二〇〇六年度の「いじめ」件数は前年度の六倍を超えた。いじめの定義が変わり、調査対象も広がったためだが実態にはまだ遠い。いじめ情報は学校内にとどめず、保護者も加わって解決したい。
文部科学省がまとめた〇六年度の「児童生徒の問題行動」調査で、小中高校と特別支援学校が認知したいじめの件数は約十二万五千件にのぼり、前年度の発生件数に比べて約六・二倍だった。
衝撃的な急増ぶりだが、調査対象に私立や国立校を加えたことと、いじめの定義を変えたことが影響している。これまでいじめは「弱い者に一方的に身体的・心理的な攻撃を継続的に加え、相手が深刻な苦痛を感じているもの」との定義だった。
〇六年度からは「児童生徒が一定の人間関係にある者から、心理的・物理的な攻撃を受けて精神的な苦痛を感じているもの」となった。被害者側からいじめをとらえる転換であり、積極的に解決していこうという姿勢の表れだ。件数の呼び方も「発生」から「認知」に改められた。
この見直しは、いじめ自殺が昨年相次ぎ、国や教育委員会は実態把握ができていないと批判が出たことによる。同省は「実態に近づいた」というが、まだ開きがありそうだ。
いじめを「認知した」学校は約二万二千校で55%だった。「認知していない」が半数近くあるが、いじめが「なかった」とは思えない。被害を受けていても訴えない子供がいるはずだ。そんな子は周囲や学校は解決してくれないと悲観し、無力感に陥っている。学校は、常にいじめがあるものと構えているべきだ。
調査はいじめの巧妙・陰湿化も指摘する。匿名性を利用し、いわれのない悪口を携帯電話にメール送信したり、ネット掲示板に書き込む手口も増えている。子供が携帯メールをこっそり見るようになるなどの兆候に保護者は気を配る必要がある。
いじめをなくすには学校だけでなく、保護者の対応が不可欠だ。調査結果をみると、学校の対応で「保護者会やPTA総会などで保護者に報告した」は認知件数の約5%にとどまった。いじめを認知したとき、学校は報告説明の機会をつくるべきだ。そうでないと保護者の不信感が募り、両者が協力しての防止策がとれなくなる。
自殺した児童生徒の状況で「いじめ問題」が六人いた。同省は具体的な説明を「学校や教委が行うものだ」と控えた。プライバシーへの配慮は当然だが、個別の状況を公表してほしい。死を選ぶまで追い込まれた悲痛なメッセージがあるはずであり、いじめ根絶に生かすべきだ。
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