韓国の韓悳洙首相と北朝鮮の金英逸首相による十五年ぶりの南北首相会談がソウルで開かれた。十月の南北首脳宣言の具体化が話し合われ、結果が合意書の形で発表された。
八項目からなる合意書には首脳宣言に基づく経済協力拡大のスケジュールが詳細に書き込まれた。南北をつなぐ京義線を使った開城工業団地への鉄道貨物輸送を十二月中旬に始めることや、来年前半に黄海での共同漁業事業と安辺での造船工場建設に着手することなどが盛り込まれた。首相会談を半年に一度、定例化することでも合意した。
協力拡大の行程表といえ、南北の経済協力が一気に本格化することが考えられる。しかし、合意書には北朝鮮の核問題に関する言及はなく、韓国が求めていた韓国人拉致被害者や朝鮮戦争で捕虜となった元韓国軍兵士の扱いについても進展はなかった。
懸案事項を置き去りにして経済協力を進める韓国政府の姿勢に、疑問を感じる。南北は続いて二十七日から平壌で開く国防相会談で軍事的問題を話し合うとしている。融和に走り過ぎないか、懸念されても仕方なかろう。
韓国では一カ月後に大統領選挙が行われる。最大野党ハンナラ党側もまとまっていないが、与党側の不利は否めないようだ。盧武鉉政権には、政権を譲り渡さざるを得ない可能性を考え、これまで進めてきた融和政策が後戻りできないようレールを敷く意図があるのだろう。
韓国内にも核問題が解決していない現状で、経済協力のみを突出させるのは望ましくないという声はある。大統領選を控えているからこそ、次の政権の足かせとなるような政策は抑えぎみにするのが、当然の政治手法ではないのか。現政権が経済協力を進めた後で仮に次期政権が急ブレーキをかければ、北朝鮮との間に大きな摩擦を呼ぶことにもなりかねない。
盧大統領自身、経済協力は「平和へのテコであると同時に、事が起これば人や物資が人質になる危険も増える」と認めている。
北朝鮮は六カ国協議で年内完了が合意された核の無能力化作業に着手してはいる。だが、確実な実行へ保証があるわけではない。韓国の現政権としては、経済協力とリンクさせることで実行を促し、さらに全面核放棄へ導くというのが筋であろう。
日本の拉致問題も解決へ道筋が見えない状態だ。進展させるには韓国の協力が欠かせない。六カ国協議各国の結束が乱れれば、北朝鮮につけ込まれかねない。連携の強化が何よりも重要だ。
二〇〇八年度の税制改正に関連し、福田康夫首相は消費税率の引き上げ見送りを表明した。これにより〇九年度の基礎年金の国庫負担増に必要な財源問題の決着も事実上、先送りされることになった。
基礎年金の国庫負担割合は、〇九年度には三分の一から二分の一に引き上げられる。その財源は約二兆五千億円、消費税1%分に相当する。首相は先の自民党総裁選で、年金財源に関し「消費税を含めた手段を考えるのは当然必要」とし、政権発足後は消費税率アップに向けた議論を活発化させてきた。
だが、新テロ対策特別措置法案で国会情勢が緊迫化し早期の衆院解散・総選挙が取りざたされる中、一転して及び腰になった。今回の首相の判断は選挙を意識してのことだろうが、その場しのぎと批判されても仕方あるまい。
財務相の諮問機関である財政制度等審議会は十九日に提出した〇八年度予算編成の指針となる建議の中で、消費税を含む税制改正の実現を求めた。しかし、年末の税制改正作業で政府・与党は、将来的な増税の必要性を指摘する程度にとどめるとみられる。
消費税率アップを避けた首相は、歳出削減や経済成長を優先させるとする。ただ経済成長で税収増を図る手法は長期的に見て安定感に欠け、説得力は乏しい。まず歳出削減の徹底が不可欠である。
歳出削減で税率据え置きを唱える民主党は既に「税金のムダづかい一掃本部」を設け、不要な支出を洗い出し年金財源を生み出す考えだ。どこまで実効性のあるデータを明示できるか問われるが、首相も具体策を示し民主党と競うべきではないか。掛け声倒れに終われば、年金への信頼回復は遠のくばかりだろう。
(2007年11月20日掲載)