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守屋前次官の証人喚問の詳報など
【社会】【関連】いじめ対処なお未知数 『認知後』見えず 自殺者6人『少なすぎ』2007年11月16日 朝刊 「一方的に」「継続的に」などの定義の“壁”を取り除いたことで、前年度の六倍の認知件数となった文部科学省のいじめ調査。数が大幅に増える一方で、千人あたりの件数には相変わらず、都道府県間で最大二十倍以上の開きもある。一つ一つのいじめに目は行き届いたのか−。 二〇〇五年度の調査では小中高合わせて九十件だった熊本県は、〇六年度は約百二十倍の一万一千二百五件になった。ほぼ二十人に一件の割合。昨年十一月、いじめを苦にして自殺を予告する手紙が同県内から文科省に送られたことをきっかけに、全児童生徒を対象に無記名のアンケートを実施。それを基に面接や家庭訪問を重ね、いじめの件数を出したという。 〇五年度、小学校で七件、中学校では二件としていた福島県は今回、それぞれ二百四十一件、三百五十一件を報告。〇五年度調査では“精度”に疑問が呈されたが、県教委は「子供の視点に立てば違う見方もあると反省しながら指導に立っている」としている。 しかし、自殺前にいじめがあったケースは、わずか六人だけだ。いじめに遭った高一の長女を自殺で失い、特定非営利活動法人(NPO法人)「ジェントルハートプロジェクト」(事務局・川崎市)でいじめ問題に取り組む小森美登里さんは「六人というのは少なすぎる」と疑問の声を上げる。 小森さんのもとには九、十月の二カ月だけで、いじめで子供が自殺したという親が三人、連絡してきたという。昨年末から、全国に講演に行った際に教員に配ったアンケートでは、これまでに回答を寄せた七百二十九人中、90%以上が三年以内に学校でいじめがあったと回答。小森さんは「自分の評価に響く環境での調査は負担なのではないか」と話し、学校が「いじめ自殺」の報告に消極的になる構造があるのではないかと指摘する。 独協大の「地域と子どもリーガルサービスセンター」で、学校で解決しないいじめの相談などにあたっている三木由希子さんは「いじめの定義を広げたことと、認知した後、どう対処するかがうまくつながっていない」と言う。いじめた側の子供や家族が認めない場合、いじめを訴えた側の被害妄想のように受け取られ、転校を余儀なくされる例もあるという。 三木さんは「いじめた側も家や学校で何らかの事情を抱えている。深刻な例では、学校は自分たちだけで抱え込まず、外部の機関とも連携しながら解決の見通しを立てるべきでは」と話す。 ネットいじめ潜行 他人装いメール裏サイト利用も二〇〇六年度のいじめの認知件数で、パソコンや携帯電話のインターネットを使った「ネットいじめ」は約四千九百件、全体の4%あった。しかし、子供の世界でもIT化が進む中、教育現場から「発覚するのは氷山の一角。皮膚感覚では五、六倍はある」との指摘もあるように、実態把握は容易ではないのが実情だ。 北海道に住む女子高生は昨年十月、職員室に呼び出された。「援助交際してるだろ」 身に覚えのないうわさの元は携帯のネット上で自己紹介ができる「プロフィルサイト」だった。顔写真、本名、体重、メールアドレス…。個人情報が勝手に書き込まれていた。生徒らが非公式に立ち上げた匿名掲示板「学校裏サイト」には「あの子、援交してるよ」との書き込みも。うわさは消えず、転校に追い込まれた。 いじめ相談を受ける全国webカウンセリング協議会(東京)の安川雅史理事長によると、ネットいじめが急増したのは二〇〇五年ごろ。「パケット定額制の導入と、携帯電話の高機能化が進んだ時期と重なる」と指摘する。 無料のメールアドレスで他人を装ってメールを送ったり、裏サイトのアドレスやパスワードをメールを通じて生徒同士で教え合ったりして匿名性や閉鎖性は加速。教師が偶然、裏サイトを発見して内容を監視するケースはあるが、「見つけにくい上、教師もまだ身近な問題としてとらえていない」(山形県立高校の校長)というのが大半だ。 子供のネット利用に詳しい群馬大の下田博次教授は「時間も空間も制約されずに、いじめができるようになった」とした上で「報復も簡単だから、今後さらに増えるだろう」と予測している。
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