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【やばいぞ日本】忘れてしまったもの 番外(上)

2007.11.17 04:31
このニュースのトピックス学校教育
米国から帰国する日、各国の留学生との別れを惜しむ日本人留学生(左端)=AFS日本協会提供米国から帰国する日、各国の留学生との別れを惜しむ日本人留学生(左端)=AFS日本協会提供

 ■「うちは留学認めていない」

 「AFS」という知る人ぞ知る団体がある。1919年以来、高校生の国際交流を進めている国際ボランティア組織だ。その日本協会が主催する無償の海外留学プログラムに応募する高校生の数が最近10年間で半減しているという。

 最大の理由は生徒たちが通う高校側の事情だ。AFS交換留学に応募するには高校からの推薦状が必要である。有名大学合格率が下がることを懸念し、高校側がこれに難色を示すケースが、特に地方の有名進学校に多いらしい。

 「うちでは留学は認めていません」。教頭先生が冷たく言い放った。高校2年の秋から米国ミシガン州の公立高校での交換留学が内定していた山田雄一君(仮名)の夢はこの一言でついえた。

 彼は四国のある名門進学校に通う高校生だ。成績抜群の雄一君は中学のころから将来は英語を使って世界を舞台に仕事をしたいと望んでいた。AFS交換留学を通じて国際的な視野を広げ、いつか世界の恵まれない人々を助けたり、日本の環境技術を使って地球温暖化を食い止めたいと思ったのだ。その後も、雄一君の両親が校長先生に何度も食い下がったが、結果は変わらなかった。

 東大合格者を一人でも減らしたくないという進学校の都合と見えが優先され、自校生徒の自由まで奪ってしまったといえなくはない。「実に由々しいことです。問題の根源は東大を頂点とする日本の受験戦争にあるようなのです」とAFS日本協会の大山守雄事務局長は言う。

 交換留学プログラムに応募する高校生の動機はさまざまだ。単に語学力の向上だけでなく、国際公務員、外交官、国際弁護士などを目指したいと堂々と答える子たちもいる。いずれも共通することは、この高校生たち一人一人が若いながらも大きな志を胸に秘めていることだ。

 雄一君を派遣するAFSは54年から1万人以上もの交換留学生を派遣してきた「老舗中の老舗」だ。元官房長官の塩崎恭久、元外相の川口順子、元財務官の榊原英資、ミュージシャンの竹内まりや、など数え上げたらキリがない。戦後日本の発展を陰で支えてきた国際派日本人の多くはAFS留学経験者である。

 米国の学生交流NPOであるCSIETによれば、中国から米国高校に留学する生徒数は2003年の545人から06年の949人へほぼ倍増している。これに対し、日本からの留学生は同時期に1698人から1182人へと3割以上も減少している。しかも、数字が伸びない理由の一つが英語能力の低下だそうだ。やはり、日本の優秀な高校生は海外留学をしなくなっているのだろうか。

 グローバル経済化が進み、厳しい国際競争を生き抜いていくため、各国は若い人材の育成にしのぎを削っている。

 ところが日本では、すべてが内向きの教育制度の下、優秀な高校生ほど、足を引っ張られ、海外で勉強する機会が与えられなくなっている。これでは日本は今後、国際社会の中で確実に衰退していくだろう。(寄稿 宮家(みやけ)邦彦)

 ■世界に通用する人づくりを

 AFS交換留学への応募者数が減少している理由はほかにもある。AFSのプログラムは手作りのボランティア活動が基本だ。

 しかし、感受性豊かなこの時期に見知らぬ外国でさまざまな苦労をさせながら、人々の善意を通じて国際交流を体験させるこの方式には、地域、学校、ホームステイ先を選べないといった制約がある。

 さらに、あまり苦労をしたくない、させたくないという最近の高校生や保護者の傾向もあるようだ。

 留学生の男女比率も大きく変化した。派遣開始当初こそ、男女はほぼ同数であったが、1977年ごろから女子が男子の倍になり、今ではAFS留学生の4人に3人は女子だそうだ。

 最近の傾向は「男の子は学歴社会だから日本のちゃんとした有名大学に、女の子は実力の世界だから海外留学に」ということらしい。おいおい、男子の世界も実力社会ではなかったのか。

 女子留学生が増えること自体は大いに歓迎すべきだ。しかし、誤解を恐れずに言えば、日本の未来を背負うような優秀な男子高校生の留学が昔に比べて大幅に減っているのだとしたら、それは由々しいことである。中国を含む他国の高校では留学志向が強く、競争も厳しいので、最も優秀な子供たちがまず米国に留学する。ところが、日本では逆の現象が起こりつつあるようだ。

 思い返せば、1970年代後半に就職した筆者の同級生の多くは、海外赴任こそエリートコースと信じて疑わなかった。中高生のころは、品質の劣る日本製品をいかに海外で売るかが最も重要だと教えられた。

 ところが、70年代ごろから日本の出世パターンは変わり始めたようだ。日本製品が爆発的に売れ始め、海外勤務よりも国内業務が重視されるようになったからだろうか。その典型例が大手銀行の「MOF担(大蔵省担当)」である。今は死語となった「護送船団方式」の下で、融資で企業を育てる「本業」よりも、大蔵省銀行局からの情報入手がはるかに重要だった。銀行の審査機能は低下し、不良債権が増大する。それでも官僚に対する企業側の接待競争は激化し、揚げ句の果てが「ノーパンしゃぶしゃぶ」であった。

 そんなことに加え、経済がグローバル化する中、国内経験だけでは生き残れないと考えたのだろう。日本の実業界ではこの数年、海外経験の豊富な人材が次々とトップに就任している。

 20年以上の米国勤務経験がある御手洗冨士夫・現日本経団連会長を筆頭に、多くの大手企業で「国際派」が重用されている。

 しかし、それでも企業では海外勤務を断る若手社員が増えているという。各種ブログにも「外国勤務が出世コースだったのは過去のこと、わが社で海外出向は左遷人事だ」といった書き込みが目立つ。こうした風潮がAFSに応募する高校生たちにまで及んでいるのだろうか。

 世界に通用する大学生を養成する教育システムづくりこそ、子供たちの将来のために、また、日本国の将来のためにも、早急に整備する必要がある。

                   ◇

 宮家氏は外務省に入省し、中東アフリカ局参事官などを経て退職。現在立命館大客員教授、AOI外交政策研究所代表。54歳。

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米国から帰国する日、各国の留学生との別れを惜しむ日本人留学生(左端)=AFS日本協会提供
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