福田康夫首相は就任後、初めて米国を訪問、ブッシュ大統領と首脳会談を行った。日米同盟について意義を再確認する一方、北朝鮮による日本人拉致問題などでは米側との考え方の違いが浮き彫りになった。
日米同盟について、福田首相が「強固な同盟関係はアジアに平和と安定の基盤をもたらす」としたのに対し、ブッシュ大統領は「平和と安定のために死活的に重要」と述べ、両国がその意義を再確認した。
福田首相の外交持論は日米同盟強化とアジア外交推進。週明けから東南アジア諸国連合(ASEAN)との首脳会談などのためシンガポールを訪問する予定だけに、二つの柱に「共鳴」という相乗効果をもたらしたい考えだ。
日米間には、北朝鮮の核無能力化に伴うテロ支援国家の指定解除の検討問題をはじめ、新テロ対策特別措置法、在日米軍駐留経費負担(思いやり予算)、そしてBSE(牛海綿状脳症)をめぐる対応や米軍再編の普天間基地移設問題が横たわっている。
なかでも北朝鮮問題は、福田首相が今回最も気に掛けたところだった。
テロ支援国家の指定は日本にとり、核の解決プロセスとともに、拉致問題や日朝関係を進めるための有力なテコである。半面、残り任期一年余りとなったブッシュ政権は、泥沼化したイラク戦争に代わる「外交成果」として北朝鮮との関係改善に傾斜している。
福田首相はこのため指定解除の検討は「日米連携が重要」と述べて慎重な対応を求めた。拉致問題解決の重要性では一致し、大統領は「被害者と家族を置き去りにしない」と明言した。
だが大統領は会談で、「拉致問題の解決は必ずしも指定解除の前提条件にならない」との立場を堅持したとみられている。会談後の共同記者会見で双方が一切この問題に触れなかったのもデリケートさを裏付けた。
同問題をめぐり訪米中の拉致被害者家族会の関係者からは早くも会談結果に失望の声が出た。首相が解決への戦略練り直しを迫られるのは必至だが、あくまで米国に理解を求める努力を怠ってはならない。
海上自衛隊による給油活動の早期再開について首相は「全力を尽くす」と強調した。しかし、給油再開に向けた対テロ新法案の動向は、成立のために衆院再議決に踏み切るかを含めて今国会最大の焦点。「唯一の同盟国」(首相)に対する約束という外交課題にとどまらず、福田政権の命運さえ左右しかねない状況と言っていい。
米国産牛肉や牛肉製品に関する問題も、「科学的知見に基づく判断」を踏襲する日本と、輸入条件の撤廃を求める米側とは平行線のままとなった。
福田首相は今回、日米交流の強化を目指し、米研究機関への支援実施や米国での日本語教育の充実を図ることを明らかにした。「小泉、ブッシュ」の蜜月の日米関係が去ったとの見方もあるが、緊密な外交関係には、一貫性や継続性といった草の根からの信頼醸成が欠かせない。首相には外交においても真摯(しんし)な対話が求められる。
|