現在位置:asahi.com>天声人語 天声人語2007年11月20日(火曜日)付
東京に木枯らし1号が吹いた日曜日、新宿御苑を歩いた。このところの冷え込みで落葉が進み、芝生の日だまりに点描画ができている。黄、赤、茶。風のひと吹きごとに、サワサワと、いくつもの色を落とす木があった。桜である▼過日の本欄で、ハナミズキをほめた。春の花、秋の葉、赤い実と年に3回楽しめる多芸ぶりのことだ。引き合いに出した桜を「春の一芸」と書いたところ、「秋の桜も捨てがたい」とのお便りを何通かいただいた▼花木界の大スターだけに、春の「全国ツアー」に目を奪われ、葉色の移ろいには無頓着だった。だが、秋の余興を見逃さない人がいるものだ。一枚一枚が変化を競う不ぞろいの妙を、ある読者は「優しくて複雑な至芸。セザンヌの色づかい」と教えてくれた。近くで見上げ、その観察眼にうなずく▼北国から雪の便りが増え、きのうは九州でも初氷が張った。ようやく、寒暖の帳尻が合ってきたかに見える。温暖化に押されたままでなるものかと、地球が気合を入れ直したのか▼温暖化をめぐる国連の統合報告書は、これから20〜30年の努力が分かれ目だと警告した。怠れば、取り返しのつかない海面上昇や生物種の絶滅につながる。事務総長は「世界の科学者は声を合わせた。次は政治家の番です」と訴えた▼異常気象の時代に、順番通り、きっちり四季が入れ替わるのは頼もしい。自然が復元力を残しているうちに浪費生活を改めなければと、つい、人間代表みたいな顔で反省する。季節の底力を感じる冬の入り口である。 PR情報 |
ここから広告です 広告終わり どらく
一覧企画特集
朝日新聞社から |