◎石川のいじめ急増 全国4位は早期発見の成果
石川県の国公私立小中高が認知したいじめ件数が昨年度全国で四番目に多かったのは、
全国に先駆けて全児童生徒に匿名アンケートを実施し、早期発見に努めた結果である。いじめの芽を摘む努力を他県以上にした「成果」であり、悲観的にとらえる必要はない。いじめを苦にした子どもの自殺が社会問題となるなか、文部科学省はいじめ自殺をゼロとするなど、実態にそぐわぬ数字を公表して批判を浴びたが、「疑わしきものも公表する」という方向にかじを切ったことは評価できる。
学校関係者や保護者は認知件数の多さに目を奪われることなく、いじめのサインをどう
やって見つけるか、どう対処するか、といった本質的な部分を見逃さぬようにしたい。
今回の調査で深刻なのは、いじめなどによる暴力事件がいっこうに減らない地域である
。二年連続全国最多の神奈川県や中高生の自殺者八人を出した埼玉県など、首都圏や関西圏の荒廃ぶりは目を覆うばかりだ。石川県の暴力事件は、千人あたり一・四人と全国平均の三・一人を大きく下回っており、公教育の環境が劣化しているという印象はない。
ただ、不登校児童生徒数が二十・二人に上り、全国平均(十六・六人)を上回っている
点が気になる。いじめの被害に関しても、暴力行為などは少ないが、「パソコンや携帯電話を使ったひぼう中傷」など、表面化しにくい、いじめが増えている可能性がある。学校関係者は早期発見のノウハウを積み上げ、情報を共有することで、微細なシグナルを見落とさぬようにしてほしい。
石川県教委が十二万人の小中高生を対象に行った実態調査は、回答者の9・3%が「今
、いじめられている」と回答した。高校生1・6%、中学生3・9%、小学校高学年5・9%、同低学年23・6%という結果は、この年代の子を持つ親にはしっくりくる数字ではないか。小学校低学年の数字が突出しているが、いたずら盛りのころであり、それほど気にする必要はないのかもしれないが、年齢が上がるにつれ、いじめは潜在化し、実態がつかみにくくなる。だれにも言えず、一人苦しんでいる子どもを見つけ出すことが最も重要なのであり、認知件数の多さは、決して恥ずかしいことではない。
◎偽装表示食品 顧客を忘れた企業エゴだ
牛肉商品に「但馬牛」などと表示しながら他県産の肉を使っていたとして不正競争防止
法違反の疑いで、今度は高級料亭や加工食品販売を手掛ける吉兆グループの船場吉兆(大阪市)の本店や幹部宅が大阪府警に家宅捜索された。食品の偽装が全国で相次ぐなか、事件に発展したのはミートホープ(北海道)や比内鶏(秋田県)に続くものだ。
商品そのものの産地を偽ったり、賞味期限を改ざんしたり、いろいろな不正が相次いだ
ため、贈答品をやりとりするお歳暮シーズンに、食への信頼が揺らいでいるのは残念である。これらに共通していることとして、企業の上層部の指示による不正という会社ぐるみが指摘されており、顧客を忘れた恩知らずの企業エゴというしかない。
偽装に耐えかねた従業員が「上からの指示でやった」と不正を隠しきれずに漏らしたこ
とによって発覚したということが唯一の救いとなっているが、勤めている会社に対する従業員の複雑な思いを推察すると、悲しくなってくる。
昔は不正が皆無だったとはいえない。が、顧客が身近な人たちだったから、いわば「客
の顔」が見え、不正をやろうにもそれがブレーキとして働いた。また、不正が行われたとしても市場が小さかったからその被害も局地的だったといえる。
流通の手段が画期的に発達した今は昔と大違いである。比べようがないほど市場が拡大
したため、顧客の顔が見えなくなって、それゆえに被害の範囲も広がるのだ。
やっと収まった例の耐震偽装問題に新たな偽装問題が取って代わって登場してきたのだ
。食品に限らぬ、昨今の偽装問題は、信用をこつこつ築き、それを大事にしてきた日本の「商い道」の挫折であるような気がする。
心ある人たちが、福沢諭吉の「瘠我慢(やせがまん)の説」を敷衍(ふえん)して、現
代の日本から「瘠せ我慢の精神」が失われたのかと指摘するのもむべなるかな、である。売れなくても、それに耐えて、我慢して売れるように知恵をめぐらし、工夫をする。これが、すなわち瘠せ我慢の精神だというのだ。顧客の顔が見えにくい現代に一番必要なものかもしれない。