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地域の子どもから花束を受け取る秋山さん=静岡市葵区の藁科川河川敷 |
静岡市の中心街から20キロ以上離れた山間地、同市葵区清沢地区。そこで唯一の診療所に秋山邦夫医師(85)が着任して約60年が経過した。高齢化が進む過疎地の医療に奮闘してきた秋山さんにこのほど、地域住民総出の秋祭りの場で感謝状が贈られた。 春にはフジの花、冬はゆずの実が庭を彩る。清沢地区相俣にある待合室、レントゲン室、診察室の小ぢんまりとした診療所。「築40年。外見もだいぶ古くなってきたね」と秋山さん。 太平洋戦争中は軍医として満州(現中国東北部)へ渡り、終戦後は名古屋市の鉄道病院などに勤務。10歳から高校までを過ごした静岡市に戻ったのは1949年。当初は清沢地区尾沢渡にあった診療所を引き継ぎ、「秋山医院」の看板を掲げた。 地域に活気があった4、50年前は、毎年1人は「マムシにかまれた」と飛び込んできた。お産後に胎盤が降りないと、助産師から呼び出されることも珍しくなかった。往診の依頼を受けるとバイクにまたがった。旧本川根町からの依頼を受けて片道10キロの夜道を歩き、往診を終えて朝帰りしたことも。60年間、休みもままならない生活の原動力となったのは住民たちの「おかげさまで良くなりました」という言葉だ。 現在、清沢地区は山間地に424世帯が点在し、65歳以上の高齢者が37%を占める。在宅医療が重視される時代を迎え、「山間地ほど医者が必要になるのでは」と現状を憂慮する。約40年前に相俣に移転した2代目診療所を現在も週5日開院し、週1、2回は往診に出る。 「この地域に医者がなくなるなんて考えられない。引退は後継者を立てたとき」と現役続行を決意している。 |