エルフは森の中でひっそりと暮らす種族だ。レン西方の大森林最深部には、大陸最大のエルフの隠れ里がある。 が、なくなった。 魔物の軍勢が現れ、一夜にしてこの里を蹂躙尽くしたのだった。 光の術に長けたエルフたちは果敢に抵抗した。しかし、魔物たちは彼らの想像以上に強力で、しかもよく統率されていた。 そして最もエルフたちを絶望させたのは、魔物たちを率いていたのが彼らの英雄的存在である星辰の巫女リーゼロッテだったことだ。 「巫女殿……どうしてこんなことを……! 同族たる我々を……」 エルフの長は、リーゼロッテの姿を目の当たりにし愕然とした。最も光の祝福を受け、最も叡智と高貴さを備えたエルフは、いまや完全に変わってしまっていた。 「簡単なことよ。邪神様がご統治する世界に、光の神に依存する汚らわしい種族はいらないもの」 瑞々しい少女の容姿はそのままながら、その顔には冷酷な笑みが浮かび、身体は闇の気に包まれていた。エルフにとって害のはずの闇の気に。 「平気なのですか巫女殿!? あなたの同胞を虫けらのように殺し、何も感じないのですか?」 「馬鹿者、何も感じないはずがないでしょ。嬉しくて仕方ないわ。かつての自分の忌まわしい過去を抹消できるんだもの」 男勝りの少女の表情が、不意に艶っぽい気配を帯びる。闇の誘惑に屈服した娘だけが持つ妖艶さだ。リーゼロッテはまるでワインでも嗜んでいるような目で、破壊され燃える故郷を観賞していた。 「なんてことだ。あなたは悪魔の誘惑に屈してしまったのか。あなたも、しょせん真の強者ではなかった……」 「むっ」 「最低だ……。ひど――」 「わたしを侮辱していいのはご主人様だけよ!」 そのとき、リーゼロッテの手に出現した剣が一瞬でエルフの長の喉の皮を切り裂いた。 以前の彼女が使っていた光の剣ではない。闇そのものが形を作ったような禍々しい黒の剣だ。 「ご……しゅじんさま……だ と ?」 エルフの長はガクリと膝をつく。 「ロ……ッテ……おまえ……うぐぅ……」 喉から血を溢れさせ、しゃがれ声になりながらもエルフの長は威厳のある声で訴える。 「ロッテ……! 目を 覚ますのだ……わたし の孫……! お 前 は、あのよう なけ がらわ しい悪 魔な どに従う はずは……」 と、長が言い終わる前に、黒い一閃がエルフの長の首を撥ね飛ばした。 「ご主人様の悪口を言っていいのはわたしだけよ! この劣等種!」 紅蓮の炎が森を燃やした。 もともとエルフたちが圧倒的に分は悪かったが、長を失った彼らに勝ちの目は潰えた。 それからは戦いではなく一方的な虐殺だった。神聖な森の苔土はエルフたちの血で赤く染め上げられ、アールマティ聖教の神像はことごとく無惨に破壊された。エルフたちはあまりに唐突で理不尽な仕打ちを憂う暇もなく、切り刻まれ、犯され、ひとりまたひとりと息絶えていくのだった。 夜が白み始め、殺戮と陵辱の宴が終わる頃、リーゼロッテは魔物たちに命じ数名の若いエルフを連れてこさせた。彼ら彼女らは術で眠らされていたのか、身体のどこにも大きな負傷はない。リーゼロッテは微笑みかけた。 「お前たちはエルフという種を保存しておくため、生かしておいてあげる。感謝しなさい」 その暢気な口様に、当然ながらエルフたちは激昂する。 「こ、殺せっ! ひと思いに殺しなさいっ!」 「この悪魔の走狗ども!」 「呪ってやる! よくもお母様を! お姉様を!」 「おやおや。威勢がいいこと」 空気をピリピリ震わせる怒号にもリーゼロッテが悠揚迫らぬ様子でいると、その傍らで、もう1人の少女が笑った。桃色の髪の、幼さを残した少女だ。 「ふふ。いつかのロッテを見てるみたい」 プリムローズだった。 「むっ……」 「このガンコさ、そっくり。やっぱり血族かしら」 「うるさいぞプリム、いつまでそんな昔のことで先輩をからかう気だ」 「あれ? ご主人様のしもべとしてならわたしのほうが先輩だよ?」 「……むかむかっ」 リーゼロッテは面白くなかった。 プリムローズがわずか1日で主人への忠誠に目覚めてずっと忠勤を続けてきたのに対し、リーゼロッテは愚かにも延々と抗い続けて主人に手間をとらせた。彼女は主人への貢献度でプリムローズに大きく水を開けられたのだ。そのせいで、プリムローズときたら大聖堂にいたころより彼女に対し生意気になった。 「ねぇロッテ、この子たちの教育はわたしに任せてくれない?」 などと言って肩にしなだれかかってくる始末だ。 「図々しい! わたしの里のやつらはわたしの獲物だ!」 「ね、きっとうまくやれるわ。お願い、ロッテ」 おねがい。 プリムローズがそう耳打ちすると、不意に、凛然としたリーゼロッテの目が虚ろに曇る。表情が消えたまま、口を半開きにしてぼうっとプリムローズの顔を見る。 「ね? いいでしょ?」 「――わかったわ。やってみなさいプリム」 「ありがとう! ロッテ大好き!」 牢獄で彼女がリーゼロッテに施した暗示は、条件を限定されていながらもまだ効力を保っていたのだった。 プリムローズは、魔物に手足を拘束されているエルフたちに和やかに話しかけた。 「ねぇねぇ。せっかく生かしておいてあげるのに、どうしてわたしたちが憎いの? 泣いて感謝してくれればいいのに」 「ふざけるな! わたしたちの家族や仲間たちを殺しておいて……!」 エルフの目から熱い涙が零れる。 「母上様はわたしを庇って死んだんだ……! 母上様を殺したお前たちを、わたしは、絶対に許さないっ!」 「わたしの姉上様はっ! わたしの目の前で裸にされてっ……そして……うっうっ……」 「あらあら」 プリムローズは屈託なさすぎる笑顔のまま、彼女らの眼前に顔を寄せた。 「肉親の絆は美しいわね。でもね、そんなのよりずっと素晴らしいものを教えてあげる」 プリムローズが短く呪文を唱える。すると、彼女の手に漆黒の弓が出現した。 「っ!」 矢で貫かれることを予想し、エルフたちは歯を食いしばる。 しかしプリムローズの右手は弦に触れると、ハープのような音を鳴らした。 「……ぁ? ……!」 その瞬間、エルフたちの目が見開かれる。 すると、ついさっきまで緊張状態にあったエルフらの表情が、急激に弛緩していく。 荒々しく動悸していた心臓の音が、やすらかなハープの音にあわせ鎮まっていく。エルフの表情のなかに刻まれた敵意がたちまち消えていき、子守唄を聞く赤子のように安らかな顔になる。 「ぁ……え……」 「なに……これ……」 1本の弦であるにもかかわらず、プリムローズの指は自由に音階を出し、そのメロディはどんどん深みを増し多様化していく。やがてそれは、エルフたちそれぞれの記憶の最も原始的な音楽に変化していく。 「ぁあ……あ……」 心を揺さぶる記憶に、エルフたちは完全に引き込まれ、たちまち警戒心を解きほぐされていった。 それは母に抱かれて聞いた子守唄であったり、友と歌った童歌だったり、教会で歌った賛美歌であったりした。プリムローズの音色は記憶の奥底にあるそれを模倣し、いつしか完全に成り代わっていく。 「(ああ、なんだったろう。ずっと以前にこれと似たような音楽を聴いた気がしたけど、思い出せない……。でもそんなことどうでもいい。この音楽より素晴らしい物なんかあるはずがない……この音楽を奏でるこの人も……)」 「(あぁ、でも駄目。憎まないと……姉上様たちを殺したこいつらを憎みきらないと……)」 「(でも……なんていい音楽……こんな音を出せる人が、悪い人のはずが……)」 恍惚とするエルフたちの目には、親兄弟を死に追いやった犯人が、まるで崇高な聖人のように見えた。彼女らより幼い少女が、まるで世界に君臨する女王のように見えた。 「さあ、楽にして。あなたが意固地に抱えている怒りや憎しみなんかより、もっとずっといい物をあげるから……」 プリムローズが弦を鳴らす指に力を込めると、エルフたちの脳内で鳴り響いていた音楽が爆発的に音量を上げ、彼女らの脳を激しく振るわせる。 彼女らは一瞬、大事な物をすべて失ってしまいそうな恐怖を感じたが、その直後に、目も眩むような快感に襲われた。あまりにも甘美なそれが絶大な水量の波涛のように彼女らの心に侵入し、元あった物を洗い流し、漂白していく。 同胞や家族を殺された怒り、悲しみ、そんなものはたちまち彼女らの頭から追いやられ、その座が新しいものによって成り代わられる。 数十秒も経つ頃には、彼女らは完全にこの音楽の虜となっていた。以前に心のその座にあったものが何なのかさえ、綺麗さっぱり忘れてしまっていた。 「ぁあ……」 涎を垂らし、口を半開きのまましどけない表情を晒すエルフたちに、プリムローズは1人1人の顔を見ながら優しく語りかけた。 「この音楽が好き?」 「はい……」 「母上様や姉上様のことよりも?」 「誰れすかそれ……」 「ふふ、忘れちゃいましょ? そんなもの。うすぎたない種族のことなんか忘れちゃっていいんだよ? これからあなたたちは闇の寵を受けた新しいエルフとして生まれ変わるんだから」 プリムローズの指から生じた黒い煙が、幾筋にも別れ蛇のようにエルフたちの身体に絡み付いていく。すると、エルフたちの肢体がぶるぶると波打った。 「気持ちいい?」 「はい……」 「あなたの家族はこんな気持ちよさを味あわせてくれた?」 「いいえ……」 「じゃあ、あなたの家族は取るに足らない下らない生き物だったのよ」 「はい……」 エルフたちは完全にプリムローズが与える力に全幅の信頼を置いていた。子供が愛しい母に甘えるような表情で彼女を見つめている。 プリムローズはエルフたちの額や頬に手をあて、優しく丹念に撫でる。彼女らの体は最初はぎこちなく強張っていたが、やがて自らプリムローズの手に絡まろうとするように官能的に上半身をくねらせ始める。 「家族を殺されたことを怨んでる?」 「いいえ……」 「そうよね。むしろ、感謝してるよね?」 「はい……感謝します」 「おっと、わたしじゃなくて邪神タローマティ様にね」 「はい……」 邪神のその名が囁かれると、エルフたちの表情にはっきりと喜悦が浮かんだ。 「さあタローマティ様は、これより何倍も素晴らしい悦びを与えてくださるわ。わたしたちと一緒にレンに行きましょう」 「はい……」 もう拘束の必要はなかった。エルフたちは何かを期待するような浮かれた表情で自らドラゴンの背に乗っていった。 「ふぅん。手馴れたものだなプリム」 後ろで眺めていたリーゼロッテは舌を巻いた。 「うふふ。家族の絆なんてものを心の支柱にしている者は、そこを突かれるとすぐに崩れるものよ。わたしがそうだったからね」 プリムローズは意味ありげに微笑んだ。 「そんなものよりも大事な物は、ご主人様との絆。さ、帰りましょ」 「ああ、わたしたちのご主人様のもとに」 その名のことを口にしたとたん、凛々しき戦巫女たちの顔がたちまち乙女の顔になった。 こうして、1500年もの間エルフたちを育んできた聖なる里はその幕を閉じたのだった。 ドラゴンに乗ってレンに帰る道中、2人の巫女たちは殺戮の興奮も覚めぬうちに、彼女らの主人のことで頭がいっぱいになっていた。 プリムローズの頭にはもうエルフの里のことなど頭から消えていた。リーゼロッテも、同郷人の顔や、断末魔などもう覚えていないだろう。 はやくご主人様のもとに帰りたい……。胸に飛び込んで、いっぱい甘えたい。 2人の巫女は同じ想像にそれぞれ小さな胸を躍らせるのだった。 いっぽう、レンの城。 邪神タローマティの上を、大小2つの肢体が波打っていた。 「ふぁ……陛下……ふぁん……」 ポピレアは、少女から女に変わろうとしている肢体をシーツの上に妖しくくねらせていた。 「陛下……いいです……んぁっ……ふぅ……」 フローラは豊かな体をタローマティに押し付け身をよじっていた。母と子2人の恥部は ともに雨後の花壇のようにつやつやと濡れている。 「えへへ……。陛下……こんなのはいかがです……」 フローラが自慢の乳房をタローマティの頭部にあてがっている隙に、ポピレアは股間に顔をうずめていた。 そのまま、自慢の縦ロールの中に、タローマティの肉棒を招き入れる。 「陛下……わたしの髪にいっぱい出してください……」 ポピレアはそのまま頭部を上下に揺すり始めた。蜂蜜色の髪房が蔦のように螺旋状にタローマティの肉棒を包み、陰嚢をくすぐり、幾重にも連なった重層的な快感を与える。 「まぁ羨ましいわ、ポピレア。わたしの髪じゃこんなことできないもの」 それを見たフローラもタローマティの股間に顔をうずめ、指先を鈴口にあてがい、くりくりと渦巻状に刺激する。 母と娘の同時の奉仕にタローマティの男性器はたちまち膨らみ始める。4つの青い目はそそり立つそれとタローマティの顔を交互に見上げながら、より官能的な熱を帯びていく。 ラストスパート。ポピレアは脳が零れるのではと思うほど頭を揺さぶる。フローラはあらゆる角度から指の腹を亀頭の先に擦りつける。 その2つの回転刺激に耐え切れず、蜂蜜色の髪に、しなやかな指に、大量の白濁液が放たれる。 「「んっ、んんんぅ、ぁあ!」」 同時に、母子の肢体がびくんと波打ち、反り返った。 「ふぁ……ひぃ……」 自慢の髪を精液まみれにした姫が、うっとりとした表情でタローマティを見上げていた。 「フローラ。娘の髪をきれいにしてやれ」 「はいもちろんですわ陛下。うふふ……」 フローラは娘の髪に口を吸い付け、精液を舐めとる。一房一房に唇を這わせ、髪に絡みつく粘液を吸い取る。美しき女王の舌はなめくじのように髪の上を這い、白濁液を取り込んでいく。 「ああ、お母様、わたしも……」 ポピレアも負けじと母の指についた精液を舐め取る。 おしゃぶりを食む赤子のように指に吸付き、表皮の中に染み込んだ水分さえ残さないように強く吸う。 母子の表情はお互い淫縻に蕩けていた。 「はぁ……ちゅぱ……」 「んむぅ……んぁ……ふぅ……ちゅう……」 精液を口の中に含むたび、彼女らは上り詰めていく。舌で舐めとった精液が彼女らの喉を嚥下するたびに絶頂感の波が広がる。 「うぁ……はぁ……」 2人の顔と手が精液の代わりにお互いの唾液まみれに成り果てたころ、2人は一方の手で互いの手を繋ぎながら、もう一方の手でタローマティの腰にすがりつきながら、幸福そうに眠りに落ちていった。 「よく聞けフローラ、ポピレア。これがお前たちが味わう唯一の快感だ」 「「はい……」」 蜂蜜色の髪の母娘は、まどろみの中にいながら目をタローマティの方に向ける。 「俺以外の男に触れられても一切の快感を得ることはない 強い苦痛と惨めさしか得ることはないだろう」 「「はい……」」 「それは過去でも例外ではない。俺以外の男に抱かれた経験はお前にとって忌々しいものだ。わかっているな、フローラ?」 「はい……陛下」 次にタローマティは、縦ロールの娘のほうに向き直る。 「ポピレア、お前は母が好きだな? 母と同じように思考し、母と同じように物を感じるんだ。だから、母の恥はお前の恥だ、母の悦びはお前の悦びだ」 「はい……」 「フローラ、ポピレア。今俺が言ったことを遵守すれば、永遠に俺のしもべのままでいさせてやる」 「「はい……」」 催眠状態にあるフローラ・ポピレアの顔がはっきりとした歓喜に華やいだ。それぞれ今の命令を、脳に奥深くへ繰り返し繰り返し刻み込んでいるようであった。 「よし……いい子だ。眠れ」 タローマティは2人にシーツをかぶせ、寝所を発とうとする。と、いつの間にか開いていた扉の隙間からのただならぬ視線に気づいた。 リーゼロッテだった。 「――あんまりだわ。わたしたちはご主人様のために命からがら戦場から帰還したのに、ご主人様は他の女と乳繰り合っていたなんて……」 リーゼロッテは、ハンカチを噛み締めながら、涙していた。 「しかも不潔だわ。こんな小娘を相手にいたしちゃうなんて……!」 「お前も似たようなものだろう」 彼女はムッと眉を顰める。 「百歩、百歩譲って、あの小娘はいいとして、母親と2人一緒だなんて節操がなさすぎると思うわ」 「そう言うな。親子丼というものもなかなかいいものだぞ」 「……」 リーゼロッッテはハンカチを噛み千切ると、ムシャムシャ食べてしまった。それを咀嚼すると、一転してにこやかな顔で近寄ってきた。 「ふふふ。わかったわ……。ご主人様はそういうお方だもんね」 言い終わる前に、彼女の手に闇の剣が出現する 「ご主人様を殺して、わたしも死ぬ!」 瞬間、リーゼロッテは小さな身体を撓らせて飛びかかってきた。 「てやぁああああっ!」 彼女は渾身の力で剣を振り下ろす。 それは、彼女とタローマティとの出会った日の戦いとまったく同じ太刀筋だった。 しかし、往時とは状況は変わっていた。邪神タローマティは復活してから日に日に神話時代の力を取り戻しつつあり、もう最強の巫女リーゼロッテすらそれに敵わないほどだった。 「ぐっ!」 彼女の必殺の一撃は、タローマティによって弾き返された。 リーゼロッテは壁を蹴って再び飛びかかる。が、第2第3の一の太刀もあっさりいなされ、たちまち彼女は床に押し付けられる。 「やぁあっ! やめろっ! やめなさいっ! こんなことっ!」 リーゼロッテは全力で抵抗するが、タローマティに取ってはむずかる子猫をあやすようなものだった。たちまち剣を叩き落とされ、喉元を押さえつけられる。タローマティは難なく彼女の上に馬乗りになった。 「んぐっ! うぁっ! は、離せっ!」 彼女はのたうち回り、必死で逃れようとする。 「リーゼロッテ。お仕置きが必要だな」 「っ!」 すぐそばにベッドがあるにも関わらず、冷たい床の上に彼女を押さえつけて足を開かせる。 「や、やめろっ!」 びりびりと乱暴に下着を剥ぎ取る。 「あ、ああああっ! こ、このわたしになんてこと……っ!」 リーゼロッテは拳でタローマティの背中を叩き、必死で足を閉じようとし、首をぶんぶん振って拒絶と嫌悪の意思を示す。 「わ、わたしを犯しても、心までは奪われないぞ! 永遠にお前を軽蔑し続けてやるっ!」 その仕草、そのセリフは、彼女が初めてタローマティに犯され純潔を奪われたときのものと、寸分違わず同じである。彼女は喚いた台詞や抵抗の仕方も正確に記憶し、忠実に再現している。 もちろん彼女はそれを、意図的に行っており、それを楽しんでいるのだった。 言ってみれば、これは強姦ごっこだ。 彼女は、初めて主人に体を捧げた記念すべき瞬間を再現したいのだった。 ただの滑稽なごっこ遊びに見えようとも、彼女にとっては大事な儀式である。プライドを根こそぎ奪われるあの陵辱を再体験することで、彼女は自分が主人の被支配物であることを確認する。過去の自分が味わった最大の屈辱を、そっくりそのまま主人に服従する悦びに置き換えるための儀式だった。 「はぐぅ……ゃ……いやぁ……はぁ……んっ……」 この儀式も、1分も経つ頃には 、過去の事実と明らかに違い始める。 どう拒絶する振りをしても、彼女の髪の毛1本にまで刻まれた闇の快感と主人への忠誠は、邪神の愛撫を喜んで受け入れてしまう。それは彼女にとって絶対で、演技で偽る余地などない。 気高い戦士の顔が見る見るうちに雌の顔になり、従順にタローマティに体を預けていく。 「ぁ……わたしの負けです……愛しいご主人様……」 ついさっきまで戦士の誇りである剣を持っていた手で、邪神の剣を丹念に愛撫し、自分の秘裂に招き入れる。そこはすでに女の蜜でぐしょ濡れになっていた。 タローマティの肉棒が彼女の身体の中で律動し、かき回し始める。 「んっ……ひゃ……。んっ!」 彼女はそれをより深く飲み込もうと動きに合わせ身体を沈める。 お仕置きのつもりか、タローマティその動きはリーゼロッテを喜ばせるためとはほど遠い乱暴なものだ。だがそれでもリーゼロッテを絶頂に誘うには十分すぎるものだった。 「あぁっ! あっ! ぁ、ぁ、ご主人様ぁあああ!」 彼女が感極まった叫びをあげる間も、タローマティの肉棒の先は休むことなく何度も子宮の奥を付き、押し上げる。子宮の形が変わるのではと思うほど激しく暴れまわる。 「んっ、ん、んぁあああああっ!」 リーゼロッテが絶頂に大きく体を反らせたその時、彼女の中で邪神の精が熱く爆ぜる。 「! ぁ……」 自分の子宮が主人の精液で満たされるのを感じ、リーゼロッテの魂は終わらない絶頂感の波の中で彷徨った。 身も心も主人に屈服していると確認することが出来るこのときが、リーゼロッテの至福のときだ。自分の中に雑草のように湧いた浅ましい自尊心の芽を刈り取り、主人の奴隷として再調教してもらうこのときを、リーゼロッテは何よりも愛した。 この儀式は、いつも彼女のこの一言で幕が下ろされる。 「ごめんなさいご主人様……」 許しを請うような目でタローマティにすがる。 「ずっとご主人様のしもべでいさせて……。もっともっと忠実に尽くすから……」 タローマティの許しが得られると、リーゼロッテは甘えた顔をすり寄せ始めるのだった。 彼女は媚びた顔で、自分の膣液で汚れた主人の剛直を舌で甲斐甲斐しく清め始める。 「ああ、幸せです、ご主人様……」 夜が来た。 レンの王宮にある、大理石の浴室。 その中に、プリムローズがいた。 「ご主人様、では失礼します」 身に巻いたバスタオルを解くと、彼女は自分自身の身体を泡石鹸で包み、おもむろにタローマティの腿をまたぎ全身を押し付ける。 「んっ……」 彼女はその際微かに声を漏らし身を震わせたが、すぐに平静そうに身体を動かしはじめる。 乳房を擦りつけ、股間の茂みをスポンジ代わりにしてタローマティの皮膚の汚れを落とし、勃起した乳首で汚れをこすり落とした。 細かい部分の掃除には、胴体ではなく舌を用いた。タローマティの指に舌を這わせ、爪の先から水かきまで、汚れ一つないように丹念に舐めとる。 浴場に薫きしめられた香と、汗ばむ娘の匂いが混じり合い、タローマティの鼻をくすぐる。 「痒いところがおありでしたら、おっしゃってくださいね……おとうさま……」 乳房、恥丘、腕、指、髪、舌。プリムローズは彼女の全身を使ってタローマティのありとあらゆる部位を清めていく。タローマティの体に汚れひとつさえないように、彼女は目を皿にしてせわしく動いた。 だが、そうして体を触れ合わせているうちに、どうしても彼女のほうが先に感じてしまう。 「はぁ……あ、あん……」 プリムローズの足の間から、石鹸の泡ではない液体が滴る。彼女の動きが澱む。 怠けてはいけないとばかりにプリムローズは奉仕を続けるが、体を擦り付けるほど彼女を悩ます性感が高まってしまう。 「あ……おとうさま………もうっ……あ……」 彼女の身体が燃え上がるにつれ、彼女の目はついつい股間にある雄々しい男性器にちらちらと向かってしまう。 本当は今すぐにあれに貫かれたい。身体の中をかき回してほしい。 彼女は自分の想像に生唾を飲み込む。 だめ……。なに考えてるの、わたし……いまはおとうさまのお体をお清めしないと……。 と、今まで動き一つ起こさなかったタローマティの手が伸び、プリムローズの額に触れた、 「ぁ……」 「プリム、よく聞け」 「はい……おとうさま」 瞬間、プリムローズの目は虚ろに濁る。 「感じてはいけないと思うほど、お前は強く感じてしまう」 「はい……」 「一度高まった感覚は、鎮めようとしてももう決して下がらない。絶頂に達するまで強くなる一方だ」 「はい……」 プリムローズはその言葉を何度も頭の中で復唱する。タローマティが指をぱちんと鳴らして彼女を我に帰すまで。 「あ、申し訳ありません、おとうさま……」 彼女はあわてて奉仕を再開する。 感じちゃだめ、感じちゃだめなんだから……。 しかし彼女の乳房が押し付けられた瞬間、彼女の胸の中で形を持った稲妻が暴れ回る。 「! きゅふぅ……」 彼女の体が電気に打たれたように硬直し、反り返る。 だめ……感じちゃだめ……感じちゃだめだってば……。 彼女はとろけそうになる体をガチガチにこわばらせ、滑稽なほど唇を力強く結び、奉仕を再開する。 うすい恥毛の先がタローマティの身体に触れるだけで 快感が走る。それにかまわず彼女は股をタローマティの腿に下ろした。そのときタローマティは足を少し上げて、意地悪く膝頭で恥部をつつく。 「い、いぁあああああああっ!」 そのとき、彼女の中で無数の火花が炸裂し、視界がフラッシュした。 彼女の動きが完全に停止する。頬は真っ赤。息は荒く乱れ、股から大量に蜜が流れ、タローマティの脛を汚していく。 「はぁ……はぁ……うぅ……はぁ……ぁ……」 何があったか、隠しようもなかった。 プリムローズの心は羞恥と罪悪感で真っ暗だった。 なんてこと……。わたしったら、おとうさまのお体をきれいにしてさしあげるはずが。なんて淫らな娘だろう……! 恥ずかしい……。 おとうさまはこんな浅ましい娘を呆れてしまうかもしれない。もうご慈愛くださらないかもしれない。 いやだ。そんなのいやだ! 「うぅ……うぁ……うっ」」 プリムローズは泣いた。幼い寄る辺のない娘のように顔をくしゃくしゃにする。どうしようもなく絶望感があふれる。たとえるなら、唯一の肉親を失った幼女のような顔だった。 「泣くな。俺の可愛い娘」 タローマティがプリムローズの桃色の髪をそっと撫でた。 「ああ……おとうさま……」 「お前ひとりで楽しむのはずるいな」 「は……」 「俺にも、お前と同じ悦びを分けてくれないか」 「は、はい……っ!」 タローマティは抱っこをするようにプリムローズの体を軽々と咲き上げる。 そして、そのまま彼女の体を剛直に沈めていった。 「あむっ……あぁ……はぁ……んっ……あ、おとうさまっ……」 タローマティの動きに合わせ、プリムローズは腰をより深く沈めていく。タローマティの体を清めていたときのように義務を果たそうとする動きではなく、心のままに甘える動きだった。 プリムローズの心は温かい喜びに包まれていた。肉体の垣根を越えて、身も心も父と一体になれる。彼女にとって父親であり、主君であり、神であるその男に、プリムローズは全身全霊で応えた。 「おとうさま……っ!」 彼女の中に精が注ぎ込まれる瞬間、彼女は両手を天に掲げ、恍惚に身震いする。 娘の父に対する愛情、しもべの主人に対する愛情、そして人間の神への愛情。すべてがプリムローズの中で感極まっていた。このすべてを同時に得られるのは世界で自分だけだと思うと、プリムローズは自分の運命に感謝する。 「おとうさま……」 心地よいけだるさのまま、プリムローズはずっとタローマティに抱きついていた。抱きついたまま、彼女はタローマティに何度も口付けをした。 わたしはずっと、おとうさまにお仕えしよう。身も心も、血の一滴までもおとうさまのためにお捧げしよう。わたしはそのためにおとうさまから命を授かったのだ。 プリムローズは幸福感とともに、その誓いを新たにするのだった。 夜も更けた。 レンの大臣たちや魔物の将軍たちに指示を出し終えると、タローマティは王宮の寝室へ向かった。 閨に入ると、闇に解けるような黒いヴェールを被った2人の少女が正座していた。 1人は桃色の髪 もう1人は銀色の髪 2人は三つ指をついて深く頭を下げる。 「ご主人様、今日もお勤めご苦労様です」 「ご主人様、今日もゆっくりお休みになってね」 巫女・プリムローズとリーゼロッテである。 かつて光の神の使途だったこの2人は、今や邪神の最高の部下になった。 大陸には大小15の国が存在するが、そのうち14はすでにタローマティの支配下に落ちた。これはタローマティの力が回復してきたこともさることながら、2人の巫女の活躍も大きい。彼女らという頼もしい側近のおかげでレンの守りを疎かにせずに離れた土地に侵攻できるようになった。彼女らは主人のためなら喜んで働き、邪神の版図を広げていった。 彼女らの変節はもう人々の耳目に触れるところとなっている。星辰の巫女が邪神についたと聞いて、自らタローマティに帰依するものもいる。 残る国はわずか。もうタローマティの大陸制覇は目前であった。 タローマティは左右に伏すの2人の巫女たちの髪を撫でながら、おもむろに語りかける。 「いよいよ、最後の一手を積み上げる時が来た」 「え」 期待に目を輝かせるプリムローズ。 「いよいよ、アールマティ大聖堂を落とす」 「そうこなくっちゃ」 にやりと笑うリーゼロッテ。 「まず、アールマティ聖教が統治する世界の象徴たる法王にも、闇の力に屈服してもらおう。さてどうやって法王を攻め落とそうか」 リーゼロッテは笑って首を振った。 「あいつはご主人様が気にするような相手じゃないわ。あいつはただの小娘よ。今ごろ日輪の巫女にすがりついてメソメソ泣いてるでしょうね」 プリムローズがクスッと笑みを堪える。 「そうですよご主人様、法王なんかより、ステラ=マリお姉様です。もちろんお姉様もここにお招きすえるんですね!?」 「ああ」 「やったぁ! お姉様――ステラ=マリさまはすばらしい方です。かならずご主人様もお気に召すはずです!」 プリムローズの言葉に熱が籠もった。大好きなお姉様と一緒にタローマティに奉仕するときが楽しみでならないらしい。 リーゼロッテも上機嫌さを隠さずに顔をすり寄せてきた。 「でもね、あの子はおとなしそうに見えてかなりクセ者よ。なんたってわたしが育てたんだもの。ちゃんと作戦立ててるの? 落とす自信がおあり? 捕まえるのに成功しても、教育する前にすぐに自害しちゃうかもよ。うふふ」 「あるいは、ここにいる強情張りのように、長い間ごねることもありえるしな」 「うぐっ」 リーゼロッテは罰が悪そうに赤面し、頬を膨らませる。 「ぶう……。ご主人様だってけっこう楽しんでいらしたくせに……」 タローマティはにやりと笑った。 「リーゼロッテ。だからそのときの埋め合わせだ。日輪の巫女を落とすにあたって、お前にも一肌脱いでもらうぞ」 「うん。なんなりと言いつけてちょうだいな」 リーゼロッテはかわいい愛娘を迎えにいけるのが嬉しかった。娘に今の自分の喜びを教えてやりたい。そして、レンの女どもなんかに真似できない特上の親子丼をしたい。 「プリム、お前もだ」 「もちろんですご主人様」 プリムローズは心底嬉しそうに微笑んだ。巫女3人で一緒にタローマティに奉仕するときのことを考え、プリムローズは胸のときめきを抑えられなかった。3人の巫女が再び集結し、主人に奉仕するときのことを思い、プリムローズは甘い夢想に胸をときめかせる。 「もうすぐ、光の神の力はすべてご主人様の前に屈服しますね。ご主人様が世界の唯一の神として君臨されるんですね」 「そう。もうすぐね、ご主人様」 「ああ」 もうすぐ。 そう、もうすぐだ。 ついに、ついにここまで来たのだ。 「ステラ=マリ……」 彼は両脇の巫女たち2人にも聞こえない微かな声で呟いた。 もうすぐだ。 もうすぐ、お前に会える。 ほんの数日の間のことだったが、あの日々のことは忘れたことはない。 邪神となり、人間だった頃の記憶が色褪せても、あの日々のことだけはずっと覚えている。 俺が人間をやめたのも、以前以上の悪になったのも、すべてはもう一度お前に会うためだ。 待っていろ。 もうすぐ、お前に――――――――。
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