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ヘンな分類 なぜ広がる?
千葉県内の女子高。昼休み時間の教室で仲良しのクラスメートが「イチゴ談義」に花を咲かせていた。 まゆ 「ねえ、イチゴって、どうやって食べる?」 まお 「私はイチゴジャム派だけど、まゆは?」 まゆ 「え? そんなのありえな〜い。私は練乳派」 イチゴにイチゴジャムを塗る感覚にも驚くが、そもそも会話に出てくる「派」には、一体どんな意味があるのだろう。東京都内の女子大生(19)は「私も何気なく使っている。会話が盛り上がるからかなあ」。 日本語学者に聞いてみた。「若者言葉に耳をすませば」(講談社)の著者で埼玉大学の山口仲美教授は「派には分けて自分の居場所を確認し、同時に埋没させる効果がある。若者の目立つことを避けようとする意識の表れ」と分析する。 不安解消に一助 血液型で性格を分けたり運勢を占うのも定番。特に「占い本を買うのは2、30代の女性が多い」(丸善丸の内本店の実用書担当、佐藤友有子さん)という。 平日午前8時からの情報番組「とくダネ!」(フジテレビ系列)で、1999年4月の放送開始から続く長寿コーナーが番組の最後に流れる「血液型選手権」。4匹の動物が血液型を代表して駆けっこ、その順位で当日の運勢を占う他愛ない内容だが、「見逃したので結果を教えてほしいという問い合わせもある」(フジテレビ広報部)。 このコーナーを監修する心理研究家の御瀧政子さんによると、血液型と性格についての研究は戦前からあったが、一般に浸透したのは比較的最近という。 「人はわからないことがあると不安。特に初対面の人とは共通点があると相手を受け入れやすい。その点、血液型占いは親しみやすく会話の糸口になる」 だが現代社会の潤滑油というべき分類には副作用がある。分ける側に悪意はなくても、分けられる側にはレッテルとなるからだ。 「B型=変わっている」程度ならともかく、例えば「ひきこもり」。国立精神・神経センター精神保健研究所によれば、様々な要因で社会参加の場面が減り、自宅以外での生活の場が長期間失われている状態を指す。原因も症状も様々だ。 今春愛知県から上京、アルバイトで生計を立てている市野善也さん(26)は高校3年から5年半、自宅から出られず、自殺すら考えたという。「ひきこもりと認めると世間ではダメな人間に分類され、マイナスのイメージしか持たれない」 そんな市野さんの姿が6日夜、若者の就労支援に取り組むNPOコトバノアトリエが主催したインターネットラジオ「オールニートニッポン」の公開生放送の場にあった。「人前で名乗ることで同じ悩みを抱えた仲間を何人も得られた」。レッテルに対して開き直ることで社会復帰した幸運なケースかもしれない。 世の中にあふれかえる安易な分類。そこに危険を感じ、立ち上がった人もいる。国立情報学研究所の教授で、特定非営利活動法人(NPO法人)「連想出版」の理事長でもある高野明彦さんもその1人だ。 思わぬ落とし穴 高野さんはインターネット上で闘病記を専門に収蔵した図書館「闘病記ライブラリー」の運営者。病気を脳や心など12の分野に分け、約700冊の闘病記を病名から見つけやすくした。 闘病記は患者や家族、周囲の人たちの手で書きつづられた貴重な生の声。「同じ病気に苦しむ人にとって最も切実に知りたい内容」だ。だが実際には、題名に病名がついてないと、どういう病気について書かれた本か判断しづらく、簡単に探せない。図書館や書店によっては、医療ではなく、体験談や健康情報のコーナーに並ぶことさえある。 「読み手のニーズとの間に明らかにズレがある。闘病記ライブラリーには、現在の図書館や書店の分類への批判も込めた」 分野は全く違うが、バレーボールの全日本女子チームを陰で支えるアナリストの渡辺啓太さん(24)も、自分なりの分類法を模索してきた若者だ。 このほど日本で開かれたワールドカップ女子大会で対戦チームの特徴、選手の顔ぶれ、攻撃パターンなどの情報を収集し分析。選手や監督にわかりやすいデータに分類して示した。 敵陣のどこにサーブを打てば、どこから攻撃してくる割合が高いのか。その時どこにブロックの網を張れば効果的か――試合中、無線で自軍ベンチに伝えた。「分類することで相手の姿が見えてくる。分けることはわかることと思う」 分類は相手を知るための便利で効率的な知恵。だが、思わぬ落とし穴には十分気をつけたい。(磯貝守也)
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