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憂楽帳:医療事故

 時計の針は午後10時を指そうとしていた。診療を終えた薄暗い医院の待合室。看護師に通されて2時間後、男性医師がようやく姿を見せた。だが、手術用の大きなマスクとキャップで顔をすっぽり覆い隠している。取材に応じるのかと思ったら受付ごしに「家宅侵入だ」と叫ぶ。「待たせたのだから顔ぐらい見せてくださいよ」と呼びかけたが、奥に姿を消した。

 医師は結局、妊婦が死亡した医療事故をめぐる訴訟で看護師にうそを証言させ、有罪が確定した。手術で子どもが死亡した別の病院では担当医が書類を改ざんしたのに、教授が「医学部も卒業していない親に情報を与えても分かるはずがない」とふんぞり返った。密室性と専門性は大きな壁だった。

 10年度をめどに厚生労働省の機関「医療事故調査委員会」(仮称)が発足し、再発防止に向け刑事責任より行政処分の模索を優先する。しかし、中心メンバーは同じ医療関係者。原因究明が少しでも身内に甘くなると、医療現場に与える影響も大きい。苦しむのはいつも被害者や遺族。そのことだけは忘れないでほしい。【小出禎樹】

毎日新聞 2007年11月19日 12時46分

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