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香山リカのココロの万華鏡:市民対応、ベストな形は /東京

 私は、病院にいない日は大学にいる。医学部ではないので、ここでは授業をしたりゼミをしたり。医者であることをひととき忘れて、学生たちと楽しくすごしている。

 しかしときどき、「あなたは精神科医なんですよね、診てもらえませんか?」という問い合わせが大学に来ることがある。学内の学生なら「学生相談」ということで話をすることもできるが、まったくの外部の人の場合は、「ここでは医療行為は行っていないので」と断ることにしている。

 「じゃ、診療はけっこうですから、話だけでも聴いてもらえませんか」という場合は、答えに苦しむ。「相談といっても結局、医療が必要となったら、ここではできないわけですし」「とりあえず相談だけでいいんです」「でも、定期的にカウンセリングすることもできませんので」「一回だけでも」「次回から他施設に紹介するんじゃ、二度手間ですよ」「かまいません」などと、押し問答が続く。

 「とにかくここでは教員として勤務しているんで」と話を切り上げようとして、「でもあなた、医者なんでしょ」と言われて「はあ、まあ」などと答えてしまい、また振り出しに戻る、ということもあった。「直接、来ました」と研究室のドアをノックされたことも。

 たしかに大学は、外に向かっても開かれた場所でなくてはならない。実際に地域の人も聴講できる科目をもうけている大学、図書館や食堂を地域に開放している大学も少なくない。そうやって「さあ、みなさん、どうぞ大学へ」と言っておきながら、「個別に訪問されたり相談されたりするのは困ります」と断るというのも矛盾しているような気もする。

 いちばんよいのはこちらが「気軽に相談できる地域の精神科医リスト」を持っていて、「私がここで相談に乗ることはできませんが、この先生たちならおすすめできます」と紹介してあげることなのだろう。そして、先生たちに電話を入れて、「○○さんという方が行きますのでよろしく」ときちんと伝える。「ここではダメ」と門戸を閉ざすよりも、そのほうがよほど親切というものだ。

 しかし残念ながら、お世辞にも社交的とは言えない私は、気軽に紹介できる精神科医のネットワークも持っていない。何年たっても、「ここは大学なんで診療はできないのです」と判で押したように繰り返すだけ。ほかの大学教員たちは、どうしてるのだろう。研究室のドアをノックする市民にも親切に対応するにはどういう方法がベストなのか、誰か教えてほしい。

毎日新聞 2007年11月20日

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