◇カルテは真っ白
向精神薬「リタリン」の処方を巡り、医師法違反容疑で16日、捜索を受けた東京クリニック(東京都新宿区)では、カルテに患者の病状を適切に記載しないまま診療行為が続けられていた疑いが強いことが立ち入り検査した東京都など関係者の証言で分かった。伊澤純元院長(37)は「リタリンを簡単に出す」と人気を集めていたが、複数の患者が「診察時間はわずか数分」と話しており、警視庁は「リタリン販売所」とまでいわれた診療の実態解明を進める。【精神医療取材班】
「3秒で症状が分かる」。伊澤元院長は、多数の患者を診る「秘訣(ひけつ)」を都や新宿区保健所の担当者に問われた際、そううそぶいたという。
日本医科大を卒業後、新潟県内の診療所勤務などを経て、04年3月、日本最大の歓楽街、新宿・歌舞伎町の雑居ビルの一室に東京クリニックを開院した。間もなく「リタリンを簡単に入手できる」とインターネット上で有名になり、「リタラー」と呼ばれる依存者の間では、「東クリの純ちゃん」と、元院長の応援サイトまで作られるほど。20~30代の若者やサラリーマンを中心に多い時で1日約200人が訪れた。
診療内容には苦情や相談が絶えなかった。新宿区保健所によると、05年3月~今年8月、「息子がリタリン依存になった」「覚せい剤を販売するかのようにリタリンを処方している」など39件の苦情が寄せられた。保健所はリタリンの処方を見直すよう4回も行政指導したが、改善されなかった。
事態を重く見た都と保健所は9月、医療法違反(不適切な医療の提供)の疑いで、立ち入り検査を実施。提出を受けたカルテの写しなどを基に診療実態について説明を求めた。都や保健所によると、伊澤元院長は「きちんと診察して処方している」と説明したが、カルテには本来記載すべき病状や経過などがほとんど書かれていなかった。
うつ病のほか、ナルコレプシー(睡眠障害)でも多数処方していたが、診察室には診断に必要な脳波の測定機器はなく、「患者の自己申告だけで処方した」と、適切な診察をしていなかったことを認めたという。立ち入りした担当者の一人は「カネになるレセプト(診療報酬明細書)だけはきちんと記載しているが、カルテはほぼ真っ白。こんなカルテが認められるのなら、医療という名の下で何でもできてしまう」と憤る。
◇「テクニックあるから可能」--元院長・一問一答
伊澤純元院長は10月に毎日新聞の計4回の取材に対し、「一目見ただけでその人の性格が分かる」などと、多数の患者を診察するテクニックなどを説明していた。主な一問一答は以下の通り。
--どうして一日200人もの患者を診察できるのか。
◆テクニックがあるんだよ。一発で分かるんだ。(取材した2人の記者を指さし)あなたの性格から、あなたの性格まで。
--じゃあ、私の性格を教えてくださいよ。
◆有料、有料。
--(保険証を見せ)診察してもらえるんでしょう。
◆病気でないのに、取材のために不正に保険証を使えば法律違反になる。社会問題ですよ。
--十分な診察をせずにリタリンを処方していると批判されているが。
◆……
--医療法などの違反はないということか。
◆(何度もうなずく)
毎日新聞 2007年11月16日 東京夕刊