◎ビエンナーレ佳境に 豊かな文化土壌の実感が定着
 九月から開催されている2007ビエンナーレいしかわ秋の芸術祭が佳境を迎えている
。財団法人石川県芸術文化協会の加盟四十団体による熱のこもった舞台や力作の展示に触れると、あらためて、この地に豊かな文化土壌が定着してきたことを実感させられる。違和感なく、そう言えるようになったことが、「ビエンナーレ」を続けてきた成果であろう。
 先人の残した文化の蓄積が、いかに豊かであっても、今を生きる担い手たちが、文化に
よって地域を創る「文化市民」の意識をもって自己研さんに励み、受け継いでいかなければ、単なる過去の遺産になってしまう。そんな研さんの成果を披露できる最高の舞台が「ビエンナーレ」だと言えよう。
 一九九九年から隔年開催している「ビエンナーレ」は、今回が五回の節目となり、十二
月二日までの期間中、金沢市を中心に、各地で音楽や舞踊、生け花、文芸、美術展など三十七公演が順次開催されている。テーマである「石川の美・芸能・創造」からも感じ取れるように、担い手の厚みと分野の広がりを見れば、「しょせん地方の舞台」などという言葉は当てはまるまい。
 それは昨年、県芸術文化協会が設立十周年に合わせて、オーストラリアのシドニーで開
催された「豪州・日本祭いしかわ」に参加し、そこで披露した質の高い舞台が、現地で大きな反響を呼んだことからも分かる。同国から県内への初のパック旅行の誘致に成功するきっかけにもなり、今後の交流の芽をはぐくんだ。
 このような形での文化発信は、芸文協のもとに県内の多彩な文化団体が結集し、総合芸
術祭である「ビエンナーレ」という発表の場を得たことによって実現できたと言えよう。生活の中にも自然に溶け込み、二年に一度、芸術に浸る二カ月半を心待ちにしている県民も多く、興味のあるいくつもの公演に足を運ぶ人も珍しくない。
 北陸新幹線の金沢開業が迫る中、文化土壌に磨きをかけることは、この地に多くの人を
呼び込み、活気をもたらす意味で不可欠な要素である。芸術の送り手も受け手も、そんな意識をもってビエンナーレを末永く盛り上げていきたい。
◎バーゼルと薬都交流 大学同士の関係強めては
 大手製薬企業が立地し、「世界の薬都」と呼ばれるスイス・バーゼルにあるバーゼル大
医薬技術研究所の研究員が来月、富山を訪れる。先ごろ、富山県薬業連合会の調査団がバーゼルを訪問した成果が早くも表れた格好であり、「薬都交流」に弾みがつきそうだ。製薬業界だけでなく、富大や富山県内の各研究機関も巻き込んで、交流のパイプを太くしていきたい。今後の展開として、たとえば、バーゼル大と富大の関係強化なども考えられないだろうか。
 バーゼルの製薬企業の研究開発を支えているのがバーゼル大なら、富山でそうした役割
を果たすことを期待されているのが富大だ。最近は国内でも東洋医学への関心が高まっているが、欧州ではそれ以上に「最新の知識」として興味を持たれているという。調査団に参加した富大和漢医薬学総合研究所の済木育夫所長の講演に対する反応がよかったことからも分かるように、富大が積み上げてきた研究成果には欧州の研究者も引かれるに違いない。富大側も、産学官連携で製薬産業の発展を目指しているバーゼルから学び取れるものは小さくないはずだ。
 富大は現在、大学間では九カ国二十八機関と、部局間では十七カ国六十機関と学術交流
協定を結んでいるが、バーゼル大との交流には、それらの機関のケースとはまた違った意味合いもある。両大学の交流が企業間、地域間交流を後押しすることにもなるのである。地元貢献の一環としても検討する価値はあろう。業界側も、二つの薬都の「知の拠点」の交流実現を働き掛けてはどうか。
 富大だけでなく、薬事研究所など富山県の試験研究機関も積極的に交流にかかわっても
らいたい。バーゼルとの関係を緊密にすることは、「薬の富山」のブランド力を高める手段として効果的であり、富山全体の知名度向上にもつながろう。
 もちろん、交流を拡大していくために第一に求められるのは業界の努力だ。調査団派遣
やバーゼル大研究員の訪問を足がかりにして個別企業間の提携などを積極的に模索し、実質的な成果につなげてほしい。バーゼル側と「対等」の関係を維持するため、個々の企業が特徴ある技術を磨くことも忘れてはならない。