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患者も知って! 医師の過労・過労死の実態

医師の疲れは患者の危険、「なくそう! 医師の過労死」シンポジウム

軸丸 靖子(2007-11-16 21:30)
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 「後輩の女性研修医が、その1年前に自分が使っていた同じ宿直室でくも膜下出血で亡くなった。見舞いに行って目にしたのは、ひからびたような見るも無残な姿。小児医療にすべてを捧げて働いた結果がこれなのかと思った」

 「夫は月に10~13回も宿直をして、家に寝に帰ってくることはなかった。10数年前のことだが、医療現場は改善どころかさらにひどくなっているように感じる。医師が人間らしい生活を送れることが、患者さんの命の安全を守ることにつながるのではないか」

 「大学院生だった息子が急死したが、まだ労災認定されていない。息子を犬死させず、このような不幸な事例を生まないためにも、最後まで闘っていきたい」――。

 医師が疲れきって病院を辞め、病院そのものも閉鎖されて、そして患者が行くあてを失う「医療崩壊」は、昨年あたりから社会問題化してきたが、実際に医師の過労死・過労自殺がかなりの件数にのぼっていることは、まだあまり知られていない。

 「過労死弁護団全国連絡会議」(川人博幹事長)は14日、東京都内で「なくそう! 医師の過労死」シンポジウムを開いた。冒頭に挙げたのは、過労死・過労自殺をした医師の遺族や元同僚といった出席者の声の一部だ。以下、シンポジウムで議論された医師の過労の実態や、時代遅れの労働状況、その原因と解決策について紹介する。

眠れない宿直~徹夜明けの手術は普通?

3時間にわたったシンポジウムでは、労災訴訟を戦っている声がフロアからも数多く挙げられた(撮影:軸丸靖子)
 過労状態になる直接の原因は、仕事の忙しさというより、睡眠時間が取れないことが大きいとされる。

 勤務医時代の後輩の過労死を「自分が死んでいてもおかしくなかった」と受け止める「ちばこどもクリニック」の千葉康之院長は、厚生労働省の定める「宿日直」と実際の違いを指摘する。

 厚労省の定義では、宿日直とは時間外または休日に、巡回や電話の応対、非常事態への備えのために勤務するもので、ほとんど労働する必要がない勤務。医療機関であっても、軽度または短時間の業務のみ、とされている。
 
 だが実際は、頻回の呼び出し対応の連続だ。合間に日中できない書類仕事をこなす。スケジュールは、朝8時から夕方5時までの通常勤務、そのまま翌朝9時まで宿直、そのまま夕方6時まで通常勤務。土日連続勤務だと、もうワンクールこれが繰り返される。「実際の宿直は、平日日中の何倍もの負荷がかかる仕事」と千葉氏。

 ここまでやっても、「ほとんど労働する必要がない勤務」と定義されているために、勤務手当がつかない。40時間連続勤務のもうろうとした頭で、翌日の診療、ひどいときは手術に入るのが実態だ。

 千葉氏らは数年前、小児科勤務医の宿直中睡眠の実態を調査した。5人の健康な勤務医に、計37日間アクチグラム(睡眠状態を測定する機械)をつけてもらったところ、1回宿直あたりの睡眠時間は平均で330分(最低90分、最高449分)だったが、覚醒回数が平均5.36回(最低2回、最高10回)あり、平均連続睡眠時間は70.65分(最高384分、最低22分)という結果が出た。

 本来、夜間は下がるはずの脈拍、血圧も、脈拍110以上、上位血圧も度々140を超える人がおり、心臓に負担がかかっていることも明らかになった。

 「最近になって医師も大分声を上げるようになったが、それでもなかなか一般には取り上げてもらえない。財務省、厚労省も見て見ぬ振りしようとしている。もし、国民からも働きかけていただければ、この閉塞感でいっぱいの医療界の現状を打開できるのではないか」と千葉氏。

「耐えられないのは医師の素質がないから」

 現状がきついなら、なぜ、医師は声を上げないのか?

 関西医科大学で1998年に起こった研修医の過労死事件を取材したジャーナリストで、シンポジスとの1人、塚田真紀子氏は、医師がしんどいと言えない理由を、「医師の世界は、『勝者の論理』で耐え抜くことが求められるから」と指摘する。

 世の勝ち組がそろう医学部を卒業したあと待っているのは厳しいヒエラルキーと競争。医師が過労死したニュースを聞いても、「向いていなかったんだ」「医師の素質がなかった」で済まされる。

 「特に、勤務医は『患者さんのために』という使命感が叩き込まれており、高いプライドを持っている。そのため、医師が倒れたら患者のためにならないという考えに到らず、自分を追い詰めてしまう」(増田氏)

 関西医大のケースは、亡くなった研修医の労働時間が月400時間以上に及んでいたため、父親が労災申請をしようとしたが、そもそも研修医は労働者として認められていなかったため、裁判で争って労働者の権利を認めさせたものだ。

 このとき、父親は大学に勤労実態の証拠提供を求めたが、「医師は労働者でなく聖職です」と協力を拒まれたという。結局、父親は自力で証拠を集め、勝訴・損害賠償を勝ち取ったが、その判決を聞かずに亡くなった。

 研修医の9割は抑うつ状態を経験する、外科医の7割が当直明けに手術したことがある、手術中に一瞬寝てしまった――など医師のストレス、寝不足と医療リスクの関連を示唆するデータは数多くある。「勤務医は1人で年1億稼ぐ」(病院収入に貢献するという意味)が、それをいいことに搾取を続けているのが、日本の医療制度だ。その煽りは誰に返るのか。

 塚田氏は、

 「医師の過労は患者にとってのリスク。医療を受ける側は声を上げなければならない。日本はここ10年、世界一厳しい医療費抑制策をとってきたが、見直さなければならない」

と、医師の労働環境改善には患者側からの働きかけも必要であることを強調した。

月150時間の36協定、認定されない医師の過労死

 既往症のない労働者が急性心筋梗塞などで亡くなった場合、発症前1カ月間におおむね100時間、または発症前2~6カ月にわたっておおむね月80時間の時間外労働をしていた場合、原則として業務上の死亡と認定され、労災補償が行われることになっている。

 勤務医の週平均勤務時間は63.3時間(2006年厚労省調査)。月100時間超の残業に相当する。だが医師の場合、労災認定されない。

 こうした状況に、過労死弁護団全国連絡会議は14日、厚労大臣に対し、「医師の過労死をなくし、勤務条件を改善するための施策強化の申し入れ」を行った。要点は4つ。

(1)医師の労働時間の適正な把握
(2)36協定の適正な内容による届け出
(3)賃金不払い(サービス)残業の是正
(4)宿日直勤務の許可の適正な運用

 大半の病院は、36協定などそもそも締結せず勤務時間を記録しない、適当な時間(年360時間など)を定めておいて遵守しない、という体制だ。だがなかには、「医師に関しては月150時間」と馬鹿正直な実態を申告し、労働基準監督署もそれを認めてしまっているところもあるのだという。

 シンポジウム最後に登壇した松丸正弁護士のところへも、過労死による労災申請がこの1~2年で急速に増えているという。同氏は、

 「医師・看護師の現場は壊れているとしかいいようがない。でも、それを何とかしようとしたら、今度は医療提供体制が壊れてしまうという状況。『医師は聖職』という意識のもとでかろうじて回っているのが日本の医療の脆弱な実態だ。こうした状況は変えなければならない」

と語気を強めた。

  ◇

「医師・教師 過労死110番」を17日に開設

 過労死弁護団全国連絡会議は今週土曜の11月17日、電話相談「医師・教師 過労死110番」を開設する。相談内容は、おもに医師・看護師。教師の過労死・過労自殺の補償と予防に関する相談。20都道府県で実施する。

 時間は地域により異なるため、ホームページで確認のこと。東京は午前10時~午後3時、相談受付番号は03(3813)6999。
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