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どうする地方

産科医不足

[直言直論]報酬優遇で支援を


 分娩を扱う病院の38%では常勤産科医が2人以下で、過酷な勤務を強いられている。疲弊した末に辞職して開業するケースも多く、現場に残った医師の負担がさらに重くなる悪循環が繰り返されている。産科医療が崩壊しつつあると警告する専門家は多い。

 産科医がこれほど減った要因の一つは、若手医師が産科を嫌う傾向が高いからだ。その背景には産科特有の不利な条件がある。

 出産は昼夜を問わないうえ、妊娠経過が順調でも、出産直前に予想外の異変が起きることがあり、勤務が不規則で激務になりがち。その割には報酬面で恵まれていない。さらに、出産は安全なものという思い込みが国民に定着しているせいか、医療事故が起きると訴えられるリスクが高い。医師1000人あたりの訴訟件数は外科より多く、麻酔科の5倍にのぼる。

 産科医不足を改善できる効果的な対策はあるのか。厚労省が都道府県による緊急対策として打ち出した集約化・重点化構想は、大都市近郊や地方都市など産科医が一定数残っている地域では、ある程度の効果が見込まれる。妊婦にとっては出産できる近くの病院が消える場合もあるが、やむを得ない当面の措置といえる。都道府県は早急に進めるべきだ。産科婦人科学会も同様の提言をしている。

 しかし、問題はへき地。現状維持もおぼつかない地域が多い。厚労省が、都道府県だけでは対応しにくい緊急対策として計画中の医師派遣(紹介)システムや女性医師バンク、助産師の活用制度などの実現を急がなければならない。

 こうした対策と並行して、現場で孤軍奮闘してくれている産科医の士気を保つ必要がある。その気になれば今すぐできる支援策は、報酬を他の診療科より格段に優遇することだ。その財源の一つと考えられるのが分娩料の大幅な値上げ。実現への条件整備として、産科婦人科学会は出産育児一時金(現行35万円)の引き上げを求め、60万円程度が適当としている。

 人口減少社会を食い止めるには産科医療の再構築が欠かせない。国や自治体はそのための予算を思い切って増額すべきではないか。

主任調査研究員 傍島茂雄
2006年12月14日  読売新聞)
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