「財源の手当てができればこのような提案も良い」――。精神医療を2008年度の診療報酬改定で強化する提案に対して、対馬忠明委員(健康保険組合連合会専務理事)は財源を気にしながらも大筋で了承した。厚生労働省は11月16日、精神病床に入院している患者の早期退院を促す退院調整の評価や、精神通院療法の段階的な点数設定、精神科救急入院料を算定するための施設基準の緩和などを中央社会保険医療協議会(中医協)診療報酬基本問題小委員会(会長=土田武史・早稲田大商学部教授)に提案し、大筋で了承された。
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この日、厚労省が精神医療について示した提案は、@入院医療、A外来医療、B精神科救急医療、C薬剤処方日数――の4本柱。
このうち、「入院医療」は退院の促進と再入院の回避を提案。
また、「外来医療」は一定時間以上の「精神通院療法」の点数引き上げを、「精神科救急医療」は精神科救急入院料の施設基準の緩和、「薬剤処方日数」は14日処方の緩和などを提案した。
全体的に点数を引き上げ、精神医療を強化する提案となっている。
厚労省はこれまで、04年9月に同省の精神保健福祉対策本部がまとめた「入院から地域へ」という基本方針に沿って入院患者の解消に努め、病床の機能分化や診療報酬上の評価で退院支援を進めてきた。
同省によると、全国の精神病床(約23万床)の入院患者数は1996年から2005年にかけて約32万人で推移し、一定している。退院の促進により、1年未満で退院する患者は年々増えているが、1年を超える長期入院患者の退院は進んでいない。
そこで、退院の促進や再入院の回避を進めるとともに、早期の治療で新規の入院を減らす。
■ 入院医療
<退院の促進、再入院の回避>
入院期間が1年以上の患者の退院を促進するため、「退院支援計画」に基づいて退院調整を実施するなど、地域への社会復帰を進める取り組みを評価する。
一方、入院期間が1年未満の患者については、入院がさらに長期化するのを防ぐため、退院前の訪問指導を充実させる。
具体的には、入院期間に応じて訪問回数に制限があった「精神科退院前訪問指導料」を見直し、患者宅への訪問や家族に対する退院後の指導などを増やし、早期の退院を促す。
退院した患者については再入院を回避するため、訪問回数が週3回までの場合などに算定できる「精神科訪問看護・指導料」の回数を緩和する。
<入院基本料の見直しなど>
入院の早期に幻覚や錯覚により異常な行動を起こしたり暴れたりする認知症患者に対する手厚い医療の提供や合併症の診療体制を評価し、「精神病棟入院基本料」を引き上げる。
また、関節リウマチや白内障など身体的疾患の合併症を持つ患者に対する精神科病床での治療を評価する。厚労省は「総合病院などの身体的な医療が充実した精神病床を対象とする」としている。
「総合病院」の意味について、厚労省保険局の原徳壽課長は「多くの診療科を持つ急性期の病院で精神科もあり、精神疾患をしっかり診られる病院」と説明した。
このほか、医療法の経過措置として08年3月31日まで認められている「特別入院基本料」(550点)を08年4月以降も算定できるようにする。
■ 外来医療
厚労省の調査では、精神科の診療時間は1回5分程度から30分以上までバラつきがあるため、現在のような診療時間にかかわらない一律の点数設定を見直し、診療時間に応じて点数に差を付ける。
ただし、初診の日に「診療時間が30分を超えた場合に500点」とされている初診料については変更しない。
具体的には、初診の場合を除いて一律の点数設定になっている外来の「精神通院療法」(病院330点、診療所360点)について、診療時間に応じた段階的な点数設定に切り替える。
例えば、1回の診療時間について(T)1分〜10分未満、(U)10分以上〜20分未満、(V)20分以上〜30分未満――などの区分を設けて点数を変え、時間が長くなるほど点数が高くなるようにする。
厚労省が57の精神科診療所を対象に実施した調査では、1回の診療時間の平均が15分であったため15分で区切ることも予想されるが、点数が一律になる「上限」は今後の検討課題とする。
■ 精神科救急医療
今年10月現在、「精神科救急入院料」を算定しているのは全国で35施設しかなく、地域的な偏在も見られる。その原因として、厚労省は「施設基準が厳しい」ことを挙げている。
このため、精神科救急入院料の施設基準を緩和し、同入院料を算定できる施設の増加を目指す。具体的には、「隔離室を含む個室が半数以上」「時間外、休日または深夜の診療件数が年間200件以上」「原則として4分の1以上の患者を受け入れている」――の3点を緩和する。
このほか、精神科救急医療施設でも入院期間が3カ月を超える患者が30%いるため、入院初期から退院調整を行う体制を評価し、早期退院を促進する。
■ 薬剤処方日数
現在、精神疾患の患者に対する薬剤の処方は、一部を除いて「1度に14日分まで」とされている。このため、症状が安定している患者でも1カ月に2回は通院する必要があり、社会復帰を阻害する要因の1つになっているという。
そこで、「14日分」とされている薬剤の一部について、30日処方ができるように緩和する。一方、「90日分」などの長期処方をする場合には、「飲み残し」などの確認を医師に義務付けることで重複投薬を防止する。
更新:2007/11/17 キャリアブレイン
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