福田康夫首相は米国訪問を終えて17日深夜に帰国。ブッシュ大統領との首脳会談では「日米同盟が日本外交の要」であることを確認し、新首相として最低限の仕事は果たせたようだ。しかし、注目されていた北朝鮮へのテロ支援国家指定解除については、会談での具体的なやりとりが公表されず、指定解除は受け入れがたい日本の立場を強く主張したのかどうか、判然としない結果に終わった。海上自衛隊の補給活動再開など、多くの課題を残した外交デビューの印象が濃厚だ。(今堀守通)
■北朝鮮問題
「主張する外交」を掲げていた前任の安倍晋三前首相は、北朝鮮政策をめぐり「圧力」に重きを置き、拉致問題で譲歩しない姿勢をとった。ただ、同じく強硬路線を取ってきた米国が北朝鮮との関係改善に乗り出したことから、日米間に齟齬(そご)が生じだした。
そうした時期に登場した福田首相は、就任前後から「対話」路線に道を開く考えも示してきたが、安倍氏との比較で「軟弱外交」とのイメージを抱かれることは嫌う。このため、会談前には大統領に指定解除に関する日本の立場を明確に主張するとされていた。
しかし、同行筋が紹介した福田首相の発言は「核・ミサイル問題と並んで拉致問題の解決の重要性、テロ支援国家指定解除を含めた日米連携の重要性について説明した」にとどまり、具体的な発言は伏せられた。
ブッシュ大統領は「日本の拉致被害者や家族の人たちを置き去りにすることはしない」と日本側への配慮は見せたが、指定解除への具体的発言があったかどうかは不明だ。
このような結果に拉致被害者家族会は不満を表明しており、野党幹部も外交上の失点として批判材料にしようとする動きを見せる。
■海自補給活動
「法案の早期成立に全力を尽くす」
首相は会談で補給活動再開への決意を表明した。与党幹部は「首相の決意は非常に重い」(大島理森自民党国対委員長)、「事実上の国際公約」(公明党幹部)と受け止めているが、12月15日まで会期が延長された今国会でも、法案成立にはハードルが高すぎる。
守屋武昌前防衛事務次官の接待疑惑に絡み、野党側は会食に額賀福志郎財務相が同席していたという問題の追及を優先させて、新テロ特措法案の審議入りをさらに遅らせようとしている。
法案を成立させるために、会期の再延長、参院で法案否決後、衆院で再議決を行う必要があるとなれば、公明党は会期の再延長自体に慎重な姿勢も見せる。
安倍前首相は辞任表明の直前、補給活動の延長に「職を賭す」と発言したが、福田首相の言葉からはそこまで思い詰めたものは感じられない。
■個人的関係は希薄に
福田首相は会談の最後で、双方の父親(福田赳夫元首相とブッシュ元大統領)が納まった写真を大統領に贈った。「2代にわたる友好関係を演出する」(外務省筋)ねらいがあった。
しかし、大統領山荘のキャンプデービッドに招待された小泉純一郎元首相や安倍前首相と比べると、個人的関係の演出は希薄だった。
大統領サイドが「福田首相のアジア重視路線を懸念している」(首相同行筋)ことを事前につかみ、首相が先方の警戒心を解こうと、初の外遊先に米国を選んだともいわれている。
今回、米国産牛肉の輸入問題を大統領自身が強調したほか、昼食会でゲーツ国防長官が在日米軍の駐留経費問題で口をはさむ場面もあった。
ある自民党外交関係議員は「以前は首脳間の個人的関係の前にかき消されていた個別案件が、顕在化しだした」と、日米関係が微妙に変質していることを指摘する。
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