全国の小中高校が二〇〇六年度に認知したいじめの件数が計十二万四千八百九十八件にのぼることが、文部科学省の問題行動調査で分かった。
前年度の六・二倍である。専門家はまだ「実態には程遠い」と口をそろえる。深刻さから目をそらしてはなるまい。いじめが絡む自殺者は六人いた。一気に認知件数が跳ね上がったのは、文科省がいじめの定義を拡大したのと、国私立校も調査対象に加えたためとみられる。
従来はいじめを「自分より弱い者に対して一方的に、身体的・心理的な攻撃を継続的に加え、相手が深刻な苦痛を感じているもの」と規定し、その視点で集計していた。今回は「一方的」「継続的」「深刻な」といった条件を削除し、「児童生徒が、一定の人間関係のある者から、心理的・物理的な攻撃を受けたことにより、精神的な苦痛を感じているもの」と改め、よりいじめ被害者の気持ちを重視するようにしたという。
いじめの定義や調査方法を変えた背景には、いじめを苦にした中学生らの自殺が昨年相次ぎ、社会問題化したことが挙げられよう。にもかかわらず、いじめによる自殺件数は「七年連続でゼロ」という、およそ実態とはかけ離れた調査結果が文科省から報告されたことなどに批判が集まっていた。
今回の調査結果について文科省は、数字を重く受け止めるとする一方で「学校現場がいじめの発見に努力した結果」と件数の増加を初めて積極的に評価した。
どこまでをいじめに含めるかの判断は、学校や地域によって異なる。実際、都道府県別の児童・生徒千人当たりのいじめ件数は、熊本県の五〇・三件から鳥取県の二・一件まで大きな開きがあった。
いじめの内容では「冷やかしや脅し文句」などが最も多く66%を占めた。気になるのは、パソコンや携帯電話のメールなどによるひぼう中傷の「ネットいじめ」が4%(約四千九百件)あったことだ。本人の知らない間に、悪口やデマが不特定多数に広まる実態が深刻化している。教育現場では「発覚するのは氷山の一角」との指摘があり、今後も増えるとみられている。
調査結果は子どもの立場で使われなければ何の意味もない。重要なのはいじめと真剣に向き合い、解消しようとする姿勢、教師の意識改革だろう。教育現場でいじめの情報をどうやって吸い上げるか、さらにいじめを認知した後の対応、解決にどうつなげていくか。いじめられる側に立って、保護者とも連携した真摯(しんし)な取り組みが求められる。
温暖化の原因や対応策などを研究する国際組織「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」は、スペイン・バレンシアで開いた総会で第四次の統合報告書を採択した。
地球温暖化の被害を小さくできるかどうかは「今後二十―三十年間の排出削減努力と、それに向けた投資が大きく影響する」と訴えている。科学的見地から世界に警鐘を鳴らすとともに、残された時間は少ないとのメッセージを鮮明に打ち出したといえよう。国際社会の早急な取り組み強化が求められる。
IPCCの報告書発表は六年ぶりだ。今後、世界各国の政策決定者が温暖化対策の方向性を決める上での「道しるべ」となるのは間違いない。
報告書は、今世紀末の平均気温が二十世紀末より最大で六・四度上がると予測した。温暖化によって生物種の絶滅など取り返しのつかない被害が出ることや、大気中の温室効果ガス濃度を二〇〇〇年レベルで安定化させたとしても温度上昇は当分続き、サンゴの白化や熱波による死者、森林火災増加などの影響が出ると警告を発している。
対策には費用がかかるが、温暖化で生じる経済的負担の方が大きくなる可能性が高いことも指摘した。被害を最小限に抑えるために必要な削減量や削減時期の目安を明示し、各国に選択を迫る内容にもなっている。
十二月、京都議定書以降の温暖化対策を検討する気候変動枠組み条約の締約国会議がインドネシアで開かれる。IPCCの問いかけに、最大の温室効果ガス排出国である米国や中国などがどう応えるかが焦点となろう。来夏の北海道・洞爺湖サミット議長国の日本も指導的役割を果たさねばなるまい。
(2007年11月19日掲載)