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【コラム】

セカンド・オピニオン

(45) バスのアーキテクチャ - 過去から未来へ(6)

2003/09/18

大原雄介

○速度向上のための2つの方法その1:LVDS

等長配線の困難さをどう解決したか、とその前に「何で等長配線が困難になったか」の理由をもう少し説明したい。

信号ラインが500MHzかそこらまでは、配線の材質や配線の工夫を凝らす事で何とか解決した。ところが、これを超えると流石に伝達が困難になってきた。理由はいくつかあるが、要するに波形の乱れ方が激しいために伝達時のエラーが急激に上がってしまい、「データ伝達」というバスとしての本来の機能が果たせなくなってきたためである。これを解決するための方法として登場した2つの技術がLVDS(Low Voltage Differential Signal)とUniDirectionalである。これについて説明しよう。

まず最初はLVDSであるが、そのためにはベースとなるDifferential Signalingの話をまずしなければならない。通常、信号を送る場合は1本の信号線で伝達可能である(図1-1)。これはこれまでも論じてきた話である。これに対して、Differential Signalingでは図1-2の様に、2本の信号線を利用して伝達を行う。で、受け取った側は(a)と(b)の信号を引き算することで、実際のデータを得る事が出来る。

図1-1 通常の信号
図1-2 Differential Signaling

なぜこんな事をするかというと、図1-3のケースを考えると判りやすい。(a)と(b)の信号を近接して配置することで(通常はTwisted Pairを構成する)と、例えばノイズが入ってきた場合でも、(a)と(b)の両方に同じ形でノイズが載るから、受け取った側で引き算をすることで、ノイズがキャンセルできるからだ。このノイズに強い、という特性が買われて、長い距離を引き回す場合や、信号が高速になる場合にはDifferentialが広く使われてきた。更に、これを応用した形としてPseudo Differential(図1-4)という方式もある。例えば4bitの信号線があった場合、これを普通にDifferentialにすると8本の信号線が必要になる。ところが、どうせ片方は一定レベルの信号だから、4本分まとめても問題ない、ということで、信号4本+アース1本という5本で構成するというものだ。この方式、そうはいってもあまり本数が多いと外部ノイズの影響が大きくなるので、多くて8本程度が上限(このあたりは実装による)だそうで、あまり使われてはいないが。

図1-3 Differential Signalingの目的
図1-4 Pseudo Differential

ということでDifferential Signalingの説明が簡単に終わったところでLVDSである。これは要するに、2本の信号で位相を反転するやり方である。図1-5がその例だが、振幅を図1-1や1-2と比べて半分に減らす事ができる。この状態で(a)から(b)を引くと、振幅は2倍になるのでもともとの信号が得られるという仕組みだ。これが何故良いかというと、振幅を半分に減らせる事だ。つまり信号の電圧自体を低くする事ができる訳である。電圧を落とすとどういったメリットがあるかいう話はコチラ(【第42回】バスのアーキテクチャ - 過去から未来へ(3) )でしたので繰り返さないが、LVDSを使うことで劇的に電圧を減らし、結果として高速化できることになる。

図1-5 LVDS

例えばSCSIバスがその一例である。Ultra SCSIまではSingle Ended(通常の信号ライン)もしくは通常のDifferential Signalingで構成されていたが、Ultra2 SCSIからはLVDSで構成される様になった。これにより、信号の転送速度は40MHz(Ultra2 SCSI)から80MHz(Ultra3 SCSI)まで高速化できる様になっている。また、液晶ディスプレイなどの出力方式としてもLVDSは普及しており、あたかも「映像出力の規格」の様な呼ばれ方をしているが、それほどLVDSが欠く事の出来ない技術になったという証明の様なものだろう。

ただしLVDSを使う限り、Pseudo Differentialの方式は利用できないため、信号の数はSingle Endedの倍になってしまい、配線は更に面倒になるという事態が出てきているのは困ったものである。

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