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2007年11月18日(日曜日)付

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日米会談―今後見すえた連携を

 よほど微妙な会話があったということなのだろう。訪米した福田首相とブッシュ大統領との会談で、北朝鮮のテロ支援国家指定をめぐって何を話し合ったのか。「米側との了解」で、具体的なやりとりは公表されなかった。

 核放棄に向けての北朝鮮との交渉を踏まえ、米政府は年内にも指定を解除する方針だと言われる。だが、拉致問題で何の進展もないのに、重要な交渉カードであるテロ支援国家指定の解除が先行するのは、日本政府としては好ましくない。

 これをどう調整するのか。今回の首脳会談の最大の焦点だった。

 米側関係者によれば、米国の解除方針に変わりはなく、首相から拉致問題が進展するまで指定を解除しないよう求める直接的な発言はなかったという。

 公表しなかったのは、拉致に厳しい日本の世論への配慮や、両政府間のずれが露呈するのを避けたいという双方の思惑からのことに違いない。

 解除するかどうかは、北朝鮮が核施設の無能力化を約束通り実行するかなど、北朝鮮の今後の出方にかかっている。米側が事前に胸の内を公言するわけにはいかない事情もあったろう。

 大統領はその代わり、拉致について「決して忘れない」と明言し、北朝鮮問題で日米が緊密に連携していくことを確認した。この約束は重く受け止めたい。

 拉致問題は一日も早く解決しなければならない。けれど、北朝鮮の姿勢を見れば簡単には運ぶまい。今後の交渉も見すえて、米国の協力を確かなものにしておく重要さは小さくないのだ。

 一方、インド洋での海上自衛隊の給油再開について、首相は「特措法の早期成立に全力を尽くす」と約束した。この手形をどう落とすか、国会の会期を再延長するかどうかを含め、帰国すれば難しいかじ取りを迫られる。

 ブッシュ・小泉時代の「日米蜜月」を支えたのは、日本がインド洋やイラクに自衛隊を派遣したことだった。自衛隊の海外派遣では極めて抑制的だった従来の路線から日本は踏み出し、米国は北朝鮮問題での日米連携で応えた。

 ところが今はどうだろう。米国の「テロとの戦い」はイラクをはじめ、世界各地で行き詰まり、来年の米大統領選に向けての論戦でも米軍撤退があからさまに語られている。給油活動の再開に日本の世論が割れているのも、そうした空気と無縁ではない。

 北朝鮮をめぐっても、米国の積極姿勢を歓迎しつつも、少し前のめり過ぎないか、懸念する声が出ている。

 こうしたずれは首脳会談などで調整していかねばならないが、同盟国だからといって利害がすべて一致するわけでもない。時として米国との対立を辞さない欧州を見ても、それは明らかだ。

 互いが国益を主張し合い、その上で共通のゴールを模索して協力する。それが日米関係の成熟であるとも言える。

診療報酬―患者を困らせないように

 診療報酬の議論が本格化している。そう聞かされても、自分には関係ない、と思う人がほとんどではないか。

 しかし、どんな医療を受けられるかは、診療報酬の決め方で大きく変わる。だれもがいつ病気になるか分からない。本当は無関心ではいられないはずだ。

 診療報酬は、健康保険から病院や診療所に支払われる治療や薬の価格だ。どんな病院でどのような治療をすれば、いくら払うか、というようなことを決める。開業医より病院に手厚くすることもできるし、産科や小児科の取り分を他科より多くすることもできる。

 この診療報酬をうまく使えば、患者にとって、もっと便利で安心できる仕組みをつくることができるのだ。

 診療報酬の議論の場は、中央社会保険医療協議会(中医協)だ。政府はこの議論をにらみながら年末の予算編成で医療費の総額を決定する。その後、中医協は具体的な医療費の配分を決める。

 まずは、病院の勤務医を少しでも増やし、過酷な勤務を軽くすることを求めたい。いまのような病院の状態では患者も不安だからだ。病院への報酬をもっと手厚くし、病院の内容ごとにきめ細かく配分する必要がある。

 医師不足は産科や小児科などで目立つ。特に産科は医師数も減っており、お産ができない地域すら出てきている。

 地方の中核病院の医師不足も深刻だ。東京の周辺でも、忙しすぎる勤務に耐えかねた医師が辞め、内科や外科が閉鎖されている。

 患者の生き死ににかかわる病院は診療報酬を高くし、医師をたくさん雇えるようにしたい。そうすれば、きちんと交代制で働き、休みもとれる。当直明けの医師がそのまま夕方まで患者を診るようなこともなくせる。

 そのためには、開業医の取り分を病院に回す荒療治が避けられない。たとえば、開業医の初診料や再診料を引き下げることが考えられる。

 日本医師会は強く反発している。しかし、厚生労働省の調査によると、開業医の年収は約2500万円で、勤務医の約1400万円を大きく上回る。勤務医から開業医への転身が増えているのも、収入が高く、仕事が楽だからだろう。

 一方で、休日や夜間も診てくれる身近な開業医の報酬を増やすことも忘れてはならない。自宅で最期を迎えたいというお年寄りが増えており、医師が24時間体制で往診し、緩和ケアをすることがますます必要になっているからだ。

 小泉政権の5年間、診療報酬の伸びはマイナスやゼロが続いた。そして医師不足など病院の疲弊が目立ってきた。

 財務省は引き続きマイナスを求めていく方針だ。しかし、深刻な医療の状況を考えれば、「初めに引き下げありき」でいいのかどうか。本当に必要な医療には資金を手当てし、患者をこれ以上困らせないようにしてほしい。

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