トウモロコシや大豆、サトウキビを原料としたアルコール燃料「バイオ燃料」が、環境に優しい「夢のエネルギー」として注目を集めています。
地球温暖化の原因とされている二酸化炭素(CO2)の排出量削減に役立ち、しかも中東の石油に依存せずにすむようになるというのです。
CO2削減については、バイオ燃料に含まれる炭素は作物が成長する過程で大気から取り込んだものなので、それを排出しても大気中のCO2濃度は変わらず、理論上は、CO2の排出量は差し引きゼロになり得るのです。さらに、バイオ燃料はトウモロコシや大豆などの食用作物からだけでなく、理論的にはどんな植物からでもつくることができます。エネルギー資源に乏しい日本でも、新たにエネルギーを作り出すことができ、しかも生物である植物は再生が可能なため、農業地帯の経済を活性化する効果もあるといわれています。
ただ、これはあくまで理論上の話で、米国のバイオ燃料についてみてみると、現状では農家や農業関連の巨大企業には大きな利益をもたらしても、環境にはあまり良い影響を与えないといいます。トウモロコシの栽培には大量の除草剤と窒素肥料が使われるし、土壌の浸食を起こしやすく、エタノールを生産する工程で、得られたエタノールで代替できるのと大差ない量の化石燃料が必要になるからです。大豆を原料とするバイオディーゼル燃料のエネルギー効率も、それより少しましな程度です。また、米国では土壌と野生生物の保全のために畑の周辺の土地約1400万ヘクタールが休閑地になっていますが、バイオ燃料ブームでトウモロコシと大豆の価格が上がれば、この休閑地までも耕作され、土壌に蓄積されているCO2が大気中に放出されるのではないかと環境保護派は懸念しています。
すでに米国では、トウモロコシはここ何年来の最高値をつけ、米国の作付面積は、戦後最大規模にまで広がっています。収穫されたトウモロコシの約2割(5年前の2倍以上)がエタノール生産に回されているのです。燃料をつくるために、食品用には回せないという事態にもなりかねない状況です。
それでもバイオ燃料に寄せられる期待が大きいのは、ブラジルという成功例があるからです。ブラジルでは、ガソリンの代替燃料として、サトウキビからエタノールをつくる政策を導入して30年。昨年、ブラジル政府は、エタノールと国産石油の増産により、石油の輸入をゼロにできたと発表しました。再生可能エネルギーは将来有望な分野とみられ、著名な実業家たちが関連事業に総額700億ドル以上を投資しています。
「エタノール燃料は、製造方法しだいでは“百害あって一利なし”になりかねません。ですが、野生生物を保護し、土壌中に蓄積された炭素も放出せず、あらゆる面で恩恵をもたらすような方法もあります」と、天然資源の保護を訴える環境NPO(非営利組織)で活動するナサニエル・グリーンは言います。グリーンらによれば、成功の鍵は、食用以外の植物を原料とすること。バイオ燃料は、トウモロコシの茎、牧草、成育の速い樹木、さらには藻類からも作れます。こうした試みと同時に、車の燃費を上げ、地域ぐるみで省エネルギーに取り組めば、2050年までにガソリン需要をゼロにできるというのです。
日本でも、沖縄県ではサトウキビを原料とした燃料用エタノール製造の実証実験が進められていたり、食用油の廃油を回収してバイオディーゼル燃料を製造したり、菜種油から試験的な生産などが行われています。
昨年来、石油価格が大幅に上昇を続けていますが、こうした状況もバイオ燃料の導入を後押しするきっかけになりそうです。
20世紀は、石炭や石油などの化石燃料により、世界経済が大きく発展しましたが、21世紀には新しいエネルギーを検討し、新しいライフスタイルを考えていく必要があるのでしょう。
(日経ナショナル ジオグラフィック社 小槌 健太郎)
■関連情報
・ナショナル ジオグラフィック http://nationalgeographic.jp/
・ナショナル ジオグラフィック日本版10月号「バイオ燃料 実用案にもお国柄」
http://www.nationalgeographic.jp/nng/magazine/0710/feature01/index.shtml
2007年10月号 |