助産師パワー活用…宮城・白石
わが子に沐浴をさせる佐藤さん夫妻。左は助産師の渡部輝子さん(宮城県白石市の公立刈田綜合病院で)
「お父さん、次はほっぺをふいてあげて」。助産師の渡部輝子さんに抱かれ、生後初めての沐浴(もくよく)を体験する赤ちゃん。父親の佐藤聖さんがガーゼで顔を優しくなでると、気持ちよさそうな表情を見せた。そばで妻の春美さんがほほえみながら見守った。
公立刈田綜合病院(宮城県白石市)が昨年10月から、東北地方で初めて開設した院内助産所「マタニティーホーム」で誕生した9人目の新生児だ。春美さんは「15年ぶりのお産で、予定日より遅れて不安でしたが、助産師さんが体位や足の踏ん張り方を丁寧に教えてくれてリラックスできました。100%満足です」と振り返った。
同病院では妊娠20週目で、正常妊娠であり自然分娩が可能と診断された妊婦に、医師に診てもらいながら産むか、助産ケア中心の院内助産所にするかをまず選んでもらう。助産所を希望すれば、その後は専任助産師の渡部さん、遠藤文子さん、梶川里子さんがほぼマンツーマンで対応、腹部計測などの定期的な健康診査を担当する。
入院は陣痛が始まってから。トラブルが起きる恐れがありそうな場合を除き、産科医は出産に立ち会わない。お産は陣痛室に敷いた3畳間のふとん上で。3人は妊婦の体位を変えたり手足を支えたりして赤ちゃんが産声を上げるまで介助する。自然分娩だから、夜間や未明の取り上げもしばしばで付き添いが1日以上になることも。出産後は母親が赤ちゃんに添い寝し、母乳をいつでも与えられる。
同ホームでは妊婦の主体性を第一に考え、妊婦自身が立てたバースプランの希望がかない、自分で産んだと実感できるようにサポートしている。3人のケアに対し「非常に心強かった」「夫と家族が立ち会えて感動の出産だった」などの感謝の声が寄せられている。
同病院産婦人科では、医師が水上端(ただし)部長(62)だけの「1人医長」体制が15年間も続いている。水上部長は診療や手術に加え、夜間救急患者の治療も担当し24時間のオンコール(待機)状態を強いられている。院内助産所は、水上部長の激務の緩和と、減少気味の分娩数の増加を目的に導入された。しかし、助産所出産の割合は今のところ、同病院での年間分娩数(約100件)の約10%足らず。負担軽減にはまだあまり役立っていないのが現状だ。
産科医をすぐ増やせる妙案がない中で、助産師パワーを活用する院内助産所や助産師外来の開設は、産科医不足を緩和する効果的な対策の一つといえる。岡崎肇院長は「自然出産できる院内助産所のよさを広くアピールして助産所出産を増やしたい。他の公立病院でも院内助産所の導入を考える時期に来ているのでは」と提言する。
(2006年12月14日 読売新聞)