久々の通し上演で、「住吉松原」「高安館」「同奥庭」「竜田越」「天王寺南門前」「万代池」と順を追い、大詰めがおなじみの「合邦庵室」になる。山田庄一補綴(ほてつ)・演出。
全体を貫くのは河内の国主、高安左衛門(彦三郎)の妻の玉手(坂田藤十郎)が、義理の息子の俊徳丸(三津五郎)へ寄せる思い。高安家には跡目を狙い、俊徳丸を亡き者にしようとたくらむ腹違いの兄、次郎丸(進之介)がいる。玉手は俊徳丸の命を守るため、俊徳丸に言い寄り、相貌(そうぼう)を崩す毒酒を飲ませる。
玉手の俊徳丸への恋は大詰めで本人が述懐するように偽りか、それとも真実か。歴代の立女形がそれぞれの解釈で演じてきた役を、藤十郎は「真実の恋」として見せる。
見ごたえがあるのは、やはり庵室。父の合邦(我当)と母のおとく(吉弥)の庵室を訪ねた玉手は、ほかの一切が目に入らないかのごとくに俊徳丸を捜し、恋敵である俊徳丸の婚約者、浅香姫(扇雀)を激しく打ちたたく。藤十郎からは恐ろしいほどの一途(いちず)な思いが伝わってくる。
我当は、世渡り下手で剛直な人間像を描き出し、娘の非道に怒り、命を奪うに至る心の動きに説得力を与えた。三津五郎に色気と品位があり、玉手の熱情を前に苦しむ当惑の表情を巧みに見せた。吉弥がいかにも娘思いの母らしく、翫雀の入平のきびきびとした奴(やっこ)ぶりがいい。秀太郎、愛之助が好助演。26日まで。【小玉祥子】
毎日新聞 2007年11月15日 東京夕刊