なお、「役に立つ管理会計」というキーワードは、前にも出したことがあります。「ERPパッケージの研究(2)」のシリーズで、レポートのタイトルにしました。今回の議論は、それを深める部分と広げる部分があります。
次に2点目です。売上はあがったもののお金がもらえないという状況を、キャッシュフローではまだ評価せず、利益では評価します。もし、そのままもらえないとしても、利益はそのままです。そして、いよいよもらえないことが確定すると、おもむろに利益を減らします。このことから、期末の押し込み販売が起こります。お金をもらえなくても、期末時点で売上を立てておこうと言うことです。この努力は、自社にとっては意味がないし、お客にとっては迷惑この上ないということになります。キャッシュフローであれば、入金されなければ業績になりませんから、期末時点で売れたことにしておくという努力がまったく無意味になります。
もう一つ顕著な違いに在庫処分があります。廃棄するしかない不良在庫をいつ廃棄するかという判断です。利益ベースであれば、在庫は売れるはずのものとして資産に計上されており、廃棄した時点で損失になります。今期廃棄するか、もうしばらく持っておくかという判断は重要です。キャッシュフローでは、不良在庫はすでにマイナス評価されており、いつ捨てても同じです。キャッシュは動かないのですから。不良在庫をいつ捨てようかと悩むこと自体が意味のないことなのです。
さらに、3点目の設備投資です。減価償却費の見方です。
すでに行った投資について、減価償却費は経営判断の材料にはなりません。減価償却費は計算上の費用で、減価償却費を増やしたり減らしたりすることは計算上の問題で、実務と関係ありません。一方、これから行おうとする投資は、儲かるか儲からないかを厳密に見極めて判断しなければなりません。そのとき、その設備の計算上の耐用年数が何年であるかは関係ありません。「5年償却だから6年目から利益が出る」という計算はする意味がないのです。投資をするのは今年であり、その後のリターンは入出金の差(すなわちキャッシュフロー)として獲得していくのです。
業績評価基準としてキャッシュフローを導入するときに、最も重要な概念が「フリーキャッシュフロー」です。今期の事業活動で得たキャッシュを事業継続のための設備投資に充て、税金を払い、借金の金利を払い、その上で残ったお金が「フリーキャッシュフロー」で、これで借金を返したり、株主に配当したりします。フリーキャッシュフローがマイナスであれば、借金をしなければならないかもしれません。
フリーキャッシュフローは、営業活動によるキャッシュフローから設備投資を差し引いたものです。営業活動によるキャッシュフローは、事業の効率を見る重要な指標の一つとなります。営業活動によるキャッシュフローの売上高(キャッシュフローベース)に対する割合を「キャッシュフローマージン」といいます。週刊ダイヤモンドの10/23特大号に「全上場2206社『連結実力』ランキング」という特集記事があり、「連結実力」の指標の一つにキャッシュフローマージンを使っています。しかし、キャッシュフローマージンは事業の形態によってずいぶん違うレベルが求められます。設備投資の大きな事業は、キャッシュフローマージンが大きくならざるを得ません。業種・業態に関係ないランキングには適切な指標ではないように思います。
従来から使われてきたROAやROEをキャッシュフローベースに置き換えることもできそうです。本稿を書こうとしたのは、これについての記述を目指したのですが、落ち着いて考えないと間違えそうなので、後日完成させることとします。
部門別キャッシュフローは相変わらず必要でしょう。事業を管理可能な単位に細分化したのが「部門」であり、部門が戦略の単位であり、それゆえに評価単位でもあります。しかし、その「部門」はそれぞれがビジネスとしての単位になっている必要があります。「営業部門と製造部門と・・・」というような分け方ではなく、利益センターとして分類されている必要があるのです。
利益センター別のキャッシュフロー予算を編成し、実績との比較で管理していくことになりますが、そのときの本社機能(=間接部門)の扱い方が問題です。従来は、売上比などで本社経費を各部門に配賦していた例が多いと思いますが、むしろ本社機能をオーバーヘッドとして別管理にする方が良いのではないでしょうか。というのは、どの部門も同様の売上高利益率を実現できるとは限らないし、それを期待することは戦略の選択範囲を無意味に狭めてしまうと考えるからです。