(cache) レポート:<役に立つ管理会計>キャッシュフロー管理の導入

<役に立つ管理会計>

キャッシュフロー管理の導入

1999年11月7日


 最近たまたま、私の周辺で管理会計談義が盛んです。私の回りにいる若い人たちが、一生懸命に管理会計を勉強しています。彼らと私の間で交わされた会話からヒントを得て、これからのシリーズを進めていきたいと思います。

 なお、「役に立つ管理会計」というキーワードは、前にも出したことがあります。「ERPパッケージの研究(2)」のシリーズで、レポートのタイトルにしました。今回の議論は、それを深める部分と広げる部分があります。

利益からキャッシュフローへ

 業績を利益で測るのとキャッシュフローで測るのとの違いがいくつかあります。  まず1点目について解説します。売上が一定で在庫が増えるというのは、一般には「悪いこと」です。在庫を増やすためには、作るなり仕入れるなりしなければならないので、お金が要るのです。一定の売上であれば、より多くのお金が要るという仕事のやり方は減点なのです。キャッシュフローを見ていれば、在庫増がマイナスの評価になります。ところが、利益の場合は在庫増減が反映されません。それどころか、以前に「<サプライチェーン発想>何をもって良しとする?」でご報告したように、利益は在庫が増えると増えてしまうこともあるのです。

 次に2点目です。売上はあがったもののお金がもらえないという状況を、キャッシュフローではまだ評価せず、利益では評価します。もし、そのままもらえないとしても、利益はそのままです。そして、いよいよもらえないことが確定すると、おもむろに利益を減らします。このことから、期末の押し込み販売が起こります。お金をもらえなくても、期末時点で売上を立てておこうと言うことです。この努力は、自社にとっては意味がないし、お客にとっては迷惑この上ないということになります。キャッシュフローであれば、入金されなければ業績になりませんから、期末時点で売れたことにしておくという努力がまったく無意味になります。
 もう一つ顕著な違いに在庫処分があります。廃棄するしかない不良在庫をいつ廃棄するかという判断です。利益ベースであれば、在庫は売れるはずのものとして資産に計上されており、廃棄した時点で損失になります。今期廃棄するか、もうしばらく持っておくかという判断は重要です。キャッシュフローでは、不良在庫はすでにマイナス評価されており、いつ捨てても同じです。キャッシュは動かないのですから。不良在庫をいつ捨てようかと悩むこと自体が意味のないことなのです。

 さらに、3点目の設備投資です。減価償却費の見方です。
 すでに行った投資について、減価償却費は経営判断の材料にはなりません。減価償却費は計算上の費用で、減価償却費を増やしたり減らしたりすることは計算上の問題で、実務と関係ありません。一方、これから行おうとする投資は、儲かるか儲からないかを厳密に見極めて判断しなければなりません。そのとき、その設備の計算上の耐用年数が何年であるかは関係ありません。「5年償却だから6年目から利益が出る」という計算はする意味がないのです。投資をするのは今年であり、その後のリターンは入出金の差(すなわちキャッシュフロー)として獲得していくのです。

キャッシュフロー基準の経営指標

 初めてキャッシュフロー計算書を作ったときに、最下段に計算される現金の増減を評価結果としてみてしまう人がいます。これは間違いで、キャッシュフローではキャッシュが増えることを良しとしているわけではありません。逆に、遊んでいるキャッシュが増えたのだとしたら、それはよいことではありません。

 業績評価基準としてキャッシュフローを導入するときに、最も重要な概念が「フリーキャッシュフロー」です。今期の事業活動で得たキャッシュを事業継続のための設備投資に充て、税金を払い、借金の金利を払い、その上で残ったお金が「フリーキャッシュフロー」で、これで借金を返したり、株主に配当したりします。フリーキャッシュフローがマイナスであれば、借金をしなければならないかもしれません。

 フリーキャッシュフローは、営業活動によるキャッシュフローから設備投資を差し引いたものです。営業活動によるキャッシュフローは、事業の効率を見る重要な指標の一つとなります。営業活動によるキャッシュフローの売上高(キャッシュフローベース)に対する割合を「キャッシュフローマージン」といいます。週刊ダイヤモンドの10/23特大号に「全上場2206社『連結実力』ランキング」という特集記事があり、「連結実力」の指標の一つにキャッシュフローマージンを使っています。しかし、キャッシュフローマージンは事業の形態によってずいぶん違うレベルが求められます。設備投資の大きな事業は、キャッシュフローマージンが大きくならざるを得ません。業種・業態に関係ないランキングには適切な指標ではないように思います。

 従来から使われてきたROAやROEをキャッシュフローベースに置き換えることもできそうです。本稿を書こうとしたのは、これについての記述を目指したのですが、落ち着いて考えないと間違えそうなので、後日完成させることとします。

部門別キャッシュフロー計算について

 管理会計にキャッシュフローを使おうとすると、部門別、製品別のキャッシュフローを作りたくなります。損益計算でも同様なのですが、部門別、製品別に計算するためには相当の工夫が必要です。つまり、配賦計算です。管理会計を再構築するのであれば、それぞれの切り口の必要性を再検討することをお奨めします。また、これまでやっていない新しい切り口が必要になっていないか、再検討してみましょう。
 私が思うに、製品別損益という考え方はすでに必要性がずいぶん小さくなっていると感じます。というのは、製品が多様化し、製造設備の稼働率もかなりの変動があります。かつてのように一つの製造ラインで限られた品種の製品を生産し、稼働率がかなり高いレベルで推移しているのであれば、製品別損益も意味があります。しかし、今の時代に製品別損益を把握するとなると、配賦計算が複雑になる上、稼働率の変動への対応を考えなければなりません。
 逆に、これまであまり重視されていなかった顧客別の評価が重要性を増しています。重要顧客を識別し、マーケティング戦略に重要顧客を位置づける必要性が増しているからです。

 部門別キャッシュフローは相変わらず必要でしょう。事業を管理可能な単位に細分化したのが「部門」であり、部門が戦略の単位であり、それゆえに評価単位でもあります。しかし、その「部門」はそれぞれがビジネスとしての単位になっている必要があります。「営業部門と製造部門と・・・」というような分け方ではなく、利益センターとして分類されている必要があるのです。

 利益センター別のキャッシュフロー予算を編成し、実績との比較で管理していくことになりますが、そのときの本社機能(=間接部門)の扱い方が問題です。従来は、売上比などで本社経費を各部門に配賦していた例が多いと思いますが、むしろ本社機能をオーバーヘッドとして別管理にする方が良いのではないでしょうか。というのは、どの部門も同様の売上高利益率を実現できるとは限らないし、それを期待することは戦略の選択範囲を無意味に狭めてしまうと考えるからです。


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魚谷幸一 http://homepage3.nifty.com/uotani/
Last update 1999-11-8 字句訂正(かなり大きな間違いもありました)