機関投資家の見るマーケット
2003年11月第1週
〜米国は、経済の原理に沿わない論理矛盾の政策を選択〜

政府・日銀は、今年9月までで13兆円の為替介入を行っているが、それは、財務省が外為会計で、日銀から資金を借りて米国債を買うという行為だ。財務省の、外為会計のメカニズムは、(1)日銀に対し、為券という短期国債(借用証書)を発行し、(2)日銀は、財務省に対し購入代金を政府預金勘定に振り込み、(3)財務省はその円を使い、円売り・ドル債券買いを行う。この財務省の外為会計からの為替マーケットへの介入資金は、「為替平衡化資金」と呼ばれている。為替介入の結果として、外為会計には、6000億ドル(65兆円)の外貨が滞留することになる。この外為会計の65兆円は米国への直接貸し付けと同じ意味を持っている。現状のようにドル安が進むと、この貸付額が実質的に減価することになる。

4月以降、ヘッジファンドを含む米国の投資家は、日本からの介入(13兆円)で、それまで保有していた米国債券を、損することなく売り抜けることができ、得られた資金の次の運用に6兆円が日本株に投入され、日本株は急騰劇を演じた。日本政府が、5月にりそなに公的資金2兆円を予防投入したことで、「日本政府は、債務超過の大手銀行に、政府が資金援助(=保証)をする」と世界に向かって示した形となった。外国人投資家は、2つの点で投資方針を絞れた。(A)大手銀行は「政府保証」がついているし、(B)銀行が潰れないのなら、安値に放置されている日本株は割安水準との判断だ。安心して日本株投資ができた。上場金融機関が破産したり倒産するなら、ペイオフ延期から預金は全額が保護されても、株券は無価値になる。外国人投資家も、「無価値となるリスク」があれば、どんなに安くても銀行株は買えないが、日本政府は、株を無価値にはしないという資本主義のルール破りの保証を与えた。これが、銀行株を買う条件の変化となった。竹中大臣は、4月に「今ETFを買えば儲かるのは決まっている」と新聞を賑わしたが、米国政府の利益誘導役といわれる同大臣の失言からみて、この4月時点でシナリオが出来上がっていた可能性は高い。こうした一連の流れに、日本の財務省が投入した13兆円の米国債券の購入資金の約半分の6兆円が思惑どおり日本株に流れ込んだ。そして当然のこと、みずほ、UFJという不良債権で債務超過状態にあった大手銀行株が、その株価の安さと政府保証から大化けした。

4月の安値(7603円)のときは6913億円だった1日の売買代金が、9月は1兆4566億円と2倍になり、時価総額は236兆円が307兆円(+71兆円)となっている。9月の1日あたり売買代金1.5兆円を時価総額の307兆円で割ると0.5%となる。つまり、総発行株式数の内わずか0.5%の株に日々価格がついて売買されている訳だが、株式市場は発行株式数(仮定1000株)のうちの日々の(5株)売買で、売買されていない(995株)価格も変わる仕組みとなっている。6兆円の外国人投資家の買いでも、株価が上がる理屈がここにある。

株価の上昇は、株主に株価評価での信用を与えることになる。時価総額は5月から9月末にかけ71兆円の増加であり、その分が、株主の信用の増加と言える。この71兆円の増加は、多くの株を持つ株主としての金融機関(銀行・生保等)の中間決算の利益を好転させた。他方では、国債を含む債券が売られ、長期金利は1%上昇し、金融機関の手持ちの長短国債の価値を合計で5%下げている。13兆円を投入した日本の財務省の成果としては、外国人投資家の買いを果たしての(A)株式の30%の価格上昇分と、一方での債券投資からの資金引き上げでの(B)長短国債の5%の下落との比較となる。しかし、両方を相殺すれば、株価上昇分のほうが大きい。してやったりと財務省は、思っていることだろう。。今回の日本株の上昇の背景は、日本からの為替介入を通じての、ヘッジファンドを含む米国の大手投資家への資金提供により、その一部資金で日本株を買ったためと認識すべきものだ。

ところが、米国は来年の大統領選挙におけるブッシュ再選を目指し「ドル安政策」に転じた。米国の意向どおりに動く日本政府は、10月の110円割れの円高の進行にもかかわらず動こうとはしない。これまでの日本政府の為替介入の政策目的は「円高を避ける」こととされ、塩川財務大臣はしきりにそう発言してきた。株式投資では「変化」を誰よりも先に見抜くことがキーポイントとなるが、小泉政権そのものが、国家戦略をもたず、米国服従姿勢であることが明白となったため、「円高トレンドは不変」として機敏な投機家は円高方向で攻めている。10月27日、竹中大臣が講演会で「為替の介入は、変化のスピードを調整するため」と言ったことで円買いの投機筋を勇気つけた。4月のETF発言もそうだが、竹中失言は、米国の意向を汲んでその後の政府の動きを示唆している。これまでの為替介入は「水準訂正」であったが、米国の圧力でこれが「スピード調整」に変わったことを公に認めた形だ。こうした失言に投機家は敏感に反応する。

ブッシュの「共和党政権」は、その支持母体に軍事や製造業などのオールド・エコノミー企業が多い。そのため、企業収益面での製造業からの圧力は「ドル安政策を採ってくれ」となる。来年再選を果たすには、今年から製造業者のご機嫌をとることが重要でもある。米国政府はブッシュ減税(11年間で総額3500億ドル=約38兆円)を実現し、低金利策を採り、経済政策を総動員している。しかし財政赤字が来年4800億ドル(52兆円)に膨れ上がり、経常収支(貿易)の赤字を5400億ドル(59兆円)抱え、FRBの政策金利(FF金利)が1%にまで下がっている現状から、「財政金融政策」に打つ手は残っていない。米国経済は一連の景気刺激策のおかげで経済成長率は加速の兆しを見せてはいても、大統領選挙の「票につながる雇用」に改善が見られない。雇用者数は2月から8月まで連続して減り、9月は8カ月ぶりに57000人の雇用者数の増加を記録しても、景気回復時の月20万人の増加には程遠い。この状況にあっては、製造業からのドル安の陳情を無視できるわけがない。そして為替レートに手をつけた。

日本の財務局は、「大規模徹底介入で円高を阻止する」との公言を翻し、米国側の指示で、「スピード調整」に心がけるスムージング・オペレーションに変更した。11月の衆議院選挙前に急劇な円高が進行するのは、デフレや株安を通じて、自民党の敗北を招く恐れもあり、忠犬小泉の顔をつぶすことになるため、ドル安・円高の阻止への介入を認めるだろうが、(衆議院)選挙が終われば、米国の大統領選挙の論理が前面に出てきてドル安がスピードアップする可能性が高い。

100円割れから進む円高は、企業業績の下方修正につながる。株価は企業の業績次第だが、円高の進行は、投資家が、企業の収益状況が悪くなると予想する材料であり、株価は下落することになる。また、輸出の先行きへの不安から企業センチメントも急速に悪化することになり、日銀短観等に悪影響が出てくる。11月の選挙後の為替動向が「株価下落のトリガー」となる可能性が高い。

また、304兆円の世界最大の純債務国で、2004年会計年度は財政赤字が7000億ドル(76兆円)に達するとも言われる米国が、「ドル安誘導」を行おうとしていることから、ドル資産で運用している世界の投資家が一斉にドル離れに動き出す可能性がある。現在のドル安の第一段階は、外国とくに欧州からの資金流入が止まる程度で済んでいるが、次の第二段階では、ドル安が本格的に進むとの見通しから米国からの資金流出が本格化する可能性がある。こうなると、米株式、米債券、米ドルのトリプル安が生じてくる。グローバル化の現在にあって、瞬時に世界の金融資本市場に波及する。こうなると、日本株も暴落することになる。

米国では双子の赤字が膨れ上がっても、ドルの値打ちが急落すると思う人は少ないため、ブッシュはそれをいいことにして、製造業の票を得るために安易なドル安政策を採っている。米財務省は、双子の赤字に伴うファイナンスの問題等を気にしているが、ブッシュ政権は政策の整合性より目先の票が欲しいという近視眼的な判断をする傾向を強めている。

米国の2003年上期の現状をみると、(A)企業部門は、2000年のITバブル崩壊以降、設備投資を抑えた結果1000億ドルの資金赤字へと大幅な赤字縮小を果たしたが、(B)家計部門は住宅ローンの好調と住宅金融を使ったローン消費のために、2003年は2500億ドル(27兆円)の資金赤字に転落した。一方、(C)政府部門は、減税と軍事費で5000億ドル(54兆円)規模へ赤字を拡大し、来期は7000億ドル規模の赤字予想となっている。外国から資金を供給して欲しいと叫んでいるのが、今の米国経済だが、諸外国からの米国への資金環流は、ドル買いで、ドル高要因となる。ところが、ブッシュ政権の採るドル安政策は、ドル価値の下落を通じて米国から資金を逃がす方針であり、「ドル債を買い、ドル債を売ってくれ」と言っているに等しい。経済原理沿わない論理矛盾の政策展開で危険な兆候だ。

ブッシュ政権の反論を推測するなら……米国の個人金融資産残高は4170兆円あり、公的債務残高は日本の755兆円より少ない744兆円しかない。(1)米国債(6月末)の海外保有残高は1兆3400億ドル(146兆円:海外比率35%)で、(2)米国社債の海外保有残高は1兆1200億ドル(122兆円:海外比率17%)、米国株の海外保有残高も1兆3600億ドル(148兆円:海外比率10%)だから、総計しても416兆円で、米国の個人金融資産残高(4170兆円)の1割を使えば、外国人が保有する米国資産を全て買い取ることができる……となるだろう。

米国のドル基軸通貨特権のもと、米国はドルと言う紙切れ(信用)を渡すだけで世界中からマネーを借りて使え、そして借りたマネーは再度ドルを渡すことで返さなくていい仕組みとなっている。過去プラザ合意では、米国の意向としてのドル安政策でドル水準を1/2にして、日欧のもつ債権の実質的価値を半減することもできた。このおいしい特権のもとにあって成り立つ(ブッシュの)理屈だ。対イラク戦争の本当の理由も、(A)中東原油の確保とともに(B)基軸通貨としてのドルを守るという側面もあったと言われている。2000年秋にフセイン政権下のイラクは原油輸出をドル建てからユーロ建てに切り替えた。原油に代表される国際商品の取引の大半はドル建てで、輸入国はつねにドルを調達しなければならず、中央銀行は外貨準備を積み上げるため、ドル資産に資金が流れる構図があった。ドル建て原油取引が基軸通貨としてドルが君臨する背景だ。イラクのフセインがこれを覆し、その後OPEC総会では複数通貨加重平均によるバスケット方式建てが議論されるに至った。米国は、軍事介入してまで原油輸出をユーロ建てに切り替えたイラクの動きが、産油国のドル離れに波及するのを防がなければならなかった。

プーチン大統領の「原油の輸出をユーロ建てにすることもできる」との発言が波紋を呼んでいるが、今は輸出力をつけた中国、アジア諸国、ロシアまでが、ドル保有国上位に位置している。力をつけながらドルの減価を恐れる国が増えていると言う事実は、ドル安の第二段階に入ると米国からの資金流出の本格化と伴に、ドル建ての輸出入が激減することを示唆している。第三段階では、ドル基軸通貨体制そのものも崩壊する。弱い国に投資資金は集まらない。

先週から外国人投資家の動きが止まっている。大胆にリスクを取ってきた海外マネーも委縮する気配となっている。相場上昇の背景に過剰流動性が指摘されていたが、その根本には日銀マネーが、財務省の為替介入を通じて米国へ流入している事実がある。日銀の保有国債は92兆円だが、日銀の国債購入を通じてマネーは財務省に供給され、財務省は、為替介入を通じて米国債を6000億ドル(65兆円)購入し、米国へ資金供給してきた。しかし、ドル安政策のもと、現在は為替介入(米国債の買い)を行っていない。となると、これまでの相場上昇を支えてきたヘッジファンドを中心とする外国人投資家のリスク許容度には限界が来ていることになる。

ヘッジファンドも11月のファンド決算を前に、米国債の暴落覚悟で、パフォーマンスの低下につながる債券売りで、株式投資用のマネー作りを行うはずもない。ポートフォリオ理論は生きている。投資資金に限界が見えるなら、世界的な金融緩和に基づく流動性相場はとりあえず終わったと考えられる。特に(1)中国の金融引締めに加えて、(2)英国でも金融引締めが議論され始め、(3)オーストラリアでも中央銀行が金融引き締めに動くとの観測されだしている。世界的な金利の上昇は過剰流動性の終焉を意味している。日本株においても、ここからさらに外国人投資家の買いに期待するのは危険だろう。東証ベースのPBRは1.7倍まで上昇し、PERも22倍程度と国際的にそれほど割安とも言えない状況にあり、ドル崩落のシナリオを前にリスクをとる意味は薄れている。

世界的ベストセラーをいまだに続けているコロンビア大学スティグリッツ教授がTVに出ていたが、その時の発言は……

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@米国財政は極めて短期間に巨額の赤字を出すようになり、景気対策の名のもとに必要以上の減税が行われ、戦争と言う財政の大盤振る舞いが続いているが、こんなことが長続き出来る訳がない。米国の絶頂期の1960年代ですら、ベトナム戦争でバターも大砲もといった大盤振る舞いが「ドル暴落」のきっかけとなった。双子の赤字問題がいつまで表面化せずに続けられるのか分からないが、いずれ第2のニクソン・ショックが日本を始め世界に衝撃を与える。福井日銀総裁がドルを買い支えているうちに、出来る人は外債をドルからユーロ債に切り替えておいたほうが良いだろう。

A米国もやがてはアルゼンチンのようになり、ラテンアメリカ化し、米国債の利払いも滞るようになり、債務不履行も避けられないだろう。福井日銀総裁は今年だけですでに(為替介入を通じて)13兆円もの金を米国に貸し付けている。借りた米国は借りた金で日本の株を買ったり日本の自動車やテレビを買ったりしている。それで日本はそれだけ豊かになったのか、むしろ貧しくなっている。円がいくら高くなったところで米国から買うものは食糧や飛行機などの限られたものでしかない。

B日本の巨額な赤字財政を続けられるのはなぜか。日本の巨額な預貯金と、巨額なドル建て債券が、国家の財政赤字の穴埋めに使われているからアルゼンチンのように円は暴落することがなく、かえって高くなっている。日本が経常収支で黒字の間は財政も破綻することはない。しかし米国が経済破綻してドルが大暴落した場合、日本経済にも破綻がやってくる。中国も対米黒字国だが日本とは違ってユーロへのシフトは確実に進んでいる。対米黒字をユーロでヘッジしておけばドルの暴落も回避できるが、日本の政府・日銀は米国の脅しによってシフトができない。ならばせめて民間だけでもドルからユーロへシフトしておくべきだ。米国はそれを警戒して日本の金融機関を米国の資本で買収しようとしている。小泉首相や竹中金融大臣が日本の銀行や生保を米国に売り渡そうとするのも、日本の民間資金のユーロシフトを恐れているからだ。最終的には最大の金融機関である郵貯も民営化して米国へ売られる。しかしそんなことをしてもその前に米国は破綻する。

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個別では、6125岡本工作機械製作所をあげている。研削盤に強みを持つ工作機械メーカーだが、シリコンウエハーや液晶ガラス基板の表面を研磨する半導体関連装置に注力している。2003年3月期(前期)は、5201旭硝子から初めて液晶用大型ガラス基板向けの研磨装置ラインを受注し納入しているが、同社の期待を上回る精度を実現するなど技術的な優位性がうかがえる。また、シリコンウエハー用研磨装置も300ミリウエハー用研磨装置が拡大し前年比3割増となっている。今期業績は、受注好調を背景に期初の会社側予想を上回る可能性が高い。      

(F.H.)
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