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連載・特集

いのち見つめて 地域医療の未来
 第6部 医療と向き合う

 多忙を極める医療現場。過剰労働に耐えかねて辞めるスタッフは少なくない。患者の理不尽な要求や心無い言葉に神経をすり減らすケースも多く、医療従事者が抱えるストレスは増えている。医療をテーマにした年間企画の最終章第6部では、限られた医療資源を有効活用し、現在の医療環境を維持するために、患者側も考えなければならない課題を整理する。

2007/11/18の紙面より
(29)委縮する現場

一部患者が医療浪費

入院患者の点滴を準備する看護師。ミスが起きやすい作業だけに、細心の注意を払わないといけない=米子市内の病院
 総合病院の夜間救急に救急車で急病者が担ぎこまれる。処置に走る医師や看護師。「おい、なんで越されるんだ」。長いすに座っている患者の言葉に「またか」とため息をつく。「早く診察しないと命が危険なのに自分の順番を主張する。買い物のレジ待ちじゃないんだ」。叫びたいのをこらえる。

 「待ち時間が長い」「順番を越された」は夜間救急で多い苦情例だ。患者の理不尽な要求や返答に窮するクレームは日常茶飯事。「モンスター・ペイシェント(怪物患者)」が医療現場を委縮させている。

 鳥取市立病院(鳥取市的場一丁目)の事務局長、安藤嘉美は「救急イコール夜間に開いている外来、と勘違いしている人が多い」と指摘する。入院の必要がある急患を受け入れるのが本来の役目だが、今年四月以降に夜間外来で処置した患者のうち、入院を要したのは一割にも満たない。

意欲喪失で退職

 患者の不平は枚挙にいとまがない。必要がない検査でも「してくれんかった」。退院日を告げれば家族が「よう面倒を見ん。治ってもないのに退院させる」と理屈をつける。

 鳥取県立中央病院長、武田倬は「こちらの言い方の問題もある。でも医師やスタッフの判断を頭から疑ってかかる苦情は一気に意欲をそぐ」と困惑する。意欲の喪失を理由に辞める人材は多い。

 患者と接する機会が多い看護師の疲弊ぶりは際立つ。「完全看護」だからと、召使い扱いで買い物まで頼む入院患者もいる。ある病院の事務部長は「病人なんだからやってもらって当たり前と思い込んでおられると、言葉のすれ違いも起きる」と慎重な対応に徹する。

 セクハラ(性的嫌がらせ)も少なくない。立場の弱い看護学生に対するセクハラはすぐに相談するよう指導しているが、対応に貴重なエネルギーを費やす。

 ナースに文句をぶつける場合には医師や事務方も立ち会う。酒に酔ったり、暴力を振るうそぶりをみせる患者に対しては警察に相談することもあるという。一対一では水掛け論になるからだ。

訴訟防衛策

 出産をめぐる訴訟の増加で医師の産科離れが顕著だ。こうした中、出産時に帝王切開する率が全国で20%を超えた。帝王切開はガイドラインで救命措置に位置づけられていることもあるが、産婦人科医で鳥取市立病院副院長の清水健治は「(帝王切開を)していると訴訟時に病院側が敗訴する率が低いという判例も関係しているのではないか」とこの数字の背景を分析する。

 ささいなクレームから訴訟に発展することもある。病院側も防衛策を講じるしかない。鳥取市立病院では当直日以外でも当番を決めて全科の医師を待機させている。二人しかいない診療科の医師なら当直を加えると一カ月のうち二十日以上を拘束される。

 夜間でも呼び出しが多い外科、脳外科、小児科を新人医師は敬遠する傾向にあり、医師の偏在に拍車を掛けている。一部患者の都合が医療を「浪費」している実態を直視しないといけない。(敬称略)


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