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■書 評

貧乏人は医者にかかるな!

貧乏人は医者にかかるな!

[著者]永田 宏

集英社新書 / 693円


[評者]真部 昌子 (共立女子短大教授)

■疲弊する医療現場の未来

 この夏、妊婦が医療機関から受け入れを断られ、救急車の中で死産したというニュースが日本中を震撼(しんかん)させた。人命を助けるはずの病院が、なぜ妊婦の受け入れを断ったのか。その原因の一つに産科医の不足がある。二〇〇四年の産科医数は、一万五百九十四人で一九九四年の7%減。二十四時間以上の長時間勤務、恒常的な激務に加えてマスコミのバッシングや訴訟数の多さから、今後も産科医は減少し続ける可能性が高い。医学部を卒業し、国家試験に合格しても直(す)ぐに一人前の医師としての実務ができるわけではない。医師としての成長には、先輩医師の指導を受け、経験を積むことが必要である。経験のある産科医がいない状況では、次世代の産科医の育成もできないということになる。次世代が育たないということは、悪循環を生み、十年後、二十年後はもっと悲惨な状況になるだろう。

 本書は、その産科医不足の深刻な現状と今後を読み解く恰好(かっこう)の新書である。現在、産科や小児科の医師不足が叫ばれているが、厚生労働省のデータなどから、近い将来、外科や内科、すべての診療科の医師が不足するということを明確に説いている。医師不足の原因、日本が採り得る医師不足対策、医師不足時代を生きるにはなど興味深い章立てにしながら、医師不足の現状と原因を分析し、警鐘を鳴らすのだ。これまで、日本は国民皆保険制度という強い基盤の下、医療に関しては危機感を抱くことはあまりなかった。ましてや医師不足など起こるはずがないと信じてきたゆえの盲点である。これには厚労省の政策の誤りもあるとのことだが、ここ数年、「医療崩壊」「医療の限界」など医療現場の危機的な状況を訴える著書が増えていることに気づいている人も多いと思う。それだけ、医療現場は疲弊しているのだ。

 書名の「貧乏人は医者にかかるな」は、今後の日本の医療の方向がアメリカ流金持ち優先型になった場合には、一般庶民はこれまでのように病院へ行けなくなるという意味である。


ながた・ひろし 1959年生まれ。鈴鹿医療科学大教授。著書に『販売員も知らない医療保険の確率』など。


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