政府が閣議決定した初の「自殺対策白書」は、人口十万人当たりの自殺死亡率が世界九番目で欧米の先進諸国と比べ突出して高水準にあることに強い危機感を示した。社会全体で危機意識を共有して、あらゆる角度から対応を強化していきたい。
白書は昨年六月に成立した自殺対策基本法に基づいて作成された。警察庁の統計では二〇〇六年の自殺者は三万二千百五十五人と九年連続で三万人を超えた。同年の日本の自殺死亡率は二三・七人となり、英国や米国、カナダの二―三倍程度も高い。白書は一九五五年前後と八五年前後に続き戦後三つ目のヤマにあると分析した。
背景には主として多重債務や長時間労働、失業、介護疲れ、いじめなどの社会的な要因を挙げる。これまで自殺は個人的な問題として見過ごされることが多かった。「自殺は本人の選択だから止められない」「自殺したいと口に出す人は本当は死なない」といった考えが社会に根強く、予防策などの取り組みが遅れてきた。
しかし、自殺対策基本法の制定で流れが大きく変わったのは間違いないだろう。基本法は自殺は社会問題と位置付け、国や自治体などに自殺対策実施の責務があると明記した。基本法に基づいて策定された「自殺総合対策大綱」には、一六年までに自殺死亡率を二割以上減らすとの数値目標が盛り込まれた。
白書は大綱で打ち出された「自殺は追い込まれた末の死」との基本認識を踏まえ、行政や民間のさまざまな対応事例を取り上げた。
各都道府県には「自殺対策連絡協議会」の設置が求められ、今年九月末現在で四十二となった。本年度中にすべて設けられる予定という。行政や警察、大学、医療機関、労働局などの公的機関と、いのちの電話協会といった民間団体がタイアップして対策を進める組織である。形式的な情報交換のような場に終わらせず、地域ごとの原因調査や分析をはじめ、相談窓口と医療関係者や弁護士らとの連携強化など実効性のあるものにする必要がある。
民間レベルでは、熊本県の医師会などでつくる「自殺予防サポートネットワーク」が、救急医療機関と精神科医の連携により自殺未遂者の精神的ケアにあたる例などを紹介している。
自殺対策は遺族への対応なども含め、とにかく悩みを抱えた人が孤立しないような環境を整えることが不可欠だろう。職場や学校、家庭、地域など各分野で粘り強く取り組みたい。