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ゆがむ医療:’08米大統領選/4 「コンシェルジュ」増加

 ◇24時間対応、追加費最高年15000ドル

 14日夕、米東部メリーランド州ボルティモアにあるスティーブン・グラッサー医師のクリニックで、携帯電話が鳴った。薬に関する女性患者からの問い合わせだ。通常の診療時間後だが、グラッサー氏は丁寧に服用量を説明し、電話を切った。「患者にはいつでも連絡して、と伝えています」

 25年以上家庭医として地元住民の健康に気を配ってきたグラッサー氏だが、04年に「コンシェルジュ医療」と呼ばれる業務形態に転じた。ホテルで宿泊客のあらゆる求めに応えて接客するコンシェルジュのように、かゆいところに手が届く医療サービスを提供する。

 24時間対応。当日か翌日の診察。人間ドックの結果に基づく予防指導--。いずれも通常の医療保険ではカバーされず、1人当たり年1500ドルの費用が別途必要。診療まで何日間も待たされ、診察時間は10分未満といった一般病院への不満から生まれた医療形態だ。患者のアーノルド・フランクさん(63)は「いつでも医師に相談できる安心感がいい」と話す。

 グラッサー氏は診療時間を確保するため、4000人以上受け入れていた患者を600人に絞り込んだ。基本的に保険料の他に追加費用を負担できる人たちで、同氏の収入は「以前の倍」に。「医療の質を高めた満足感もある」と話す。

 米国では今、こうした医療形態が増えている。05年会計検査院調査によると、コンシェルジュ医療の追加費用は最高年1万5000ドル。業界の推定では250~500人の医師が10万~15万人程度の患者を抱えている。

 コンシェルジュ医療への転換を支援するMDVIP社(フロリダ州)は傘下に200人以上の医師を擁する。グラッサー氏も同社と契約している。最高経営責任者のエドワード・ゴールドマン医師は「予防重視の診療体制づくりは(国内総生産の16%近くを占める)医療費の削減にも役立つ」と主張。「これこそ医療が向かうべき方向だ」と胸を張る。

 一方で、コンシェルジュ医療には「貧困患者の放棄につながる」「富裕層との医療格差を広げる」との批判もある。

 米家庭医学会のジム・キング会長は「家庭医不足の深刻化が予想されるだけに、患者数の制限は問題だ」と指摘。ペンシルベニア大のアーサー・カプラン教授(生命倫理)は「本来医師が提供すべきサービスに追加費用が必要とされること自体、医療制度の破綻(はたん)を示している」と手厳しい。【ボルティモアで和田浩明】=つづく

毎日新聞 2007年11月16日 東京朝刊

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