病院・診療所で分担…静岡・浜松
大谷嘉明医師
静岡県浜松市の県西部浜松医療センター産婦人科の外来待合室。他の病院なら患者が詰めかける午前中でも閑散としている。スペースも通常の3分の1ほど。妊婦健診などの通常診療は周りの診療所にまかせて、出産は同センターでと役割を分担する「オープンシステム」が定着しているからだ。
同科の医師5人が外来を担当するのは週各1〜2回だけ。「診療所との連携のおかげで、外来にあてる手間暇を省けて体力を温存でき、リスクの高い入院患者や深夜の救急患者の診療に打ち込める。その分、医療の安全性が高まる」。前田真・周産期センター所長(54)は、システムの利点を説明する。
同センター産婦人科(30床)では、赤ちゃんの約70%が同システムで生まれ、このうちハイリスク妊婦約220人の出産も無事故でこなしている。年間出産件数(約1100)は前田医師が赴任した12年前の5倍に増加、救急患者も愛知県東部から神奈川県小田原市付近までカバーし、24時間受け入れている。浜松市内では、このシステムが1990年代後半から普及し始め、産科を持つ6病院すべてが診療所にベッドを開放している。
患者はまず診療所を受診。正常出産が見込めれば、そのまま診療所で定期健診を受け、陣痛が始まると、事前に決めておいた病院に入院する。初診や健診時にリスクの恐れがわかれば、診療所の紹介で医療センターなどへ入院。原則として院内主治医と、紹介した開業医が院外主治医として共同で診療する。予定された帝王切開など比較的簡単な手術は院外主治医が執刀、前置胎盤など難しい手術は共同であたることが多い。
同センターから約1キロ離れた「おおたにレディースクリニック」院長、大谷嘉明医師(50)は、11年前の開業と同時に同センターと連携を始めた。
分娩設備を持たず、年間500件近い出産はほとんど同センターにまかせるが、全面委託ではなく、外来診療を終えた午後8時過ぎから毎日欠かさず同センターへ出向いて自分の患者(約10人)を約1時間かけて回診する。手術が必要になれば、火、金曜の午後に執刀。センターの産科医が助手を務め、麻酔医や看護師が支援する。
大谷医師は「診療と分娩を1人で担当するのは心身の負担が大きく、診療に集中できるのはすごくありがたい。手術の際は信頼できるスタッフと高度な医療機器に囲まれ、難産にも安心して取り組めて手術の腕を保てる」と話す。
地方でも産科医が4〜5人以上いる受け入れ病院が近くにあれば、オープンシステムを運用できると大谷医師は見る。可能な地域では導入を進めてはどうだろう。
(2006年12月14日 読売新聞)