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  マネー  
【AERA発マネー】
 
シティバンク無法金融 米大手銀行が日本で犯した罪
 (2004年10月04日号)


 「邦銀は危ない」と世界有数のこの銀行に預金を移した人は少なくない。ところが、その富裕層向け部門は不正行為のデパートになっていた。(編集委員 山田厚史)

   ◇      ◇

 「こんな複雑な金融商品が年寄りに分かるはずがない」

 シティバンク丸の内支店に入った金融庁の検査官は、預金者リストを見て唖然とした。60代、70代の高額預金者の名前が並び、数千万から億単位の資金が「プレミアムデポジット」などのデリバティブ(金融派生商品)につぎ込まれていた。

 満期時の為替を予測させてカネを預かる商品だ。予想通りなら利回りが大きい半面、外れればたちまち元本が消えてしまう。素人が手を出せば大やけどしかねない商品だが、勧誘パンフレットは高利回りばかりを強調し、リスクにほとんど触れていない。

 「投機的な商品を預金型にして、元本が保証されているように顧客に思わせ、売りさばいていた」

 金融庁幹部はそう指摘する。顧客を誤解させるセールスを組織的に展開していたというのだ。顧客が解約を求めると、高い解約金を取っていた。

 さらに、検査官はある「匿名口座」を見つけた。スイスの銀行から数百億円のドル資金が振り込まれており、この口座から世界各地に送金され、運用されていたようだ。所有者を割り出すと、有名な企業経営者の家族だった。この経営者は一代で上場企業を起こした経済人という。

 シティバンクの責任者は「大事なお客様なので、匿名口座の依頼を断れなかった」と説明したというが、銀行側も違法なサービスで資金を取り込もうと積極的な営業をした、と金融庁は見る。

 銀行法は本人確認を義務付け、同一人物が複数の番号を持つことはできない仕組みになっている。シティでも顧客ごとに管理番号をつけ、名寄せする決まりになっている。上得意のお客に別番号をつけて匿名口座を開くなど、一担当者の判断だけではできない、と考えるのが金融界の常識だ。

 数々の不正が見つかったプライベートバンキング部門は、預金残高が3億円以上の顧客が相手。お客の希望に合わせ、担当者が様々な金融サービスを提供する。

 ○暴力団関連資金の疑い

 主にオーナー経営者や資産家が対象だが、検査では暴力団関係者と見られる口座も発見された。

 犯罪がらみのカネは口座を転々とするうちに、出どころが分からなくなり「きれいなカネ」に化ける。資金洗浄(マネー・ロンダリング)と呼ばれる脱法行為で、犯罪組織やテロ集団が使う手だ。このため、犯罪に絡む疑いがある資金取引は「組織的犯罪及び犯罪収益の規制に関する法律」(マネー・ロンダリング防止法)で銀行に通報義務を課している。シティは通報していなかった。

 露見する発端は香港だった。香港の金融当局に、「違法の疑いあり」とシティの支店から通報された日本人の名前が、丸の内支店の口座から発見されたのだ。

 「日本人の大口取引は海外でもジャパンデスクが管理している。香港で疑わしい取引があれば日本でも分かるはず。意図的に隠していたと判断できる」

 と金融庁は見ている。

 シティの広報担当者はこの口座について「暴力団関係の資金のようだ」と認めたが、金額については「申し上げておりません」と口を閉ざす。米同時多発テロ以降、米国は世界の金融機関に資金洗浄と匿名口座を厳しく監視するよう求めているが、米国最大の銀行で野放しになっていた形だ。

 害虫予防駆除会社キャッツの株価操作事件にもシティが一役買っていた。キャッツ創業者の元社長=相場操縦罪で起訴・公判中=が関連会社などを通じて自社株を買い上げていた事件。

 金融庁によると、シティは資金使途を確かめず、相場操縦の軍資金を用立てしていた。そればかりか、元社長に頼まれて、資金力のない業者が健全企業を装う「見せ金」にも融資していた。自治体との取引を始めるには、資金力があることを証明する「預金残高」を提示する慣行がある。足らない預金を嵩上(かさあ)げする融資をシティは行っていたとされる。

 違法な「抱き合わせ販売」も頻繁だった。シティが取り扱う中小企業の私募債を、銀行融資を条件に販売する手法だ。銀行にとって融資と販売の両方で業績が上がるが、債券価格が下落すると顧客に借金の重荷がかかるため、銀行法は融資を条件にした金融商品の販売を禁止している。

 横浜支店では元支店長が女性客から8億6000万円をだまし取っていたとして起訴された。外貨預金で損をさせた客に損失補填を迫られ、事情の分からない高齢者を狙って、預金を横領した。書類を改竄し、被害者に口座に入れたように見せかけるなど、内部のずさんな事務管理が犯行の温床になった。時効を含めると被害額は20億円を超えるという。だまし取ったカネは株や先物取引に注いだほか別荘や高級車を買っていた。一審で、懲役7年の判決を受けた。

 ○美術品も不動産も

 法律を無視したかのような積極営業は、海外不動産や古美術品にも及ぶ。銀行は美術品を売れないし、不動産販売は信託銀行の免許がなければできないが、シティは金持ち相手に手数料を取って斡旋や口利きをしていた。他業禁止をうたった銀行法に触れる。

 他業禁止違反は、4年前の検査でも指摘され、業務停止命令を受けていた。このとき問題になった部署はその後解散したが、そのビジネスをプライベートバンキング部門がそっくり受け継いで、違法行為を続けていた。

 「なめられていた、ということです。日本の金融当局が」

 一線で検査に携わっていた金融庁の職員は悔しそうに言う。

 金融関係者は口をそろえる。

 「米国でこんな数多くの違法行為を繰り返していたら、即刻、免許取り消し・国外退去だろう」

 米国では消費者への保護法制が整い、顧客に対する説明責任や営業の忠実義務が求められている。金融知識の乏しいお年寄りを騙すような営業には厳しい視線が注がれ、違法行為への処分は厳しい。

 大和銀行(当時)ニューヨーク支店で債券トレーダーが不正取引を繰り返し、巨額の損害を出した事件が95年に発覚した後、米国の金融当局は通報義務違反や検査を欺いた行為を厳しく叱責し、大和を国外退去させた。

 ○「処分甘すぎる」の声

 今回の金融庁検査でも、はじめシティは非協力的で検査忌避と見られるような行為も繰り返されたという。その中で一線の検査官は核心に触れる検査結果を示した、と言えよう。

 問題は、その後の処理だ。

 金融庁は9月17日、シティの丸の内支店、名古屋、大阪、福岡の出張所の業務を停止し、来年9月末で認可を取り消すことを通知した。4拠点で行っていたプライベートバンキング部門の閉鎖を命じたのである。しかし、

 「免許停止がプライベートバンキング部門だけというのでは甘すぎる、在日支店の免許取り消しを検討すべきだ、という意見が内部の検討会で出た」

 と関係者は証言する。違法・脱法のデパートとも言うべき現状は在日支店に責任がある。米国から派遣された在日代表が法令遵守の責任者だ。支店や出張所だけに責任を負わせるのは筋が通らない、という声は金融庁の現場に強い。

 処分は最終的に五味広文金融庁長官、竹中平蔵金融相のラインで決定された。

 「『相手がシティバンクではなかなかやっかいだ』という話は、6月ごろから漏れてきた」

 と関係者はいう。シティは米国を代表する金融グループ。ブッシュ陣営にもケリー陣営にも多額の政治献金を行っている。米財務相やウォール街は日本がどのような処分をするか関心を示していた、という。

 竹中金融相が8月に訪米した際、米金融当局とどのような話をしたかは明らかになっていない。

 「一年かけて部門を閉鎖するというのは、この間にプライベートバンキングのお客を信託や証券などグループ内の別口座に移す『経過期間』を与えたに等しい。はっきり言って甘い処理」

 金融当局内部から、そんな指摘も出ている。

 在日支店の免許をなぜ停止しなかったのか、金融相は「説明責任」を求められるだろう。 (10/13)




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