「ビッグバンの直接的証拠」を疑問視する論文(2)
2007年11月20日
「全く筋が通らない」と、Land氏はワイアード・ニュースに電子メールでコメントを寄せている。つまり、Verschuur博士が主張するような、WMAPがとらえた宇宙の種と銀河系の水素ガスの雲との間にある相関関係は偶然の一致にすぎない、とLand氏は考えているのだ。もしその通りなら、Verschuur博士の主張は、ブリトーの中にイエス・キリストの顔が見えたと信じる伝道師のようなものだ。
「よく知られたことだが、人間の目はしばしば異なるパターンの間に相関関係が見えると思い込む」とLand氏は言う。「だが、反相関関係を見ることはできない。だから、不規則に変化しているにすぎない2種類の(宇宙の)地図に相関関係があるように見えることもある」
WMAPプロジェクトの主要メンバーで、プリンストン大学の天体物理学者David Spergel氏も同じ意見だ。Spergel氏によると、Verschuur博士の「論文は根本的に間違っている」という。
同様に、NASAの研究者Gary F. Hinshaw氏も、「Verschuur博士が論文で主張する相関関係が(統計的に)有意でないということに、私はかなりの確信を持っている」と述べている。
結局のところ、Verschuur博士の主張が事実か否かという判断は、統計という不確かな分野に委ねるほかない。つまり、近いうちに結論が出る見込みは低いということだ。統計的な解釈をめぐる議論が、時として堂々めぐりになることは、歴史が証明している。
正統派の宇宙論を支持する人々は、Verschuur博士の画像分析は統計的に根拠が薄弱すぎて、真剣には受け取れないと口をそろえる。これに対しVerschuur博士は、自身のデータについて、統計的な操作によって価値が失われるほど不確かなものではないと反論している。
天文学者は教え子たちに、天体観測で実際には存在しないものを見たと報告し、恥をかいた天文学者の話を教訓として聞かせている。火星の「運河」より笑える例を挙げると、1920年代にある天文学者が、月面に昆虫の大群を見たと主張した。
19世紀には、水星の軌道の内側に惑星があると天文学者たちが報告し、「バルカン」と名付けた。後にこの報告は誤りとされ、現在は最も有名な架空のバルカン人、『スタートレック』のミスター・スポックにその名残をとどめるにすぎない。天文学者もわれわれと同じで、見たいと思うものが見えることがあるのだ。
現在、天文学者たちに突き付けられている問題は、どちらが真実を「見ている」のか――Verschuur博士か、それとも自分たちか――を明らかにすることだ。
Verschuur博士は論文を発表するとき、「恐怖」を感じたという。テネシー州メンフィス郊外の小さな町に住む大学のいち研究者が、たった1人で天文学界に挑戦状を叩きつけようというのだ。
そんなVerschuur博士の慰めは、妻からのこんな一言だ。「忘れないで。あなたはデータの示すところを伝えているだけなんだから」
[日本語版:ガリレオ-米井香織/高橋朋子]
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