ホーム > きょうの社説


2007年11月21日

◎美川仏壇に鑑定書 偽物追放も価値向上に必須

 白山市の美川佛壇協同組合が、組合加盟店以外から購入した「美川仏壇」の真贋(しん がん)の判定に乗り出し、基準を満たしたかどうかの「鑑定書」を発行するという取り組みは、ブランドの名を借りた偽物が横行する中で、本物の価値向上につながる試みであろう。技を極めることと同時に、真贋を見分ける目を持ち続けることも、伝統の継承に直結する。

 石川県内から、美川仏壇をはじめ多くの工芸品や農産物、温泉などが地域団体商標(地 域ブランド)の認定を受け、全国でもトップクラスの数となっているが、消費者の側も、地域ブランドに厳しい目を向け、高い品質と安心感を求めるようになってきた。認定されたことが到達点ではなく、その価値を維持し、さらに向上させるための出発点であると考え、業界の中に本物と偽物とをしゅん別するシステムを作っていくことも今後の課題となろう。

 県内の仏壇業界では、同じ地域ブランドに認定された金沢仏壇も、今年度から検査合格 証に職人の氏名を記載する取り組みを始めた。七尾仏壇も堅牢さを前面に出して売り込みを進めるという。石川の伝統工芸の総合芸術の感もある仏壇だけに、作り手のこだわりも大きく、認定を機に、特徴を生かして他との違いを際立たせる意欲が見えてきた。

 美川仏壇の場合も、これまで県外で製作されたり、部材が外国製品であっても美川仏壇 として販売するケースが後を絶たなかったこともあり、同協同組合では、不正販売の抑止や消費者保護の面から、「本物」とのお墨付きを与えるために厳しい認定基準を設けており、場合によっては法的措置も辞さないという強い姿勢も示している。

 組合では、加盟店に対して抜き打ちで鑑定を行っているほか、昨年七月に組合員十五人 からなる鑑定委員会を発足させ、組合加盟店以外から「美川仏壇」として購入した仏壇について、素材である木の材質や塗り、金具、彫刻などをチェックし、基準に達しているかどうかを調べることにしたという。

 こうしたルール違反を見逃さない作り手の姿勢が、地域ブランドの価値を下支えしてい ると言え、他の地域ブランドの関係者も大いに参考にしてもらいたい。

◎税率引き上げ論議 消費マインド冷やすだけ

 福田内閣の発足後、消費税をめぐる論議がかしましい。福田康夫首相が〇八年度には消 費税率を上げないと表明し、いったんは論議を引き取ったかに見えたが、政府税制調査会が〇八年度税制改正答申の最終案で消費税引き上げに言及するなど、余塵がくすぶっている。政治家や官庁サイドから、消費税に関する不用意な発言が飛び出すたびに、消費マインドが冷え、足下の景気に悪影響を及ぼしていることを承知の上での発言なのだろうか。

 今、サブプライム問題の行方に世界がかたずをのんで見守っている。世界規模で景気の 失速が懸念されるからであり、米国は金利の追加利下げのタイミングをうかがっている。それなのに日本の一部の政治家や官僚たちは、まるで別世界の住人のようで、緊張感が伝わってこない。消費税の引き上げなどできる政治・経済状況ではないことを百も承知のくせに、言わずもがなのことを言う意図がさっぱり分からないのである。

 今のうちから消費税率アップは不可避と言い続けていれば、いずれ引き上げる時期に抵 抗が少なくて済むと考えているからだろうか。もしそうだとしたら、随分国民をバカにした話だ。まず政と官が血を流す決意で歳出削減を徹底して行うかどうかを、国民は冷静に見ている。

 政府税調の最終案は、三年ぶりに消費税引き上げの必要性を指摘した。先の福田首相の 発言を受け、引き上げの時期や幅に触れなかったのは当然としても、▽経済動向や人口の変化に左右されにくい▽社会保障財源の中核を担うにふさわしいなどと、消費税を評価する記述が盛り込まれた。導入に向けた地ならしをしておく狙いが読み取れる。

 だが、今は消費税引き上げを本気で論議する時期ではない。サブプライム問題が泥沼化 の様相を見せ、日米欧の株価が大幅に下落し、景気回復の足取りが怪しくなってきている。日本経済の先行きに明るい希望が持てないと、個人消費はいつまでたっても盛り上がらない。

 こんな状況下で、消費税引き上げに含みを持たせる意味はあったのかどうか大いに疑問 だ。個人消費に悪影響を及ぼし、景気の足を引っ張るだけだろう。


ホームへ