。 コンピューター/ラジオシ
ステム(CRS)は,、個人携行用のバックパック内に収納されており兵士個人の胸に配置された簡易型の
マウスボタンで統合型ヘルメット・アッセンブリー(IHAS)のディスプレイ内の各種情報表示を切り替えで
きる。また、腕時計型のキーボードを装着すれば、情報の管理やデーターベースのアクセスも可能となっ
ている。戦術情報システムソフトウェアは戦場監視システムから送信される各種情報を受信・処理しディ
スプレイ上に表示するとともにGPSの管理から他の兵士の位置情報等も表示させられる。
ラジオシステムは米国モトローラ社が開発したデジタル通信機AN/PRC-139 Local Communicationsと
個人兵士用のPersonal Communications System(PCS)からなり、AN/PRC-139は指揮官用で上級
司令部との通信及び他の部隊との交信用、PCSは兵士同士のコミュニケーションツールとして使用され
る。また、IHASで捉えた映像等を兵士間同士の通信で共有もできる映像転送システムも内蔵されてい
る。こらは、前方に展開した兵士が発見した目標物を後方にいるリーダーがその場にいながら映像を見る
事が出来る。その他には、ラジオシステムにGPS装置も一体化され軽量化を図っている。

ランドウォリアー兵の基本装備背面。このバック
パックの上に各種装備を入れた背嚢を背負う事
となる。


ヘルメット中央に暗視装置用アタッチメント、右
目にはディスプレイ、左胸には映像切り替え用
のボタンが2つあり、横から指揮官用(中隊)
無線アンテナが伸びている。

データー入力用の腕時計型キーボード装着例。
この他に、部隊指揮官用に簡易型携帯ノートパ
ソコンも開発中。



キーボードの装備によって、データーベースへ
のアクセスから航空・砲兵支援要請等が正確
に行なえる。 時として騒音の激しい戦場では
肉声による通信には支障をきたすが暗号化さ
れたデジタル通信は安全性を確保出来る。






■統合型ヘルメット・アッセンブリー(IHAS)・サブシステム
IHASは、複合材製ヘルメットとビデオカメラ機能付暗視装置、情報表示用ヘッドアップ・ディスプレイと
各種センサーから構成されている。複合材製ヘルメットは従来のフリッツヘルメットより軽量で耐弾性に
優れたもので、ディスプレイ用及びセンサー類、映像処理用の小型サブコンピューターも内蔵されてい
る。ビデオカメラ機能付暗視装置には熱線映像装置Thermal Weapon Sight (TWS)が使用され夜間
行動時に活用されビデオカメラ機能がある為他の兵士や指揮官、司令部等に映像を転送できる。情報
表示ディスプレイは各種戦術情報を表示するとともに携行火器に取り付けられたビデオカメラ等の映像
も表示可能で兵士が体を曝す事無く遮蔽物から火器(ビデオカメラ付き)を出すだけで、ディスプレイ上
で照準可能となっている。ヘッドアップ・ディスプレイはコンビナー・レンズと小型液晶からなり状況に応
じてヘルメット上部へ収納可能となっている。

IHASフリッツヘルメットにコンビナー・レンズ
を取り付けた状態。 暗視装置は、取り外さ
れている。


IHASのディスプレイ上では上級司令部の戦
術情報を表示できるが、状況によっては直接
偵察機やUAVプレデター(無人偵察機)から
情報を取得できる。

ヘッドアップ・ディスプレイで情報を確認しなが
ら戦闘を継続できる。


RMA(軍事革命)で、米軍の情報の独占と優
越は決定的なものとなり、飛躍的に個々の兵
士の戦闘能力を向上させている。





■個人防護装備・サブシステム
個人用の防護及び装備品は、戦闘服(BDU)・ボディーアーマーとバックパック、背嚢(リュックサック)か
らなり、ボディーアーマーは新規開発される米国デュポン社のケブラー(Kevlar)&鋼板製防刃防弾アー
マーで7.62mm弾の直撃と50mで炸裂した155mm砲弾の破片弾を防ぐ事が出来る。バックパックは
通信機、GPS、メインコンピューター、バッテリー、接続コード用モジュールからなり個々の兵士の体格に
合わせて調整可能となっている。今後開発される第二世代のボディーアーマーでは通信機及びコンピュ
ーター制御用の配線コード類を一体型とし、戦闘行動中の障害を無くすように設計される。ランドウォリア
ー・プロジェクトの生命線でもあり最大の技術的ハードルとなっているのがバッテリーの稼働時間で、現
在はフルシステム起動で150分の稼動が可能だが、バッテリーが無くなるとシステムがダウンし兵士に
とっては重量が大きな負担となり、戦闘力が激減する最大の欠点が露呈する。将来的には高性能バッテ
リーの採用とシステムのスリープ機能、電力休止モードを導入し最大30時間の稼動を目指している。 ま
た、全てのシステムの耐久性も課題が多く、特に精密機器となっているメインコンピューターとIHASの耐
久性には改善の余地が多々残されている。 コスト面の追求が民生品とミルスペックの耐久性の差となっ
てしまっている。


ランドウォリアーシステムの全備装備一覧。
総重量は、熱線映像装置(TWS)を入れて
39kgに達している。 これは、米陸軍戦闘
マニュアルの戦闘時25kg、行軍時35kg
をも大きく上回っている。今後35kgまで軽
量化する事が目下の課題となっている。


通信機及び接続コードモジュール。 今後第二
世代モデルでは戦闘時等に行動の支障となる
接続コード類をタクティカルベスト内に一体化し
たデザインとなる。



ランドウォリアーで開発されたISAPO(Int
erim Small Arms Protective Overvest)タ
クティカルベスト兼ボディーアーマー。
重量約11.4kg

米国モトローラ社製スクッド・デジタル通信
機SRBOT。








■個人携行火器・サブシステム
ランドウォリアーで開発される歩兵用小火器は第一段階が既存のM4カービンライフルを使用し、第二段
階では、XM−29SABR(Selectable Assault Battle Rifle)計画で次世代個人戦闘兵器OICW(Objecti
ve Individual Combat Weapon)が開発される。 OICWは、米国大手銃器製造メーカーH&K社と米国航
空宇宙・砲弾弾薬製造メーカーのATK(Alliant Techsystems Inc/アライアント・テクシステムズ)社が
共同で主契約企業に選定されM29の開発コード名称が与えられ、現在も開発中で、これだけでM16A
2、M4A1カービンとM203擲弾発射機(グレネード)を全て更新する画期的歩兵用アサルトライフルであ
る。

M29は、5.56mm弾(20/30発弾倉)アサルトライフルにブルバップタイプの20mm擲弾発射機(6発
弾倉)が一体化され、光学照準器、昼夜間兼用熱線映像装置(ビデオカメラ機能付き)と射撃指揮装置
(TA/FCS)、レーザー測距装置LRF(laser rangefinder)、デジタルコンパスDC(digital compass )が標
準で組み込まれている。 IHASと直結する事によりM29の照準をヘッドアップ・ディスプレイ上で行う事
が可能で、遮蔽物に隠れたまま体を曝す事無くビデオカメラ(M29)を向けるだけで射撃可能となっている。
TA/FCSの搭載とLRFで正確に目標を捕捉し、FCSスタビライザーで照準が補正され無理な姿勢からで
もヘッドアップ・ディスプレイ上のレティクル(照準点)に合わせるだけで精密射撃が可能となっている。
20mm擲弾発射機は従来のM203 40mmグレネードに代わる物で、口径は縮小したが威力はほぼ
同等の性能を有する。 また、TA/FCSの搭載によって瞬発・遅発・空中炸裂が選択可能となっており、
中でも空中炸裂モードは面制圧が可能で、LRFとDCの併用で正確な距離と方角を算出し従来の40m
mグレネードと比較にならない攻撃力を発揮出来る。現在は開発段階だが、重量が8kg強もある為陸軍
では5kg台まで軽量化を図るように要求している。 

OICWの候補として開発された、プロトタイプ
XM29。


H&K USA(Heckler & Koch)で開発された
最新型M29インテグレーション。


ATK社がOICWの候補として提案したXM29
Block1(上)、Block3(下)



現段階でランドウォリアーの火器サブシステム
となっているM4A1RIS(上)。H&K社が開発
したM29インテグレーションのベースとなった
G36アサルトライフル(下)。

H&K M29インテグレーション。 ブラシェア社
(Brashear LP)が開発したTA/FCS(射撃指
揮装置)内臓光学昼夜間兼用照準器。


ブルバップタイプ20mmグレネード(上)。
5.56mmアサルトライフル(下)。



(上)ブラシェア社照準器には高性能FCSとレ
ーザー測距器(LRF)、デジタルコンパス(DC
)、昼夜間兼用熱線映像装置(TWS)が組み
込まれている。
(下)トリガー付近に配置されているセレクトス
イッチで信管の選択から距離の入力、射撃パ
ターンをFCSに入力できる。


OICWで使用される20mmグレネード弾と5.
56mm弾。






ヘッドアップ・ディスプレイで熱線映像装置(T
WS)を見ながらLRFで距離と照準を行なえば
FCSが適切な補正を行なう。


20mmグレネード弾の空中炸裂モード。LRF
で距離が判別すればFCSが最適の空中炸裂
を行なえるように信管にデーター入力を行なう


ランドウォリアー戦闘チーム。編成は6名だが
以前の1個分隊(9〜11名)より戦闘能力は
大幅に向上する。



M4A1に取り付けられたビデオカメラ機能付き
照準器で以前では考えられない様な姿勢から
ヘッドアップ・ディスプレイ上だけで正確な射撃
を行う事が可能となる。




サイバー歩兵の戦闘は、優勢な情報収集力と
情報分析力で決定付けられ、効率的な攻撃目
標の選定を行い、熱線映像装置(TWS)で昼
間でも隠蔽している敵兵を的確に攻撃する事
が出来る。 また情報の共有化は、自らが攻撃
を行なわなくても航空・砲撃支援も可能で、近
年の精密兵器の躍進で圧倒的戦闘力を確立し
ている。
ランドウォリアーは各種実験により極めて有効
な戦闘システムである事が実証されているが
今後も総重量とバッテリー、コスト面では課題
が残る。 陸軍では当初2014年までに4500
0セットの導入を計画していたが、予算削減で
34000セットまで削減している。
ランドウォリアー計画第二世代(GEN II)では
システムのセキュリティー対策も施され、サイ
バー兵士が万が一捕虜及び装備が鹵獲され
た場合のシステムプロテクトと個人認識システ
ムも導入する。

今後ランドウォリアーサイバー歩兵は、陸軍の
戦闘部隊に配備され、空軍・海兵隊でも順次
導入計画が検討されている。









Produced by Mirage




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