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連載コラム 鈴木貴博氏コラム「ビジネスを考える目」
 
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 そのような経験も踏まえていえば、トップの思考の世界には3つの特徴がある。

 1つには、情報量が違う。

 トップになればなるほど、常人が知らない情報が社内外から与えられるようになる。鳩山法務大臣が「本当のことを言えば世間がパニックになるような情報がある」とテロリストについて語って物議を醸したが、トップがそのような常人には与えられないレベルの情報に数多く接しているのは事実である。

 2つ目に、判断の基準が変わる。

 善悪、法令遵守、常識といった普通の基準では判断できない。高みに行けば行くほど、“別の基準”が次々と増加していく。善悪を超えたもの、超法規的、非常識といった言葉で形容される別の基準が思考を支配するようになる。

 そして3つ目に、決断を強いられる。

 どんな難しい問題に対しても、トップである以上、決断しなければならない。

 ところが、このような思考からはパラドックスが生まれてくる。彼にしか分からない決断がなされ、しかもそれが正しいかどうか誰にも分からない。さらに、大組織のトップはよく間違える。視座が高いから正しい判断をするのではない。逆である。新しい視座ではトップも判断を迷い、判断を間違うのである。

 トップが正しい判断だけを続けてくれたら、人類の歴史はいかに平穏なものだったろうか。

 国際競争力のためという視座で、偽装の請け負いを容認する国際的経営者の判断。テロリストとの戦いという視座で、ジュネーブ条約を棚上げする国家指導者の判断。思考が複雑なゆえに、単純な正しい判断ができなくなってしまう指導者は少なくない。

 常人には理解できない、しかも明らかに間違った判断をトップがしてしまうのは、常人が体験できない“思考の深み”の世界に迷い込んでしまったトップだけが引き起こしてしまう現象である。

 もちろん、明らかに間違った、ないしは明らかに正しい判断だけではない。トップの思考から生まれる大多数の判断は、すぐには評価できない判断の方がはるかに多い。歴史以外に判断できるものがいないといった判断もざらにある。

 では、落合監督の判断はどうだろうか。トップの思考の世界を垣間見た者として、僕は「理解できる」判断だと思った。しかし、常人である僕には、あの立場で同じ決断はできないだろうとも感じた。そして落合監督の判断が正しいかどうかは正直、僕には判断できる情報量も資格もない。

 少なくとも日本一となり、その後、アジアシリーズも制してセ・リーグのチームとしては初の、巨人も成し遂げていないアジアの頂点を勝ち取ったチームになったという事実は歴史に残る。

 一方で、落合監督自身が時を重ねたときに、あの時点での視座、あの時点での判断基準が正しかったかどうかについての意見は変わらないとは言い切れない。いや、おそらく変わるのではないだろうか。それほど本当の高みにあるトップの思考の世界というものは、判断のエッジ(先端)を行っているものなのである。



百年コンサルティング 代表取締役。
東京大学工学部物理工学科卒。
1986年に世界的な戦略コンサルティングファームであるボストンコンサルティンググループに入社。
ハイテク領域の大企業に対するコンサルティングを数多く手がける。
1999年にインターネットベンチャー企業のネットイヤーグループの取締役SIPS事業部長に転身。
2003年に独立し、百年コンサルティングを創業。企業の寿命30年の壁を越えるための成長戦略支援を行っている。
近著は、『アマゾンのロングテールは、二度笑う』(講談社)。

 
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このコラムの内容
P1
 落合監督の“非情の交代劇”に見る、トップの不思議な思考の世界


P2
 落合監督の“非情の交代劇”に見る、トップの不思議な思考の世界


P3
 落合監督の“非情の交代劇”に見る、トップの不思議な思考の世界

 
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