銀行との上手な付き合い方と賢い資金繰り
第5回
   
著 者:錦織良光
掲載月:2006年05月
  


第5回 設備投資と資金繰り

 今回は設備投資と資金繰りについて考えていきます。


1)設備投資と資金繰りの悪化

会社が成長していく過程で避けられないのが設備投資です。しかし、設備投資をする際には、慎重な事業計画・資金繰り計画が必要です。なぜならば、設備投資をすれば、かなり高い確率で「資金繰り」が悪化すると考えられるからです。

 設備投資の場合、その投資がどの程度の「キャッシュ」をどの「時期」から生み出してくれるのかを考慮しなければなりません。


 一般的に、設備投資の効果が「キャッシュ」として現れるまでには、相当な期間が必要ですが、その投資によって増額が予想される一般管理費(例えば水道光熱費、租税公課、修繕費等、−場合によっては人件費)もありますから、その間を持ちこたえられる「資金繰り」計画が重要です。

 更に、その投資を金融機関からの融資による場合には、その返済金額による資金繰りの悪化は目に見えています。



 又、設備投資は文字通り「投資」ですから、そこにはリスクが存在します。計画通りの「キャッシュ」が得られない場合や「経費削減」ができない場合もあります。

 設備投資をする時には、「全ての事情を考慮した」計画を立てる必要があるのです。


2)設備投資の判断

 とはいえ、必要な設備投資は行なわなければなりません。要は、設備投資の内容を十分に検討し計画すれば良いのです。

(1)設備投資の金額抑制

 投資する設備が、自己所有でなければならないのかを判断しましょう。「賃借物件」として十分利用できる種類のものであれば、「賃借」も投資の判断基準に含め、所有と賃借とのメリット・デメリットを判断しましょう。

(2)投資の優先順序

 投資は、まず本業に関するものから検討し、その中でも「キャッシュ」を生み出すものを優先しましょう。綺麗な本社ビルは見栄えが良く、場合によっては信用力を高めてくれるかも知れませんが、それが「キャッシュ」を生み出してくれるかは疑問です。

(3)投資の効率

 設備投資も「投資」ですから、利回りを重視しましょう。「投資資本利益率」「投資回収期間」更に「DCF(ディスカウント・キャッシュフロー)」を計算して、その投資の効率を判断しましょう。

(4)融資を受ける時の判断

 理想的な設備投資は、会社の内部留保資金(自己資金)で行なう事です。設備投資による資金繰りの悪化を考えた場合、一番良い方法は「返さなくても良い現金」、つまり自己資金を投資にあてることです。とはいえ、中小企業に設備投資に振り分けられる程の十分な自己資金があるということも考えづらいですから、銀行からの融資で補うというのが実際でしょう。

 銀行から融資を受ける場合は長期の借入金になります。短期(返済期間1年以内)の融資では、返済期間中に設備投資額の回収などできるわけがなく、逆に、設備投資に伴う一般管理費の増額によって資金繰りが悪化している真っ最中ですので、借入金の返済は無理です。

 従って、設備投資をした資産の法定耐用年数を考慮して、その年数以内での返済を考えましょう。

 なお、融資を受けてまで行なう設備投資は、必ず「キャッシュ」を生みだす投資にすべきです。そうしなければ返済金額分だけ、返済期間中、絶えず資金繰りを圧迫します。キャッシュを生み出さない設備投資には、自己資金を使用しましょう。


3)減価償却と税負担

 多額の設備投資は、減価償却費の増額につながります。減価償却費の決算書への計上は実際に現金の支出を伴わない経費の計上です。資金繰りに影響しないこの経費の計上は、「税負担」という現金の支出に大いに影響を与えます。

 資金繰りを考慮する上で、この点を忘れてはいけません。

 以上、設備投資と資金繰りについて述べてきました。次回は資金繰りの総まとめと私募債について考えてみます。